リスキルとは
リスキル(reskill)は「再教育」「新しい技術の習得」を意味する言葉であり、リスキリング(reskilling)とも呼ばれています。
リスキルでは、時代のニーズやトレンドに合った学びを得ることに焦点が当てられています。すでに習得済みの知識をアップデートする「スキルアップ」とは少し意味合いが異なる点に注意しておきましょう。
従業員に新しい能力・技術の習得を促すリスキルは、企業の生産性向上や従業員自身のキャリア形成につながるとして推奨されてきました。
経済産業省主導で「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が立ち上がり、プログラマーやAIエンジニアなど時代に合ったスキル習得の場として注目されています。
リスキルが必要とされている背景
今あるスキルを向上させる「スキルアップ」に加え、新たなスキルを習得する「リスキル」が注目されている背景を解説します。
DX推進による影響
DX(=デジタルトランスフォーメーション)が推進され、業種・職種を問わずITツールやAIの活用が浸透しつつあります。
しかし、時代のニーズ増大に対しエンジニアやプログラマーなどIT系専門職の育成が追いついておらず、やむを得ず外部の専門会社に依頼するケースも少なくありません。
自社組織の強化や組織風土の醸成を考えてIT技術を導入したい場合、従業員向けのリスキル施策が必要です。DX人材の採用・育成を目指す企業こそ、リスキルへの注目度が高くなっています。
働き方の多様化
働き方改革や新型コロナウイルス感染症の拡大により、ここ数年で働き方が多様化しています。テレワークを導入する企業が増えたり、サテライトオフィスやフレックスタイム制を取り入れたり、企業ごとに多種多様な施策が取られました。
しかし、こうした環境下で従業員のセキュリティ意識やITツールの操作技術に乏しいと、業務に支障が出たり情報漏洩が起きたりするおそれがあります。
リスキルによって従業員のITリテラシーを向上させれば、多様化する働き方に合わせて業務を効率的に進められます。
人材の流動性の高まり
終身雇用制が事実上の崩壊を迎え、人材流動性が高まるなか、求職者には企業に合わせて柔軟にスキルを習得する力が求められています。過去の経験を最大限活かしつつリスキルにも積極的な人であれば、転職市場における評価も高くなります。
一方で、中途社員のリスキルを応援する企業には人材が集まりやすく、母集団形成しやすいというメリットもあります。新しいスキルの習得に意欲的であることが、キャリア形成の大きなカギとなっているのです。
企業がリスキルに取り組むメリット
ここでは、リスキルに取り組むことで企業が得られるメリットを解説します。リスキル施策に着手した場合、どのような効果が表れるか確認しましょう。
生産性の向上
既存の従業員が新たなスキルを習得できれば、組織全体の生産性が上がります。
例えば、IT技術を身に付けて業務を自動化・効率化して残業を抑制したり、ミス・抜け・漏れなく業務ができるフローを構築したりできれば、限られた人員でも最大のパフォーマンスを発揮できます。
また、専門知識をもつ人材を新たに雇用する必要がなく、採用・育成にかかるコストを削減できる点もメリットです。生産性向上による収益アップや経費削減も期待できます。
従業員と組織全体のスキルアップ
従業員が新たなスキルを習得すると、やりがいや自信につながります。「会社が自分のスキルアップを応援してくれている」「年数に応じて確実にキャリアアップできている」と感じられればエンゲージメントも高くなり、帰属意識の醸成も期待できます。
また、ほかの従業員に知識やノウハウを共有しながら業務にあたることで、組織全体にもナレッジが蓄積されます。人が抜けても組織力が低下しない、盤石な体制を整えられるのです。
新たなアイディアの創出
新たなスキルの習得により、これまでと異なる視点で物事を捉えられるようになれば、新たなアイディアを創出できる可能性が高まります。
若手社員から思わぬアイディアが上がってきたり、これまで見つけられなかった課題に気づけたりと、イノベーションが起きるかもしれません。
こうしたアイディアは、新規事業の立ち上げや既存事業の改良につながります。企業価値を高めてビジネスチャンスを拡大する効果も期待できるでしょう。
リスキルを実施する流れ
ここからは、リスキルを実施する流れを解説します。
具体的にどのような施策にすべきか悩んでいる場合は、下記の手順を試してみましょう。
1.目標を明確にする
まずは、リスキルを実施する目的・目標を明確にします。目的や目標を共有することで、モチベーションを高めるだけでなく、リスキルに対する納得感を醸成できます。
経営層や管理職などのリーダーは、積極的に情報を発信するだけではなく、自ら先陣切ってリスキルに臨むことが大切です。上司が率先することで、部下がリスキルに取り組みやすくなります。
朝礼・定例会議の場で訴求したり、社内報にリスキル中の社員インタビューを掲載したりするのもおすすめです。
2.必要なスキルを可視化する
リスキルとして習得すべきスキルを可視化し、「何を学ぶか」を決定します。そのためには、従業員がもっている現状のスキルをリストアップし、業務に必要なスキルと照らし合わせて不足がないかチェックするのがポイントです。ギャップを把握することでどのようなスキルが必要かわかり、納得感が高まります。
また、業務上必要なスキルに焦点を当ててリスキルすることで、モチベーションも高まります。
3.育成プログラムを選定・実施する
社内で育成プログラムを考案したり、外部の育成プログラムを活用したり、自社に合った方法を見つけましょう。
外部の育成プログラムは、勉強会・研修会・セミナー・eラーニングなどさまざまです。部署・年代・職種ごとに内容をアレンジしたり、多様な受講形態を用意したりすれば、より参加しやすくなります。
4.実践の機会を設ける
学んだ内容を実践できる機会を設け、従業員自身に「スキルアップできている」という実感を得てもらうことが重要です。
自分が成長していると分かれば、今後の学びに対するモチベーションも上がりやすく、さらなる自発的な学びを期待できます。
また、リスキル成功者に社内インタビューするなど、インセンティブを与えることもモチベーションの維持につながります。
5.効果測定する
リスキル施策をしながら、定期的に効果測定することも重要です。
スキルの習得状況を可視化して当初の予定と照らし合わせたり、参加者のモチベーションをモニタリングしたりしながら、改善すべきポイントを探りましょう。効果的にPDCAを回せれば、リスキルが長期的な施策として根付きます。
また、リスキル参加者に対するアンケートを実施するなど、従業員の感想や所感も重視しながら施策に活かしていきましょう。
まとめ
効果的なリスキルができれば、生産性向上・業務効率の改善だけでなく、従業員のキャリア形成やスキルアップも支援できます。
働き方の多様性や人材の流動性が上がっている時代だからこそ、従業員のリスキルによるサポートを意識してみてはいかがでしょうか。