健康経営や従業員の健康管理に注力する企業が増えている昨今、注目されているのが、これまで可視化されていなかった「プレゼンティーズム」です。 プレゼンティーズムとは従業員の健康状態が原因となり、パフォーマンスを損なっている状態を表します。
どの会社でも発生するリスクがあり、プレゼンティーズムによるメリットはひとつもないとされています。健康経営や生産性向上を追求するためには、プレゼンティーズムに対する十分な予防施策が必要です。
今回は、プレゼンティーズムについて、そして組織にどのような影響を与えるのかも含めて解説します。
この記事の目次
プレゼンティーズムとは
プレゼンティーズムとは、従業員が抱えている健康問題により業務へ向かう集中力や生産性を損ねている状態を指します。
よくある事例だと、慢性的な頭痛・肩こり・腰痛や花粉症による集中力の低下が挙げられます。大きな病気ではないので就業すること自体には問題がないものの、注意力が散漫になったり業務のスピードが落ちたりする傾向があります。
また、残業が続いて疲労が蓄積していたり、ノルマなどのプレッシャーがのしかかってメンタルヘルスが安定しなかったりする状態もプレゼンティーズムの一種です。
アブセンティーズムとの違い
プレゼンティーズムに似た言葉として、アブセンティーズムがあります。いずれも健康問題による被害が出ているという点では同一です。
アブセンティーズムは、プレゼンティーズムがより深刻化した状態です。早退・遅刻・欠勤・休職など、目に見えて異変が起きているのが特徴です。時間・期間の長短を問わず「業務ができない状態」を指すのがアブセンティーズムであり、個人にとっても企業にとっても大きな損害となります。
プレゼンティーズムが企業に与える影響は大きい
プレゼンティーズムの発生は、生産性の低下やミス・クレームの増加につながります。集中力を欠いた状態で就業していると、重要な情報を見落としてミスが発生しかねません。クレームにつながるような大きなミスでなくても、社内で支障が出たりして生産性を損ねることもあるのです。
ミスの多い状態が続けば従業員同士の信頼関係にもヒビが入り、連携ミスによる更なるトラブルや、部署間の縄張り意識の助長につながるおそれもあります。
プレゼンティーズムは本人を悩ませるだけではなく、さまざまな面で企業にも大きな影響を与える問題です。
企業が取り組むべきプレゼンティーズム対策
ここからは、企業が取り組むべきプレゼンティーズム施策をご紹介します。
最も大切なのは自社の課題や目的に合わせて施策を考案することです。下記はあくまで一例として、対処法を検討するときの参考にしてみてください。
健康経営の推進
健康経営を推進し、従業員の健康を維持・増進するように努める方法があります。具体的な方法は、健康診断やストレスチェックの実施、就業前後に体操の導入、フィットネスジムや健康系アプリ利用料の補助などです。
ほかにも塩分や野菜の量に配慮した社食メニューの提供、睡眠管理アプリの導入なども健康経営施策のひとつです。
従業員同士でサポートしあえる環境の構築
従業員同士で声を掛け合い、サポートする環境の構築もプレゼンティーズム対策として有効です。「昨日も長く残業していたし今日は早めに上がったら?」と声をかけたり、業務を手伝うなどサポートしたりすれば、過労によるプレゼンティーズムを防げます。
お互いの健康に気を遣いながら働く環境があれば、会社の居心地も良くなり一石二鳥の効果が期待できます。
ハラスメントへの理解を深める
ストレスやメンタルヘルス悪化の原因となる言動の予防を目的に、ハラスメント教育を導入する企業が増えています。管理職やマネージャーを対象にハラスメント対策セミナーを開催したり、従業員向けに「問題に気付いたらどうすれば良いか」を指導したり、さまざまな施策が考えられます。
ハラスメントを相談された側に対する教育も行い、加害や被害を起こさせない・無視しない組織づくりをしていくことが大切です。
相談できる機会を作る
社内相談窓口の設置や匿名によるアンケートなどを行い、相談できる場を提供するのもおすすめです。本社人事部など匿名性が維持できる相談先を確保したり、産業医など事業場内保健スタッフの力を借りたりする方法もあります。
万が一、自分や同僚の不調に気づいたときの対処法を増やし、放置しない意識づけを行いましょう。
プレゼンティーズムの改善で得られる効果
プレゼンティーズムを改善することにより、企業は下記のようなメリットを得られます。
・生産性が向上する
・快適な社内コミュニケーションを促進できる
・採用市場での注目度が上がり、優秀な人材を雇用しやすくなる
・投資市場での注目度が上がり、資金調達が容易になる
特に近年は、健康経営に積極的な企業が投資市場で評価されるようになっています。出資時に企業の業績だけではなく、人材管理手法を重視する投資家が増えました。
企業活動を安定して維持するには従業員の健康が欠かせないという視点を持ち、対策することが大切です。
プレゼンティーズムやアブセンティーズム改善に関する事例
ここではプレゼンティーズムやアブセンティーズムの改善に積極的な企業事例をご紹介します。
企業ごとに施策もさまざまなので、参考にしつつ自社と相性の良い改善策を模索することが重要です。
ヘルスリテラシー向上施策の実施
ある企業では、健康診断受診率100%を達成しています。健康について学ぶeラーニングの利用実績に合わせてポイントを付与するなど、従業員にとってインセンティブとなる取り組みも開始しました。参加意欲をくすぐる取り組み内容は、ヘルスリテラシー向上施策としても有効な手法といえます。
従業員だけでなくその家族までを対象にした生活習慣改善セミナーを開催するなど、独自の動きも続けているのが特徴です。
運動不足解消を図る社内設備を設置
業務の合間に気軽に利用できるボルダリングウォールをオフィス内へ設置している企業もあります。日頃の運動不足を補うだけでなくストレス解消の効果も発揮されており、会社にいながら息抜きできる場として注目されるようになりました。
ボルダリングウォール周辺に人が集まることで部署の壁を越えた社内コミュニケーションが生まれるなど、副次的な効果も出ています。
従業員の健康増進・保持に向けた取り組み
健康経営優良法人に3年連続で認定されている企業です。従業員に対する健康増進・保持施策が高く評価されています。
定期健康診断後の結果を踏まえた保健指導の実施による従業員の健康増進を図る取り組みを行っています。また、婦人科健診・検診への補助を実施したり、生理休暇を取得しやすい環境を整備し、女性の健康保持に向けた取り組みにも注力しています。
運動・睡眠・食事に焦点を当てた取り組み
運動・睡眠・食事の3つで従業員の健康を後押しする取り組みを始めている企業もあります。睡眠の質・時間を可視化できるウェアラブル端末を従業員に配布したり、年齢や代謝に応じた適切な食事内容を情報提供したりしています。
特定分野に限定せずさまざまな活動をしている事例であり、自分が抱える課題に合わせて上記の福利厚生を組み合わせながら使えるのも利点です。
まとめ
プレゼンティーズムが生じると、個人だけでなく企業にとっても大きな痛手となります。原因が不明なミスやクレームが相次いだり、アブセンティーズムに発展して休職社員数が増えたりすることも想定されます。
まずは自社の課題を浮き彫りにしたうえで、できることからプレゼンティーズム対策に取り組むことが大切です。普段からマネジメント層が部下の健康状態に配慮しながら声をかけたり、会社の施策を形骸化させないよう継続してアプローチし続けたりすることも有効です。
健康診断やストレスチェックの実施など義務化されていることはもちろん、ほかの視点でもできることがないか探っていくことがポイントです。