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人事マネジメントで耳にする「人材ポートフォリオ」とは
人材ポートフォリオは、企業の経済活動を最大化するための必要な人材や人員数、適切な人事配置などの構成を考える際に用いられる手法です。
具体的には、「いつ」「どこに」「どのような人材を」「何名ほど必要か」を分析して、人材ポートフォリオを作成します。採用計画や人事評価など、さまざまな目的に応じて作られることもあります。
人材ポートフォリオが必要とされる理由
人材ポートフォリオが必要とされる背景には、人的資本の浸透があげられます。人的資本とは、人材の価値を最大限に引き出して、中長期的に企業の成果を向上させる経営方針のことです。
関連記事:人的資本とは何か。注目される背景や人的資本を高める方法を解説
人的資本を高めるための施策として、雇用形態の変化や少子高齢化、グローバル化に伴い、個々人に応じた働き方が重視されるようになりました。
多様な人材を活用して成果をあげるためには、一人ひとりに合わせた待遇や働き方を設計して、組織の最適化を図る必要があります。その人事マネジメントを円滑にするためのツールとして、人材ポートフォリオが注目されているのです。
人材ポートフォリオの作成で見込める効果
人材ポートフォリオを取り入れることによって具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。この項目では、4つの効果を紹介します。
人材を適材適所に配置できる
社員一人ひとりの特性に応じた部署配置が可能です。人材ポートフォリオを作ると、社員のスキルや個性、キャリアビジョンが明らかになります。その可視化された情報をうまく活用することで、効率的な人事配置ができます。
また、自社の社員の特性を明確化することで、これまで見落としていた「思考のクセ」や「考え方の偏り」「意外な能力」に気付ける可能性があります。特性を生かせるポジションを与えることで、飛躍的な成長やモチベーションの向上も期待できるでしょう。
キャリア形成を支援できる
人材ポートフォリオを作成する際、従業員一人ひとりのキャリアプランについても把握しておくことが大切です。キャリア形成の考え方を把握することで、会社主体の人材配置だけでなく、個人に合わせたキャリア支援もできるようになります。
個人のキャリアプランを考慮することで、希望に合わせた研修の実施や人材配置が可能です。従業員エンゲージメントを高めるのにも役立つでしょう。
人材過不足のマネジメントに役立てられる
人材ポートフォリオは、どのような能力の人物が不足しているのか、あるいは偏っているのか、人材の過不足を把握するのにも有効です。
自社の人材を適切に把握することで、採用計画や人材育成計画に役立てられます。また、必要に応じて雇用や育成、雇用形態の見直しを行うことで、効率良く人材を活用でき、コスト削減にもなるでしょう。
人材ポートフォリオの基本的な作成手順
人材ポートフォリオはどのように作成するのか、基本的な作成手順を解説していきます。
経営戦略における目標を明確にする
初めに取り組む必要があるのが、経営戦略に基づいた目標の設定です。各部署にどのような人材がどのくらい必要か、経営戦略で達成したい目標に合わせて人材戦略を検討します。
人材ポートフォリオの作成単体で考えるのではなく、経営戦略と人材戦略とを結びつけて作成することが重要です。
人材を分類する方法を考える
人材ポートフォリオでは、どのような人材が配置されているか把握する必要があります。そのためにも、企業において必要な人材タイプの分類が重要です。
人材タイプ分類の代表的な例として、次に挙げる業務形態や雇用形態によって人材を分類する方法があります。なお、各企業で必要な人材タイプは異なるため、ここで取り上げる分類方法に限らず、自社に合ったものを選定するようにしましょう。
業務形態をタイプで分ける場合
会社の業務の性質で人材タイプを分類する方法です。例として、「個人・組織」と「創造・運用」の2軸4象限に分類する方法があります。
これは、個々で仕事をするのか、チームで仕事をするのか、また、創造性のある仕事をするのか、既存の流れで仕事をするのかということです。
例えば、個人×運用であれば、コツコツと正確な作業を得意とする人材を分類します。
雇用形態でタイプを分ける場合
雇用形態で分類する方法もあります。分類例としては、「総合職・専門職」と「常時雇用・臨時雇用」の2軸4象限で分ける方法などが考えられるでしょう。
従業員に当てはめて現状分析する
実際に自社の人材がどの領域に当てはまるか分類していきます。評価する人物の主観が入りやすくなるため、適性検査を実施するなどできるだけ客観性のあるデータを使用して分類することが大切です。
人材の過不足の分析をする
人材の分類データをもとに、本来必要な人材と比較し、過不足や人材の偏りがないか分析します。これにより、総合職は多いものの専門職が少ない、現場の人材が多くマネジメント人材が足りないなど、経営戦略や人材戦略を実施するための課題が見えてくるでしょう。
人材の過不足に対する改善案を立案・実施
自社の人材過不足を把握できたら、経営戦略に基づいた目標に必要な人材戦略のため、人材過不足に対応するための改善策を考えます。
採用や人材の育成、配置転換など、それぞれが自分の特性を生かして活躍できるように、できるだけ今いる人材を生かした施策を立てるようにしましょう。
人材ポートフォリオを作成するときの注意点
人材ポートフォリオを作成するうえで注意したいポイントを紹介します。
雇用形態を限定しない
人材ポートフォリオを作成するときは、雇用形態を限定せずに作成しましょう。正社員だけにするなど、雇用形態によって人材の偏りがあるときは、人材配置や必要な人材を正確に判断できなくなります。
経営戦略を念頭に置いて作成する
人材ポートフォリオを作成する際は、経営戦略も取り込んで人材配置を考えるようにしましょう。経営戦略の方向性と合わせることで、企業の方向性に一貫性が出てきます。
人材の分類を考えるところから経営戦略を念頭に置き、必要な人材タイプを検討するようにしましょう。
人材を分類した時に優劣をつけない
人材ポートフォリオでは、基本的に人材を4つのタイプに分類することになりますが、その際には人材タイプに優劣をつけないようにしましょう。人材ポートフォリオを作成する目的は、客観的で正確性の高い人材の状況を把握と、人材配置などを適切に対処することにあります。
人材に優劣をつけてしまうと、企業の方向性に影響が出ます。評価が社内に広まれば、社員の不満やモチベーション低下にもつながってしまいます。
人材ポートフォリオの作成には時間がかかる
人材ポートフォリオでは、適切に人材タイプを把握する必要があることから、作成には時間がかかります。逆算して早めに作成に取り組むこと、通常業務の妨げにならないように人材ポートフォリオの作成ばかりに注力しすぎないことを意識しましょう。
従業員の意思も考慮する
会社側の都合で、従業員のキャリア設計に合わない人材配置を一方的に押し付けない配慮も必要です。一方的な分類や人材配置を行ってしまうと、会社に対しての不信感が募り、従業員エンゲージメントが低下するおそれもあります。
1on1の実施や希望のヒアリングをするなど、それぞれの意思もある程度は反映することが必要です。
まとめ
人材ポートフォリオは、自社の人材タイプの特徴を適切に把握し、採用や従業員の育成、配置転換などに役立てられることから重視されるようになってきました。経営戦略にも関係してきますので、必要に応じて適切な方法で取り入れるようにすると良いでしょう。