1. 有給休暇の繰り越しとは?有給休暇の繰り越しとは、消化しきれずに「余ってしまった有給休暇」を翌年度に持ち越すことをいいます。繰り越せる有給休暇は「その年に新たに付与された有給休暇」です。例えば、2024年4月1日に入社した方が、半年後の10月1日に「10日間の有給休暇」を付与されたとします。有給休暇10日間のうち7日分だけ消化した場合、余った3日の有給休暇は、翌年末まで繰り越すことができます。対象となるのは「有給休暇が付与されている人」全員であり、パートやアルバイト、派遣社員でも、契約期間のある間は繰り越しが可能です。有給休暇は発生した日から2年間で時効により消滅するため、前年度に付与された有給休暇を1回繰り越している場合は、もう1回は繰越せません。「繰り越しは1回だけ」と覚えておくと分かりやすいでしょう。少し分かりにくいので、繰り越しの流れを図解でわかりやすく説明していきます。※なお、そもそも有給休暇の定義や付与条件などを改めて確認したい方は、以下の記事をご覧ください。有給休暇とは?付与日数やタイミングを労働基準法をもとに解説2. 【図解】有給休暇の繰り越し・消滅の流れ詳しいルールを説明する前に、有給休暇の繰り越しの流れをイラストで見ることで、イメージで理解していきましょう。まずは、有給休暇を繰り越せるパターンのイメージ図です。2024年10月1日に初めて有給休暇を10日付与されたAさんの例です。Aさんは有給休暇を3日消化できず余ってしまいました。余った3日分の有給休暇は2025年10月1日以降に繰り越しが可能です。2025年10月1日~2026年9月30日にAさんが使える有給休暇は、繰り越した3日分+新たに付与された11日分=14日分となります。次に、有給休暇が一部消滅してしまう例のイメージ図です。▼有給休暇が消滅するイメージ2025年10月1日の基準日(有休が付与される日)に、前年2024年から繰り越した9日分の有給休暇があったとします。この「1回繰り越した有給休暇」は、繰り越してから1年使わないと消滅します。つまり、上記の例では、繰り越した9日分のうち消化できなかった2日については、次の基準日2026年10月1日には消滅してしまいます。付与された有給休暇が消滅してしまうのは、従業員にとって損失となります。企業がしっかりと有給休暇の取得状況を管理し、従業員に「消滅しそうな有給休暇があること」を周知する仕組みを作るのが望ましいといえるでしょう。3. 有給休暇の繰り越しに関するルールここからは、有給休暇の繰り越しの詳しいルールを解説していきます。「有給休暇の残日数が何日になるか」計算を間違わないよう、しっかり把握しておきましょう。有給休暇の繰り越しルールまとめ①前提:有給休暇の付与日数は勤続年数で決まる②その年に付与された有給休暇は全て翌年に繰り越せる③有給休暇を繰り越せる回数は1回だけ(2年で時効)④「繰り越し分」を「新規付与分」より優先して消化するのが一般的⑤有給休暇の繰り越しをしないのは違法①前提:有給休暇の付与日数は勤続年数で決まるまず前提として、有給休暇の付与日数は、継続勤続年数と所定労働日数で決まります。※引用(PDF):年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省リーフレットシリーズ労基法第39条例えば、・2023年4月1日に入社して半年が経った正社員のAさんの場合、2023年10月1日に「10日」の有給休暇が付与されます。・2017年4月1日に入社して6年半が経った正社員Bさんの場合、2023年10月1日に「20日」の有給休暇が付与されます。勤続年数が増えるごとに付与日数は増えていきますが、最大付与日数は20日と決められており、それ以上は増えません。②その年に付与された有給休暇は全て翌年に繰り越せるその年に付与された有給休暇は、全て翌年に繰り越せます。よく「繰り越せる有給休暇の上限は20日」と書かれていますが、これは、そもそも「付与される有給休暇の最大日数が20日」ということです。継続勤務年数が6年半を超える正社員は、毎年20日ずつ有給休暇が付与されます。2023年に付与された有給休暇20日を全て使わなければ20日全て2024年に繰り越せます。つまり、2024年の有給休暇は「繰り越した20日」+「新たに付与される20日」で40日分となります。有給休暇を繰り越せるのは1回だけなので、有給休暇の最大日数は40日となります。③有給休暇を繰り越せる回数は1回だけ(2年で時効)有給休暇を繰り越せる回数は1回だけです。2回目の繰り越しはできません。例えば、2023年に付与された有給休暇10日のうち「4日」余った場合、2024年にその「4日」は繰越せますが、2025年には繰り越せません。2024年中に消化できなければ、消滅してしまいます。根拠は「労働基準法第115条」にあり、有給休暇には「2年の時効」があるからです。この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。※引用:労働基準法 第115条| e-Gov法令検索「2023年10月1日に取得した有給休暇」の請求権が、2年後の2025年9月30日で終わってしまうため、2025年10月1日以降に「2023年10月1日に取得した有給休暇」を繰り越せないということです。難しく考えず、「有給休暇を繰り越せる回数は1回だけ」と覚えておくと分かりやすいでしょう。※就業規則などで、これを上回る期間でも請求できる旨を定めることは差し支えありません。④「繰り越し分」を「新規付与分」より優先して消化するのが一般的「新規付与分の有給休暇」と「繰り越し分の有給休暇(前年度分)」がある場合に、どちらの有給休暇から消化していくべきかは労働基準法では明確に定められていません。一般的には、取得期限が先に到来する「繰り越し分」から取得させるのがスタンダードです。「新規付与分」を優先してしまうと有給休暇が消滅しやすくなるため、従業員のことを考えるならば「繰り越し分」を優先するのがベストです。ただし、就業規則で「年次有給休暇の取得に当たっては、新規付与分を優先する」と定められている場合には、就業規則に従う必要があります。気になる方は、就業規則での扱いが規定されているか確認してみましょう。⑤有給休暇の繰り越しをしないのは違法企業が従業員に対して、消化できなかった有給休暇を翌年度に繰り越しさせなかった場合には、以下の理由から法律違反となります。労働基準法で、年次有給休暇の請求権(消滅時効は2年)が定められている従業員が有給休暇を取得することは「労働者の権利」である企業が有給休暇の繰り越しをしなかった場合、労働基準法第39条違反となります。もし会社の就業規則に「有給休暇は1年間で消滅する」という記載があったとしても、これは法律に反した内容なので無効となります。従業員が消化できなかった当該年度の有給休暇は、忘れずに繰り越し処理するようにしてください。繰り越し処理を忘れて法律違反とならないよう勤怠管理システムを導入するのもおすすめです。例えば TeamSpirit 勤怠 のように、自動で繰り越し計算ができるシステムが適しています。4. 繰り越し日数の計算方法ここからは、有給休暇の繰り越し日数の計算方法を詳しく解説していきます。なお、ここでは「新規付与分」より「繰り越し分」を先に取得することを前提にしています。1年目スタート時点:繰り越し分・新規付与分の有給休暇を明らかにしておく有給休暇を正しく繰り越すには、取得可能な有給休暇日数だけでなく、その有給休暇が「①繰り越し分」「②新規付与分」なのかなのかを正しく把握している必要があります。例えば、入社して半年の正社員Aさんは初めて有給休暇が付与されるため「繰り越し分は無し(全て新規付与分)」です。一方、入社して6年半の正社員Bさんは「繰り越し分+新規付与分」の有給休暇を保有しています。────────────────────────────有給休暇日数=「①前年に付与された有給休暇の繰り越し分」+「②新規付与分」正社員Aさん:0日(繰り越し)+10日(新規付与)=10日正社員Bさん:9日(繰り越し)+20日(新規付与)=29日────────────────────────────1年目終わり:繰り越し分を優先して消化する(使えなかった繰り越し分は消滅)就業規則に規定がない場合は、一般的には、繰り越し分から先に有給休暇を消化します。例えば、繰り越し分9日+新規付与分20日がある正社員Bさんが、この年に7日有給休暇を使った場合、繰り越し分9日から7日を消化します。この年の終わりの時点で「前年から繰り越した分」がまだ余っている場合は、2回は繰越せないため「消滅」します。上記の正社員Bさんの例では、前年度から繰り越した2日分は使いきれず消滅となります。正社員Bさんは、新規付与分20日が手つかずで残ったため、この新規付与分20日は翌年度に繰り越しされます。2年目スタート時点:繰り越し分+新規付与分がその年の有給休暇日数となる前年の繰り越し分+新規付与分が、有給休暇日数となります。例えば、正社員Bさんは、前年度に付与された20日が全て余っているため、全て繰り越しとなり、新規付与分20日と合計した40日が有給休暇日数となります。────────────────────────────正社員Bさんの有給休暇日数=(前年度の繰り越し分20日)+(本年度の新規取得分20日)=40日────────────────────────────5. 繰り越しできずに消滅する有給休暇を買い取ってもらえるかは会社による繰り越しできずに消滅してしまう有給休暇を「もったいないから会社に買い取ってもらいたい」と考える方もいるかもしれません。原則として「有給休暇の買取は違法」とされていますが、消滅してしまう有給休暇を買い取ってもらうこと自体は違法ではありません。ただし、実際に買い取ってもらえるかは会社によります。買い取ってもらえずに消滅してしまうことの方が多いと考えられます。有給休暇の買い取りは原則禁止じゃないの?と思った方へ一般的に、有給休暇の買い取りは原則禁止されています。なぜならば、もともと有給休暇が、従業員の心身の疲労を回復させるために設けられている制度だからです。有給休暇の買い取りを積極的に認めてしまうと、本来の趣旨に反して従業員が有給休暇を取らなくなってしまいます。そのため、有給休暇の買い取りは原則禁止されているのです。ただし、どうしても使い切れずに時効を迎えて消滅してしまう有給休暇については、事前の買い上げとは異なり、買い取っても法律違反とはなりません。6. 有給休暇の繰り越しに関して企業がすべきことここからは、有給休暇の繰り越しに関連して「企業がすべきこと」を解説していきます。有給休暇の繰り越しに関連して企業がすべきこと①従業員の有給休暇の残日数と内訳を管理すること②有給休暇の繰り越し処理を忘れずに徹底すること③繰り越した有給休暇が消滅しないよう計画的に使わせること①従業員の有給休暇の残日数と内訳を管理すること企業は、基準日時点においての従業員の有給休暇の残日数はもちろん、その有給休暇が「前年度から繰り越したもの」か「今年度に付与されたものなのか」を把握する必要があります。前年度から繰り越した有給休暇(付与してから2年経過する有給休暇)は「消滅」、本年度に新規付与された有給休暇は「繰り越す」という処理に分かれるからです。できれば「TeamSpirit 勤怠」のような有給休暇管理機能がある勤怠管理システムを導入し、「有給休暇を付与した日」や「有給休暇が消滅する日」をいつでも確認できる状態にしておくのが理想です。▼「TeamSpirit 勤怠」の有給休暇管理画面②有給休暇の繰り越し処理を忘れずに徹底すること本年度に付与されて使いきれなかった有給休暇は翌年度まで繰り越すことが可能であり、繰り越しをさせない運用は違法となります。そのため企業は、「基準日から1年後に残っている有給休暇は繰り越す」ということを忘れずに行う必要があります。勤怠管理システムには、有給休暇の付与条件を考慮して自動的に「付与」や「繰り越し」を行ってくれるものもあります。こうした機能を活用して、適正に有給休暇を付与する仕組みが便利です。③繰り越した有給休暇が消滅しないよう計画的に使わせる有給休暇の請求権の時効が2年であるため、1回繰り越した有給休暇は、2回目は繰越せずに消滅してしまいます。企業としてはできるだけ有給休暇が消滅しないよう、計画的に従業員に使わせる努力を行うべきです。なお、2019年4月に改正した労働基準法により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、「基準日から1年以内に年5日の有給休暇を取得させる」義務があります。つまり、年10日以上有給休暇が付与されている社員は、最低でも年5日は消化できるようになっているはずです。企業が有給休暇を計画的に付与することができる有給休暇の計画的付与制度と併せて、従業員に積極的に有給休暇を取らせる仕組みを考えていくことをおすすめします。7. まとめ|有給休暇の正確な残日数の把握は勤怠管理システムが最適有給休暇は繰り越しが可能ですが、繰り越せるのは1回だけであり、2回目は繰り越さない繰り越した有給休暇は、「新規付与分」より優先して消化するなど、運用上、手計算では難しい部分があります。基準日が複数回ある企業などでは、有給休暇がいつ消滅するのか、どの有給休暇から先に消化するのかなど、管理が煩雑になるケースがあります。有給休暇の残日数や時効になるタイミング、消滅しそうな有給休暇の存在を社員に知らせる仕組みなど、正しく運用したい場合には、勤怠管理システムの導入をおすすめします。「繰り越しを忘れてしまった」などのミスがないよう、しっかり管理していきましょう。