人口総数376万人超(2022年3月1日現在)。日本最大の政令指定都市である「横浜市」の中で、オープンイノベーションなどをご担当されている横浜市経済局に具体的な取り組みなどをお伺いしました。WITHからは橋本綾子と所長・間中健介、チームスピリット社員で戦略企画室所属の荻島将平が参加しました。
人口減少による危機意識からの、イノベーション都市横浜への挑戦
(間中)横浜市経済局の予算が、2021年の1年で4倍ぐらい増えています。多分コロナ対応で大変なお仕事が多いんだと思いますが、そのなかで民間と一緒にいろいろなイノベーション施策に取り組まれていると思います。私はビジネスと行政の両方の経験がありますが、大半の企業にとって「自治体の仕事を受注する」のは嬉しい一方、「自治体と共創する」ということの価値への理解には至らないですよね。一方、海外(例えばアメリカなど)では民間・行政・アカデミックコミュニティで人が行き来していて、セクターをまたがってオープンイノベーションすることが当たり前でもあります。
この辺りまで話を広げて、お話をお聞きしたいです。
(高木)民間と行政が共創していく世の中になっていきますので、非常に大事な視点だと思っております。今日はよろしくお願いいたします。
(橋本)横浜市として「どのようなイノベーションを起こしたいのか」、もしくは「どういう想いでみなとみらい地区を新たに作り替えようとしていかれているのか」、といった全体の横浜市としての取り組みのお話をお聞かせください。
(高木)横浜市経済局が、「イノベーション都市・横浜」として進めている取組をご紹介致します。
背景にある危機意識ですが、横浜市の人口は2019年をピークに減少する推計があります。
実際、今年1月1日時点で横浜市の総人口は3,772,029人となり、戦後初めて前年比で減少しました。生産年齢人口は2000年をピークに減少し、高齢者人口は2025年には約100万人に迫ります。「このままでは社会・経済がもたなくなる」という危機意識から、持続的に成長発展できる社会・経済の実現に向けて、「イノベーションの創出と戦略的な企業誘致」を現在の中期計画に位置付けて、オープンイノベーションの取組を進めてきました。 最初に取り組んだのは、産官学が連携して「社会課題の解決を目指すビジネスを生み出すオープンイノベーションプラットフォーム」の設立です。これは横浜市の強みが発揮できる2つの分野、1つはIoTもう1つはライフサイエンスでつくりました。IoTのプラットフォームはI・TOP横浜、ライフサイエンス分野はLIP.横浜といいます。両分野あわせて延べ900を超える企業・大学などが参画し、年間50を超える新ビジネスのプロジェクトを創出しています。

企業誘致では、自治体としては全国最大規模となる、最高で投資額の10%、50億円まで助成するという支援制度をもっています、こうしたインセンティブを活用しながら、「みなとみらい21地区」などに積極的な企業誘致を進めてきました。
みなとみらい21地区は開発率が96%となりました。10年ほど前に日産自動車、富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノべーション)に進出いただき、しばらく景気後退などで進出が止まっていた時期もありましたが、3年くらい前から資生堂、京セラ、村田製作所、ソニーなど続々と進出が続いています。特徴としては、オープンイノべーション志向のR&D拠点の進出が多くなっています。他社の方と一緒にビジネスを考える場所が出来るなど、エリア全体でオープンイノベーションが進みつつあります。
海、飲食店、アート、スタートアップ 関内の魅力
みなとみらいのすぐ隣にある関内地区は、横浜の開港以来のビジネス街です。市庁舎があった街区(一昨年の6月にみなとみらいの近くに移転)などには新しい産業の拠点となるようなオフィスビルができる計画も発表されるなど今後の発展が期待されています。関内は開港以来の歴史が感じられる町並みが残り、海・港が望めるロケーション、それから中華街を含めた飲食店が非常に充実しています。このような立地の中でも、オフィス賃料が渋谷の2分の1くらいです。また、横浜市ではアーティスト・クリエイターなどの集積も政策として進めてきました。このような環境がスタートアップの方に評価されまして、スタートアップの進出も進んできています。
このようにみなとみらいへの大手企業のエンジニアや新規事業担当者の集積、関内へのスタートアップの進出を背景に、徒歩でも行き来できる両エリアを中心にイノベーターの皆さんが出会い、交流・連携して、新しいビジネスを生み出すような、イノベーションゾーンを形成していきたいという基本的な考え方で進めています。このエリアには、神奈川大学、関東学院大学、横浜市立大学などアカデミアのキャンパス、サテライトキャンパスも開設されてきています。
また、両エリアにとどまらず、京浜、金沢、新横浜など市内の様々なエリアはもちろん、東京・渋谷などのイノベーションを進める国内の都市、さらにはシリコンバレーやニューヨーク、上海など海外とも繋がるイノベーションゾーンにしていこうと取り組んでいます。 これまで、サラリーマンイノベーターの集いやエンジニアの交流イベント「横浜ガジェットまつり」などを通じて、横浜からイノベーションを生み出したいというイノベーターの交流の盛り上げを図ってきました。そうしたことを背景に、2019年1月に当時の横浜市長である林市長が「イノベーション都市・横浜宣言」を行いました。宣言後、皆が繋がるシンボルみたいなものがぜひあったらいいというお声を伺いまして、多方面でご活躍されている横浜のデザイナーの太刀川英輔さんに<ヨコハマクロスオーバーYOXO(よくぞ)>というイノベーション都市・横浜を象徴するロゴを作成していただきました。ここ横浜で、組織・領域を超えた交流からイノベーションを生み出すことや、挑戦する人を「よくぞ」とたたえるなど、いろいろな意味がはいったロゴです。このロゴを活用してネットワークを広げていきました。

同年の10月末には、スタートアップ創出を促進するためにYOXOBOXというスタートアップ支援拠点を関内地区に開設しました。 YOXOBOXでは、スタートアップを目指す方を対象にしたイノベーションスクールや、創業3~5年程度の成長が見込まれるスタートアップを対象にした独自のアクセラレーションプログラムなどを実施してきました。アクセラレーションプログラムでは、令和3年度は有望な12社を採択し、YOXOBOXでビジネスプランのブラッシュアップを図りました。イノベーターがつながるハブとなるため、YOXOBOXでは数多くのイベントも開催しています。
こうした取組は国にも評価されており、2020年の7月には世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市形成戦略のグローバル拠点都市に採択されました。国の後押しを頂きながら、スタートアップ・エコシステムの構築を進めています。また、これを契機に、渋谷区とグローバル拠点都市を推進するための連携協定を結ばせて頂きました。
以上が市の取組ですが、市内の民間事業者のオープンイノベーション・アクセラレーターも盛んになってきております。例えば、みなとみらいエリアや関内エリアでは、エリアに関わる事業者が中心になって、まちの活性化につながるスタートアップを支援するようなアクセラレーションプログラムを実施しています。三菱重工は、本牧工場の中で2万平米ぐらいの特にハードテック系のスタートアップに対するインキュベーション施設を開設されています。こうした民間の取組と連携しながらスタートアップ支援やオープンイノベーション進めています。
YOXO(よくぞ)横浜!
また、イノベーターのコミュニティやネットワークが非常に重要です。そうした点ではみなとみらいの若手のエンジニアを中心にした企業の枠組みを超えた交流活動「横濱OneMM」が活性化しています。また、「横浜を繋げる30人」という取組では、企業・大学だけではなく、NPOや市民セクターを含んだ、イノベーションを盛り立てるような若手のネットワーク・コミュニティ活動が生まれています。関内から横浜駅周辺などを中心に、市内にはコワーキングの数も増えてきました。こういったコワーキングの運営事業の横のつながりも、はじまってきました。 こうした民間の盛り上がりも背景に、企業・大学・行政が連携してイノベーションを推進していくための産学公民の連携基盤団体「 横浜未来機構」が昨年3月に立ち上がりました。イノベーション都市・横浜から、企業・アカデミア・公共などの多様な人材が、組織や領域を越えてともに考え、試し、成長できる環境を構築し、新たなアイデアやテクノロジーからイノベーションを生み出す循環をつくることで、誰もが快適に自分らしく生きることができる、人間中心の未来社会の実現を目指すものです。現在の会員数は92となっています。
横浜未来機構は、イノベーションを生み出すための土壌づくりとして、「未来体験都市」・「挑戦者応援都市」・「領域越境都市」という3つのビジョンに基づく10のアクションに取り組んでいます。昨年11月に開催された横浜未来機構のキックオフイベントには、山中竹春市長より、イノベーション都市・横浜を先導していくという宣言もされています。
