「フレックスタイム制」ってどんな制度?

さて、社員が柔軟に働くことができる仕組みとして皆さんが最初に思いつくのが「フレックスタイム制」ではないでしょうか。
「フレックスタイム制」は、日本では1988年から導入が可能になりました。今や「フレックス」=「出勤時間が自由」ということは広く社会に認知されていますが、細かい仕組みや労働時間の管理方法についてはご存知ない方が多いかもしれません。まずは「フレックスタイム制」がどのような制度なのか簡単におさらいしてみましょう。
フレックスタイム制の仕組み
「フレックスタイム制」とは1ヶ月を上限とする一定期間内(この期間を清算期間とよびます)の総労働時間を予め定めておき、労働者はその範囲内で各労働日の労働時間を自主的に決定して働く制度です(労働基準法第32条第3項)。
フレックスタイム制を導入する場合は対象となる社員の範囲(全社員もしくは一部の部署など)を定め、始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる」という主旨の就業規則をしっかりと作ったうえで、労使協定を締結する必要があります。
一般的には「コアタイム」(必ず勤務していなければいけない時間帯)と「フレキシブルタイム」(そのうちのいつ出社・退社しても構わない時間帯)に分けて運用されているケースが多いようです。

※コアタイムは必ずしも定める必要はありません。
【清算期間とは】
フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のことで、清算期間の長さは、1ヶ月以内と決められています。賃金の計算期間に合わせて1ヶ月とすることが一般的です。(「毎月1日から月末まで」など、起算日と長さを定めることが必要です)
最大のメリットは自分の都合で勤務時間がコントロールできること。子どもの送り迎え・通院などがある場合にわざわざ有給休暇を取る必要がありませんし、早朝出勤して午後早く帰るということも可能です。「労働時間」ではなく「仕事の成果」で評価したいという企業にとって、社員が自由に働くことができる「フレックスタイム制」はとても魅力的なのではないでしょうか。
私が以前勤務していたIT企業でも「フレックスタイム制」を採用していました。朝のラッシュ時間帯を避けて通勤できることはもちろん、遅くまで働いた翌日は少しゆっくり出勤しようなど、自分のペースで働くことができたのでとても便利でしたし、体力的にも楽だったように思います。
「フレックスタイム制」をめぐるよくある誤解
ただこの「フレックスタイム制」の運用に関しては、様々な誤解があるようです。 例えば・・・。
誤解その1 「フレックスタイム制だから残業代は関係ない!?」
「うちの会社はフレックスだから残業代が出ない・・・」というような言葉を耳にしたことがありますが、これは誤りです。フレックスタイム制を採用していても、企業はしっかりと残業代を支払わなければなりません。
では、フレックスタイム制における労働時間はどのように管理されるべきなのでしょうか?
通常の労働時間制度での法定労働時間は
1週40時間(特定措置対象事業場※は44時間)、1日8時間
と定められています。
法定労働時間を超えた労働時間については、労使間で36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し労働基準監督署に届け出た上で、残業代を支払う必要があります。
※特例措置対象事業場とは、常時 10 人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く。)、保健衛生業、接客娯楽業のことを指します。
ただしフレックスタイム制では、「1週40時間(特定措置対象事業場※は44時間)、1日8時間」の法定労働時間ではなく清算期間における総労働時間の総枠(フレックスタイム制における法定労働時間)を超えたかどうかで時間外労働か否かを判断します。
【フレックスタイム制の法定労働時間の計算方法】
法定労働時間≦週法定労働時間×(清算期間日数÷7)
清算期間を「1ヵ月」と定めた場合、月の日数によって法定労働時間は次のようになります。

上記の場合、勤務時間が「1日8時間、1週40時間(44時間)」を超えていたとしても、1ヶ月単位でこの労働時間を超えなければ時間外労働とはみなされません。 反対に1ヶ月以内に上記で定められた労働時間を超えた場合には、しっかりと残業代を支払う必要があります。
<Tips>
ある会社の就業規則で月平均所定労働時間が173時間※1と定められていたとします。
1ヶ月の日数が30日の場合は、所定労働時間(173時間)>法定労働時間(171.4時間)となり、所定労働時間が法定労働時間を超えてしまいます。ここで172時間の労働を行ったとすると、例え所定労働時間内だったとしても、法定労働時間を超えている0.6時間分の割増賃金を支払う必要があります。※1 所定労働時間とは会社が定める労働時間のことです。所定労働時間は法定労働時間を超えて設定することはできません。
月平均所定労働時間=(365日−1年間の休日合計日数)×1日の所定労働時間数÷12か月
例えば「1日の所定労働時間が8時間、年間260日勤務(休日105日)」の会社の場合、 (365日−105日)×8時間÷12か月=約173時間 となります。
誤解その2 「労務管理ではコアタイムに社員が出勤しているかどうかを確認していればよい!?」
「コアタイム」に出勤しているかどうかだけを確認するだけでは不十分です。上記で説明した通り、フレックス制でも残業代を計算する必要があるので、「コアタイムに出勤しているかどうか」だけではなく、始業・終業時間をしっかりと記録しなくてはなりません。
誤解その3 「始業時間が遅かったら、深夜労働でも残業代を払う必要はない!?」
始業時間に関係なく深夜時間帯に勤務している場合は、深夜割増賃金の支払いが必要です。
誤解その4 「仕事で成果を出していれば、コアタイムだけの勤務でも給料全額もらえる!?」
これもNOです。もちろんコアタイムだけ働く日があっても構いませんが、定められた清算期間のなかで会社が定めた所定労働時間分の労働を行わなくてはなりません。
ちなみに清算期間が1ヶ月の企業で、もし労働時間が所定労働時間に達しない場合はどうなるかというと、通達(昭和63年基発1号)では
①当月の賃金支払時に清算(控除)する方法
②所定の賃金は当月分として支払い、不足の時間分を翌月の総労働時間に加算する方法
が認められています。
(ただし翌月に加算する場合、法定労働時間を超えてしまったら時間外労働となり残業代の支払いが必要となります)
つまり自分が必要な時間だけ働いているかどうかをしっかりと管理していないと、意図しないうちに労働時間が不足し、お給料が控除されてしまった!ということも起こりうるのです。
※参考:厚生労働省 東京労働局 「フレックスタイム制の適正な導入のために」
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/2014318104110.pdf
日本の「フレックスタイム制」導入状況
日本での導入はたったの5%
ここまで「フレックスタイム制」の仕組みについて説明してきましたが、実は日本で「フレックスタイム制」を導入している企業は、全体のたったの5%しかありません。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/14/gaiyou01.html
恐らく
時間にルーズになってしまう
お客様に迷惑をかけてしまう
チームのコミュニケーションに支障がある
コアタイムに会議が集中してしまう
労働時間の管理が煩雑になってしまう
などの理由からフレックスタイム制の導入を躊躇する企業が多いのではないでしょうか。
一方、社員が自分で勤務時間をコントロールして効率に働くことのできる「フレックスタイム制」は、「労働時間」ではなく「成果」で評価するという風潮を定着させる上で非常に効果的だと語る経営者の声をよく耳にします。
もちろん「フレックスタイム制」を導入すれば、すぐさま会社に実力主義の雰囲気が生まれるわけではありません。まずは評価制度を確立する、コアタイムに会議が集中しないように不必要な会議をなくす、などの準備が必要ですが、社内の労働環境や業務フローを見直すという意味でも新しい勤務制度の導入に挑戦してみるというのも良いかもしれません。
TeamSpiritが解決してくれること
またこの時代、社員同士のコミュニケーションや情報共有、労働時間管理などフレックス制に伴う課題については、ITの力で解決できる部分は大きいのではないでしょうか。
例えばTeam Spiritでは、社員同士のコミュニケーションや情報共有が簡単にできますし、フレックスタイム制に対応した勤怠管理・給与計算機能も用意されています。所定労働時間に対して、今何時間勤務しているかなどの管理も可能なので、うっかり労働時間が不足してしまうというようなこともありません。現場社員・人事担当者の管理の煩雑さを考えると、システム導入を前提にすることがフレックスタイム制を本当に価値のあるものにする第一歩かもしれません。
労働基準法改正で「フレックスタイム制」も変わる!
さて、ここまで解説してきたフレックスタイム制ですが、労基法の改正によって内容が変わります。
2016年4月に改正が検討されているのは
清算期間の上限を、現行の1か月から3ヵ月に延長
完全週休2日制の下での法定労働時間の計算方法見直し
通達によりフレックスタイム制の制度趣旨に即した運用を徹底
などの内容です。
また「決められた所定労働時間より短く働いた場合には年次有給休暇を活用し、給与を減らすことなく働くことができる」などの内容も検討されています。
これら改正内容の詳細については、別の機会に詳しくご紹介したいと思います。
制度変更により、更に柔軟な活用が可能になるフレックスタイム制。社員が自由になるほど管理する側が大変になるという問題はありますが、ビジネス環境が激しく変化するこの時代においては社員の働き方が企業の競争力に直結すると言っても過言ではないのかもしれません。
社員の自主性を尊重した力強い組織を作るためにも、是非「新しい働き方」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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