「なぜ勤怠管理を実施する必要があるのだろうか」「勤怠管理って具体的に何をすればいいのか分からない」。このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

勤怠管理とは、従業員の就業状況を管理し、従業員がどのくらい働いたかを把握するために実施するものです。

労働安全衛生法によって定められていることもあり、勤怠管理による労働時間の把握は企業にとって大切な業務の一つです。

ただ、勤怠管理は給与計算のために労働時間を集計するだけの作業だと考えていませんか?実は勤怠管理を実施する目的はそれだけでなく、主に下記の4つあります。

詳しくは本文でさらに説明しますが、勤怠管理の目的は、正確な労働時間の把握だけでなく、従業員の健康管理、有休の取得状況などの管理、コンプライアンスの遵守などがあります。

本記事では、「勤怠管理を行う目的」や、勤怠管理のやり方を変えたい方向けに「効率的に勤怠管理を行うための手段」を解説します。本記事を読むことで勤怠管理の重要性を理解していただければ幸いです。

目次

    1分で理解する勤怠管理とは?企業が従業員の就業状況を正確に把握し管理すること

    勤怠管理とは、企業が従業員の就業状況を正確に把握し管理することです。

    従業員の労働時間はもちろん、休憩時間、残業時間なども把握しトータルでどのくらい働いたかを管理します。

    また、勤怠管理では出勤状況だけではなく欠勤状況や有休取得日数の管理も含まれます。

    勤怠管理で管理する必要がある項目については、厚生労働省がまとめた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に記載されています。具体的には下記の6つの項目が定められています。

    • 労働日数

    • 労働時間数

    • 休日労働時間数

    • 時間外労働時間数

    • 深夜労働時間数

    • 始業・終業時刻

    また、労働基準法第108条では、勤怠管理での管理項目について下記のように記載しています。

    使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

    引用:労働基準法|「e-Gov」

    このように、使用者は労働者ごとに、適切な項目を記入しなくてはならないと法律でも定められています。

    仮に賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されますので注意が必要です。

    上記の時間に加え「休憩時間」や「欠勤日数」、「有給休暇の取得日数と残日数」も記録し管理した方が良いといえます。

    勤怠管理を実施する4つの目的

    勤怠管理を実施する目的について具体的に解説しています。

    目的1.正確な勤怠情報を把握し、正確な賃金を支払うため

    勤怠管理を行う1つ目の目的は、勤怠情報を確認し、正確な賃金を払うためです。

    従業員に賃金を支払うために実施する給与計算は、勤怠管理が正確に行われないとできません。働き方によって賃金が割増されることもあるため、労働時間だけでなく、休日労働や時間外労働の把握も必要となります。

    仮に正確な勤怠状況を把握できていなければ、正確な賃金を払うこともできず従業員とトラブルになることもあるため、必ず正確に把握できるようにしましょう。

    目的2.長時間労働を防止し、健康管理を行うため

    ここ数年は働き方改革の影響もあり、従業員の健康を維持するために長時間労働を防止することが事業所に求められています。

    勤怠管理によって従業員が働きすぎていないかを把握することもでき、もし働きすぎな従業員がいた場合は、業務量を減らすなどして健康管理を行うことができます。

    また、労働安全衛生法により、1カ月あたり80時間を超える法定外労働をした労働者に対して、疲労の蓄積が認められ、本人が申し出をしたら医師による面接指導をすることが義務付けられています。

    目的3.有給休暇の付与や取得状況などを管理するため

    パートやアルバイトの労働者の場合、有給休暇の付与日数は、週所定労働日数と継続勤務年数によって変動します。

    従業員一人ひとりに適した有休日数を付与するためには、従業員ごとにどれくらい働いたかを把握する必要があります。

    また、有給休暇が10日以上付与される労働者であれば、正社員、派遣労働者、契約社員、パート・アルバイトを問わず、5日分の有給休暇を確実に取得させなければなりません。そのため、有給休暇の日数を管理することも勤怠管理の目的の1つです。

    目的4.コンプライアンスの遵守

    勤怠管理を適切に行うことはコンプライアンスの遵守にも繋がります。

    労働基準法によって、法定労働時間や休日、時間外労働の上限、深夜労働や休日労働、有給休暇の取得などが定められています。

    勤怠管理が適切に行われていなければ、上限規制を超える時間外労働になっていないか、休日・休暇は適切に取得できているかを把握することができず、法律違反になることもあります。

    近年はインターネットやSNSが発達したこともあり、そのような法律違反を犯すと、ブラック企業というイメージが広まり企業の社会的信用を失いかねません。労働基準法を適切に守るためにも、勤怠管理を行う必要があります。

    勤怠管理を行うための4つの手段【比較表付】

    勤怠管理を行う手段はさまざまあり、手段別にメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。

    本章では、勤怠管理の手段について具体的に解説していきます。

    手段1.手書きの出勤簿

    勤怠管理を行う一つ目の方法として、手書きの出勤簿があります。

    この方法では、従業員が手書きで出勤時刻・退勤時刻・休憩開始時刻・休憩終了時刻を自己申告し、会社が確認します。

    特に準備が必要なく、手軽に実施できる方法ですが、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」には、労働者の自己申告制による勤怠管理は原則認めておらず、自己申告制の場合は特別な措置が必要だと記載されています。

    手書きの出勤簿

    メリット

    • 低コストで手軽に始められる

    • 紙なので手書きで打刻忘れや打刻時間の修正が容易

    デメリット

    • 集計作業に手間がかかり、人的ミスも発生しやすい

    • 書類の保管にスペースをとり、紛失のリスクがある

    こんな企業担当者におすすめ

    • 従業員が少ない企業

    手段2.タイムカード

    勤怠管理を行う二番目の方法として、タイムカードがあります。

    タイムカードはタイムレコーダーにカードを通すだけで出勤・退勤といった状況を自動的に打刻することができます。低コストで導入でき、従業員も手軽に操作できますが、テレワークや直行直帰などの外勤には対応しきれない側面もあるので注意しましょう。

    また、手書きの出勤簿と同様に集計作業が必要となります。

    タイムカード

    メリット

    • 比較的安価で導入ができる

    • 使い方が簡単なので従業員もすぐに活用することが可能

    デメリット

    • 集計作業に手間がかかり、人的ミスも発生しやすい

    • 打刻漏れの対応をする必要がある

    こんな企業担当者におすすめ

    • 従業員が少ない企業

    • 打刻作業の手間をなくしたい企業

    手段3.エクセル

    勤怠管理を行う第三の方法として、エクセルがあります。

    エクセルでは、従業員が始業時間、就業時間、残業時間を打ち込むことで自動的に集計でき、集計作業の工数を減らすことができます。

    ただし、従業員がエクセルに時間を入力するため、手書きの出勤簿と同様に自己申告制となり、導入には特別な措置が必要です。

    エクセル

    メリット

    • エクセルを導入している企業ならコストをかけずに導入できる

    • 集計作業を時間をかけずに行える

    デメリット

    • 数式を間違えると、誤った勤怠情報になる

    • 法改正のたびに数式を変更する可能性がある

    こんな企業担当者におすすめ

    • コストをかけずに集計作業の工数を減らしたい企業

    手段4.勤怠管理システム

    勤怠管理を行う第四の方法として、勤怠管理システムがあります。

    勤怠管理システムを導入することで、パソコンやスマートフォンで簡単に勤怠管理ができるようになります。リアルタイムでの打刻ができ、適切に労働時間を管理できるため、従業員が働きすぎていないかを把握することができます。

    また、法改正にも自動で対応できるシステムが多く、煩雑な作業を減らすこともできます。システムを導入すると月額費用が発生しますが、勤怠管理における工数を減らせることは大きなメリットです。

    勤怠管理システム

    メリット

    • リアルタイムで従業員の労働時間を把握できる

    • 自動集計のため集計作業がなく、人的ミスが発生しにくい

    • 打刻方法がさまざまあり、テレワークや在宅勤務に対応

    デメリット

    • 月額費用が発生する

    • 担当者や従業員がシステム利用に慣れる必要がある

    こんな企業担当者におすすめ

    • 勤怠管理の工数を減らしたい企業

    • 従業員の不正打刻を防止したい企業

    正確な勤怠管理を行う方法

    勤怠管理を行う上で気をつけなければいけないこととして、従業員の勤怠状況を正確に管理できているかがあります。

    これができていなければ、正確な賃金が払えないだけでなく、従業員が働きすぎていることに気づけない可能性もあります。

    そのような状況を防ぐために、正確な勤怠管理を行う方法を理解しましょう。

    勤怠管理の方法を見直す

    まずは、自社の勤怠管理の方法を見直し、正確に勤怠管理を行えているか判断しましょう。

    例えば、出勤簿やエクセルなどに従業員自身が出退勤の時刻を記入する方法は、自己申告に当てはまるため、ガイドラインに記載された措置ができているか見直しましょう。

    また、タイムカードで管理をしている場合は、打刻した後にも業務を続けるサービス残業が横行していないかなどを確認することをおすすめします。

    勤怠管理システムの導入

    正確な勤怠管理を行うなら、勤怠管理システムの導入がおすすめです。勤怠管理システムでは、パソコンやスマートフォン、タブレット、ICカードなどさまざまな打刻方法があるため、打刻漏れを減らして客観的な記録をつけることが可能です。

    また、出勤簿やエクセル管理だと勤怠時間をリアルタイムで把握するのは難しいですが、勤怠管理システムを利用すれば、従業員の日別の出退勤時間を迅速に把握することができます。

    勤怠管理を行う上での注意点

    国民の長時間労働を防ぐため、厚生労働省はここ数年で労働基準法をたびたび改正しています。これにより、労働時間を把握するための勤怠管理の重要性はより増しています。

    勤怠管理は適切に行わないと法に抵触してしまうこともあるため、必ず労働基準法を遵守した運用を行いましょう。

    本章では、勤怠管理で特に注意する点を解説しますので、参考にしてみてください。

    年5日の有休取得が義務化

    2019年の労働基準法の改正に伴い、有給休暇が10日以上付与される労働者であれば、雇用形態に関わらず、5日分の有給休暇を確実に取得させなければなりません。

    仮に有給休暇を年5日取得できなければ、労働基準法の第39条7に反することになり、同法の第120条により、労働者1人につき30万円以下の罰金が科されます。

    時間外労働(残業)が発生する場合36協定を締結する必要がある

    36協定は、正式名称を「時間外労働・休日労働に関する協定」といいます。労働基準法第36条に規定があるため、36協定(サブロク協定)と呼ばれています。

    労働基準法では、1日8時間、1週間40時間を法定労働時間と規定しています。また、法定休日は週1日です。この範囲を超えて労働を行う場合は、「36協定の締結」と「所轄労働基準監督署長への届出」が必要となります。

    仮に36協定の締結や届出をすることなく、時間外労働や休日労働をさせると、原則として労働基準法第32条違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されるおそれがあります。

    残業時間の上限規制

    前述した36協定には、定めることができる残業時間等の上限もあります。

    具体的な残業の限度時間は原則「月45時間・年間360時間」です。

    また、特別条項付き36協定を締結すれば、月45時間・年間360時間を超える残業が年6回まで可能になります。特別条項を定めた場合の限度時間は下記の通りです。

    • 1年の上限は法定休日労働を除き720時間以内で、これを超える時間の設定はできない。

    • 単月で法定時間外労働と法定休日労働を合わせた限度時間は、100時間未満。

    • どの2カ月ないし6カ月を参照しても時間外・休日労働の平均時間が月80時間以内。

    管理監督者の勤怠管理義務化

    「管理監督者」とは企業内で地位と権限を与えられ、業績や業務遂行を監督する人のことです。

    従来、管理監督者の勤怠管理については厚生労働省のガイドラインに「管理監督者も労働時間を把握するのが望ましい」という記載があるのみでした。

    管理監督者の勤怠管理は義務ではなく、あくまで企業の判断に任されている状態だったのです。

    しかし、2019年4月から施行された働き方改革関連法で、労働者の労働時間の把握が必要となりました。これにより、管理監督者も他の従業員と同様に労働者であることから、労働時間を把握することが義務となっています。

    月の時間外労働が60時間を超えたら割増賃金率が50%となる

    月の時間外労働時間が60時間以下までの部分は、25%以上の割増賃金を支払う義務があります。

    これに対して、月の時間外労働が60時間を超えた部分に関しては、大企業のみ50%以上の割増賃金を支払うのが義務となっています。

    しかし、2023年4月1日からは中小企業に対しても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられるため注意が必要です。

    まとめ|適切な勤怠管理を行うためにも目的を理解しよう

    勤怠管理は、従業員の就業状況を管理し、従業員がどれくらい働いたかを把握するために実施します。勤怠管理を行う目的は、主に下記の通りです。

    勤怠管理には、従業員の健康管理やコンプライアンスの遵守といった幅広い目的があるので、全ての企業は必ず勤怠管理を実施しましょう。

    ただし、勤怠管理に不備があれば、上記の目的を達成できないため、適切な勤怠管理を行うようにしましょう。そのために下記の2点の実施をおすすめします。

    • 勤怠管理の方法を見直す

    • 勤怠管理システムの導入

    よくある質問とその回答

    よくあるご質問

    Q1.勤怠管理では従業員の就業状況をどこまで把握する必要がありますか?

    勤怠管理で記載するべき事項はガイドライン等によって、次のように定められています。

    • 労働日数

    • 労働時間数

    • 休日労働時間数

    • 時間外労働時間数

    • 深夜労働時間数

    • 始業・終業時刻

    また、上記の項目に加え「休憩時間」や「欠勤日数」、「有給休暇の取得日数と残日数」も記録し管理した方が良いといえます。

    詳しくは「 1分で理解する勤怠管理とは?企業が従業員の就業状況を正確に把握し管理すること」の記事をご覧ください。

    Q2.勤怠管理ではどのような点に注意すべきですか?

    労働基準法を遵守した勤怠管理を実施するためにも、下記の5つの項目に注意しましょう。

    • 年5日の有休取得が義務化

    • 時間外労働(残業)が発生する場合は36協定を締結する必要がある

    • 残業時間の上限規制

    • 管理監督者の勤怠管理義務化

    • 月の時間外労働が60時間を超えたら割増賃金率が50%となる

    詳しくは「勤怠管理を行う上での注意点」をご覧ください。

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