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基礎知識

労務リスク対策を行う上で注意すべきポイント

著者:チームスピリット編集部

どんな企業でも、給与計算、社会保険手続き、交通費計算、入社・退職手続きなどの労務業務が不可欠です。こうした労務業務は法律や会社規定に基づいているだけに、相談事やトラブルが頻発することも珍しくありません。そのため、企業は労務管理の体制を整備し、長時間労働の是正、ハラスメントの防止、個人情報の漏洩など、さまざまな「労務リスク」に上手く対処する必要があるのです。

労務リスク対策を疎かにすると、従業員や顧客からの信頼の失墜、採用時のイメージダウンなど、事業運営において悪影響をおよぼす恐れがあります。従業員が安心して業務に取り組める環境を整える意味でも、担当者は常に労務リスクを負わないための取り組みを考え、実行することが求められます。では具体的にどのようなことを実践していくべきなのでしょうか。本記事では、労務リスクの代表的な事例と対応策について紹介します。

労務リスク回避ための2つの手段

冒頭で労務リスク対策が不可欠であることを説明しましたが、その最たる方法としては「専門家に頼る」「ツールを活用する」という2つの手段が挙げられます。もちろん、担当者が法的な知識を学んだり、社内の管理体制を整備したりすることは重要ですが、それだけで労務リスクをすべて回避できるとは限りません。専門家からのアドバイスを取り入れ、さらに業務効率を高める管理ツールの導入をおすすめします。

労務リスク回避の手段1:専門家に頼る

労務リスク対策の領域は非常に多岐にわたり、さらに法律などの専門分野におよぶため、自社の人材だけでは対応しきれないケースも少なくありません。担当者が労務の知識を学ぶのはもちろんですが、各領域に精通している専門家を頼ることがもっとも効率的だと言えます。具体的には、社労士や弁護士が挙げられます。

社労士は労働法や社会保険のプロフェッショナルであり、労務業務全般について相談できます。時には指導もしてもらえる頼もしい存在です。また、法律のプロフェッショナルである弁護士にも協力してもらうことで、将来トラブルの種になりそうな潜在的リスクの芽を摘んだり、万が一に訴訟などに発展した際に対応をお願いしたりすることができます。労務リスク対策の第一歩は、自社のパートナーとなる信頼できる専門家を見つけることだと言えます。

労務リスク回避の手段2:ツールを活用する

労務業務には、例えば「適切な賃金の支払い」「長時間労働の是正」「従業員の健康管理」などの対応が挙げられますが、こうした対応を的確に遂行するうえでは勤怠管理が欠かせません。従業員の適正な就業状況を把握するのはもちろんのこと、過重労働の防止や正確な残業代を算出するうえでも役立ちます。また、ツールによって作業が自動化することでヒューマンエラーの減少や集計の手間の削減にもつながるでしょう。

以前までは勤怠管理において紙のタイムカードや出勤簿を使用していた企業が大半を占めていましたが、オンラインで管理できるクラウド型の勤怠管理ツールの人気が高まっています。クラウド型であれば、リアルタイムで勤怠の打刻状況を把握することも可能です。ツールの導入によって、効率的に即時的に就業状況を管理する体制が整備できます。担当者が労務管理をしやすい環境を整えることも労務リスクの回避につながるはずです。ツールの活用はその一翼を担うでしょう。

特に注意すべき4つの労務リスクとその対策

「専門家に頼る」「ツールを活用する」という方法を採用し、労務リスクを回避することは重要です。しかし、一口に「労務リスク」と言っても具体的にはどんな懸念があるのでしょうか。以下では特に注意すべき4つの労務リスクとその対策を紹介します。

労務リスク1:ハラスメント

自身には悪気がないものの、相手が不快に思う言動や行動を取る「ハラスメント問題」。平成元年に性的な嫌がらせを行う「セクシャルハラスメント」の裁判が行われて世間に知られるようになって以降、さまざまなハラスメントが問題視されるようになりました。上司から部下に対する「パワーハラスメント」、妊娠出産に関する「マタニティハラスメント」、倫理や道徳に反した嫌がらせをする「モラルハラスメント」などが代表格です。社内で日常的に無意識のうちに行われていることも、ハラスメントに該当する恐れがあるため、リスクマネジメントが求められます。

【ハラスメントが起こらないようにする取り組み】

ハラスメント問題の予防には、従業員一人ひとりへの意識づけが欠かせません。「ハラスメント問題はどの会社でも起こりうること」という大前提を理解してもらうことが重要であり、「まさかうちの会社では起きないだろう」という油断がハラスメントの発端になることを注意喚起しておきましょう。社内勉強会を開催したり、広報を通じて普段から情報発信したりするなど、従業員のハラスメントに対する意識を高める動きが重要になります。

また、意識づけと同時に行いたいのが「ストレスチェックの実施」と「ホットラインの設置」です。ハラスメント問題で悩んでいる方の中には、周囲に相談できず1人で抱え込んでいる従業員もいるかもしれません。そんな方のSOSにいち早く気づき、安心して相談できる環境を整えることが求められます。ストレスチェックの実施によって従業員の状況を把握し、ホットラインの設置でもしもの時の心の拠り所ができれば、従業員のメンタルを救うことにもつながり、大きなトラブルの予防にもなり得るでしょう。

労務リスク2:労働災害

労務リスクとしては、勤務中、もしくは通勤中に発生する不運な事故に関しても該当します。業務関連が原因のケガや病気などは「労働災害」と呼ばれていますが、特に従業員数が50人以下の小規模の企業で発生する割合が高いことが問題視されています。小規模事業者では費用・人材の不足から、災害防止対策の実施も簡単なことではありません。しかし、だからこそ一人ひとりの防災対策を高め、安心安全に働ける職場環境を目指す姿勢が重要になります。

【労働災害を回避するための取り組み】

労働災害を起こさないために重要なのは、労働安全衛生関係法令で事業者に義務づけられている措置を遵守することです。事業者に義務付けられている措置とは「危険防止の措置」「健康管理の措置」「安全衛生管理体制の整備」「安全衛生教育の実施」の4つです。

危険防止の措置 機械設備の使用や火災・爆発の危険物を取り扱う際の事業者としての対応内容
健康管理の措置 従業員への年1回の定期健康診断の実施、有害業務における半年に1回の特殊健康診断の実施
安全衛生管理体制の整備 現場に安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者らを選任して責任者を配置し、従業員からは意見を聴取
安全衛生教育の実施 従業員を雇用する際に、安全衛生のための教育を実施

上記の内容は事業者にとって当たり前の対応のように思えますが、こうした取り組みを怠ることで労働災害のリスクが高まります。従業員の健康や命を預かっているという意識を持って労災対策を行うことが重要です。

労務リスク3:長時間労働や勤怠に関するリスク

長時間労働や勤怠に関するリスク

2019年4月より働き方改革関連法が順次施行が開始されたことで、法令遵守できない企業は罰則の対象となります。そのため、従業員の就業状況を正しく管理できていない状況は言うまでもなく労務リスクであり、長時間労働の是正や有給休暇取得を促すためにも適正な勤怠管理が求められます。労務担当者は、常日頃から正確な勤怠管理を心がけ、法令遵守を徹底することが大切です。

【勤怠関連の問題防止のための取り組み】

勤怠関連で問題発生を防ぐためには、法令遵守が鉄則となります。そのためには、まずは働き方改革関連法を正しく理解することから始めましょう。すでに施行が始まっている働き方改革関連法では、法令順守しない企業に対して罰則のある事項も存在します。もし働き方改革関連法への対策が万全ではないのであれば、罰則のある事項から優先的に対策することをおすすめします。特に対応を急ぐべきは以下の2つの改正事項です。

残業時間の上限の規制

  

時間外労働は原則として月45時間、年360時間まで。

特別条項付き36協定を結んだ場合でも

「時間外労働が年720時間以内」

「休日労働を含む時間外労働は月100時間未満」

「2~6ヶ月の休日労働を含む時間外労働を平均80時間以内」

「月45時間を超えることができるのは年6ヶ月」

の制限が追加

年5日の年次有給休暇付与の義務化  

年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、

年次有給休暇のうち5日については、

使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられた

残業時間の上限の規制に関しては、違反すると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」。年5日の年次有給休暇付与の義務化は、違反によって「30万円以下の罰金」が科されます。そのため、優先的に対策を講じる必要があります。法令遵守しつつ、労務状況を客観的に把握するためには、正確な勤怠管理が不可欠です。

労務リスク4:正しい給与が支払われないリスク

働き方改革関連法では、正規雇用と非正規雇用が同じ職場で同じ業務を行っていても賃金の格差が生じる現状にメスが入りました。それがいわゆる「同一労働同一賃金」です。雇用形態にかかわらず「基本給は同一にすべき」という制度であり、不平等な労働環境の是正が目的となります。この改正によって、企業側としては働いた分に見合った正しい給与を従業員に支払う必要があります。また、福利厚生や昇進に関しても雇用形態によって区別すべきではないため、見直さなければいけません。

正しい給与が支払われないリスク

また、多くの企業で残業代の未払いの問題が深刻化しています。企業としてはコスト削減をしたいところではありますが、従業員が行った労働における対価はきちんと支払わなければいけません。そのためには、残業代の計算もミスなく正確に行う必要があります。それらの問題をクリアするためには、やはり適正な勤怠管理が欠かせないと言えるでしょう。

【給料に関するリスク軽減の取り組み】

従来のタイムカードなどの手動での勤怠管理では、残業代の複雑な計算を行うのは大きな負担になるうえ、ミスの原因にもなりました。勤怠管理システムの中にはCSVデータを出力することで給与計算と連動できるものもあります。ミスの防止だけでなく担当者の負担を減らせるので、部署間の連携もスムーズにしてくれます。

賃金の未払に関しては、平成28年度に厚生労働省が賃金不払い残業の是正として監督指導した企業数は1,349企業にものぼり、総額は127億2,327万円にもなりました。もしも、未払い賃金に不満をもった労働者が労働基準監督署に通報した場合、担当者の逮捕や送検の危険性すらあるのです。未払いによって社会的信頼の失墜にもつながりかねないので、きちんと対策を講じましょう。

労務リスクの対応は社内完結が難しいのが現実です

先述した通り、自社だけで労務リスクをすべて管理して対策を講じるのには限界があります。労務リスクは裾野が広いうえに、法改正によって規制も厳しくなりました。それらをすべて把握して対策を練るには相当のコストがかかります。

そのため、必要に応じて専門家に相談しながら、社内の規則をチェックし、必要なツールを取り入れましょう。新しいツールを取り入れることに予算を投じたくないと考える担当者もいるかもしれませんが、人件費の削減と社員のパフォーマンス向上を考えれば、導入費を支払っても十分におつりがきます。労務リスクの管理には専門性が求められるので、トラブル防止の観点から考えても正確性を重視して専門家や外部サービスを活用することが得策だと言えるでしょう。