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基礎知識

改正労働安全衛生法で定められた企業の義務とは?5つの改正ポイントも解説

著者:チームスピリット編集部

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を保護し、働きやすい職場環境を実現するための法律です。この法律に基づき、事業者は、業種や事業場の規模に応じて、適切な措置を講じる必要があります。労働安全衛生法は2019年の働き方改革により、労務管理や勤務管理において重要な改正が行われました。この記事では、改正内容を中心に、人事労務担当者が知っておくべき労働安全衛生法の概要や事業者が行うべき措置などについて解説しています。

●目次

1.労働安全衛生法とはどんな法律?

 ・労働基準法と労働安全衛生法の違い

 ・労働安全衛生法において事業者が実施すべき主な措置

2.近年の労働安全衛生法改正の流れ

3.2019年の働き方改革における労働安全衛生法改正のポイント

 ・産業医・産業保健機能の強化

 ・産業医面接指導基準を80時間へ引き下げ

 ・労働時間の状況の把握と保管の義務

 ・法令等の周知の方法

 ・労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

4.まとめ

5.働き方や役職問わず正確な勤怠管理を行うには

1.労働安全衛生法とはどんな法律?

労働安全衛生法(安衛法)は、第1条~第123条にわたる規則でまとめられています。その中でも特に重要な内容や、法律の目的および事業者の役目について解説します。労働安全衛生法と同じく、労働者や事業者にとって働き方・働かせ方の基準となる労働基準法との違いについても紹介します。

労働基準法と労働安全衛生法の違い

労働基準法とは、原則アルバイトやパートを含めたすべての労働者を保護する法律として、1947年に制定されました。労働条件の最低基準を定めることで、労働者を保護するのが目的です。労働基準法が規制する労働条件には、賃金、労働時間、休憩・休日、就業規則などが含まれます。これまでも労働をめぐる働き方の変化に合わせて改正がされてきましたが、2019年の働き方改革にともない、新たな改正労働基準法の施行が始まりました。

一方、労働安全衛生法は1972年に労働基準法から分離した法律で、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する」ことを目的として定められました。労働契約全般のルールを定める労働基準法に対し、労働安全衛生法は労働者の安全・健康を確保するための安全衛生対策を推進しているという違いがあります。

労働安全衛生法は企業に対して安全・衛生委員会や、労働者の安全・衛生を確保する産業医・総括安全衛生管理者などの配置、また健康診断や安全衛生教育を含めた労災防止の措置などを定めています。

労働安全衛生法第2条第3項により、労働安全衛生法の対象となるのは「事業者 事業を行う者で、労働者を使用するもの」です。つまり、労働者を使用する企業が対象となります。なお、以下の労働者は労働安全衛生法の適用外です。

・同居の親族のみを使用している事業主に使用される労働者
・家事使用人
・船員 
・鉱山 ※一部、労働安全衛生法の対象 
・国会職員、裁判所職員、防衛庁職員 ※一部、労働安全衛生法の対象
・非現業(公権力の行使を有する)の一般職である国家公務員 ※一部、労働安全衛生法の対象
・非現業(公権力の行使を有する)の地方公務員 ※一部、労働安全衛生法の適用除外となる法令など

なお、公務員であっても市営バス運転手や公共施設の清掃作業員などはここで言うところの「現業」にあたり、労働安全衛生法の適用対象です。

労働安全衛生法において事業者が実施すべき主な措置

労働安全衛生法では企業が実施すべきさまざまな措置が規定されていますが、中でも代表的なものが以下の4つです。

1.安全衛生管理体制の整備
2.危険防止措置
3.安全衛生教育措置
4.健康保持や健康増進のための措置

1.安全衛生管理体制の整備

労働者が安全かつ快適な職場環境で働けるよう、企業は安全衛生業務従事者の選任を行うことが義務付けられています。主な安全衛生業務従事者は以下のとおりです。

名称 内容 備考
総括安全衛生管理者

労働者の危険又は健康障害を防止するための措置や健康診断の実施など、職場の安全衛生業務の統括管理を行う

業種区分によって選任すべき規模の基準が異なる
安全管理者 安全衛生業務のうち、安全に係る技術的事項を管理する 50人以上の労働者を使用する一定の業種の企業が選任する
衛生管理者 安全衛生業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理する 常時50人以上の労働者を使用する企業が選任する
産業医 労働者の健康管理を行う医師。専門的な立場から指導や助言、また事業者に勧告を行う 50人以上の労働者を使用する企業が選任する
安全衛生推進者または衛生推進者 労働者の安全・健康確保などに関する業務を行う。衛生推進者は衛生に係る業務のみ実施する 10人以上50人未満の労働者を使用する企業が選任する
統括安全衛生責任者 複数の関係請負人の労働者が混在する場合において、労働災害防止に係る指揮・統括管理を行う

特定の業種・場所において選任する

作業主任者 労災防止のため、足場の組立て作業や機械の点検の実施など、労働者の指揮監督を行う 政令で指定された特定の作業を行う際に、免許取得者または技能講習修了者の中から選任する

2.危険防止措置

労働者を危険から守り健康被害・健康障害を防ぐために、事業者は状況に応じた措置を講じる必要があります。措置は大きく3つに分けられます。労働者の安全のために事業者がこれらの措置を実施すると同時に、労働者は措置の必要事項を遵守する義務があります。

事業者が実施すべき措置 措置の例
危険防止措置

・機械設備や爆発物などによる危険への措置
・土砂崩れや墜落の危険がある場所における作業への措置

健康障害防止措置

・ガスや蒸気、原材料などによる健康障害への措置
・放射線、温度、騒音などによる健康被害への措置

急迫した危険の防止措置 ・作業停止や退避などの措置

また、建設現場をはじめとする一部業務において、事業者は労働者の安全のために保護具の設置・点検、無資格者の就労禁止の徹底などの措置が義務付けられています。

3.安全衛生教育措置

事業者は、労働者に安全衛生教育を実施する義務があります。一般的に安全衛生教育は雇用時や作業内容の変更時に実施され、危険・有害業務に新たに就く労働者には特別教育を行います。また、法令が定める業種において職長に就く場合にも、安全衛生教育の実施が必要です。

なお、労働災害防止のための安全衛生業務従事者に従事する者や、すでに危険・有害業務にあたっている者への安全衛生教育は努力義務とされています。

4.健康保持や健康増進のための措置

労働安全衛生法の第7章には、「健康の保持増進のための措置」が規定されています。具体的には、労働衛生の三管理としての作業環境管理・作業管理・健康管理に加えて、心身の健康保持・増進を目的とした措置が定められています。

健康管理には健康診断の実施とその記録の保存・管理、結果に対する医師の助言などが含まれており、労働安全衛生法に基づく健康診断は企業の義務とされています。

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
(労働安全衛生法第66条)

近年の労働安全衛生法改正の流れ

1972年の制定以来、労働安全衛生法は現在まで幾度も改正が実施されました。近年における法改正の流れと労務管理に関係するポイントをまとめた表が以下となります。

改正年 改正内容の例 施行時期
2005年

・事業者に対し、週40時間超の労働が月100時間を超える
労働者は、医師による面接指導を受けることを義務付ける。

2016年4月
2014年

・メンタルヘルスの改善を目的に、従業員50人以上の企業に
 対して、医師・保健師等によるストレスチェックの実施が義務
 付けられる。それ以外の企業は努力義務。
・労働者の受動喫煙を防止するための措置が努力義務になる。

2015年12月
2019年

・健康管理を目的に、労働者の労働時間の把握・保管が義務
 付けられる。
・産業医・産業保健機能の独立性・中立性が強化される。
・産業医による面接指導基準が月80時間に引き下げられる。 

2019年4月 

2019年の働き方改革における労働安全衛生法改正のポイント

2019年の働き方改革関連法の中には、労働安全衛生法に関する改正も含まれています。法改正の特に重要なポイントを解説します。

産業医・産業保健機能の強化

労働者の健康を管理する産業医が、専門的立場からより独立的・中立的に職務を遂行できるように、身分の安定が図られました。

また、事業者に対し、産業医の辞任・解任時には、安全衛生委員会・衛生委員会にその旨および理由を報告するよう義務付けられました。

産業医面接指導基準を80時間へ引き下げ

専門医による労働者の面接指導の基準が、それまでの月100時間から月80時間へと引き下げられました。

月80時間を超えて労働しており、疲労の蓄積が認められ、かつ労働者本人から申し出がある場合、面接指導を行うことが義務付けられています。また事業者は労働時間が月80時間を超えた労働者に対して、労働時間の情報を通知する義務があります。さらに事業者は、労働時間に関する情報を産業医に提供する必要があります。

産業医選任の条件は下記です。

労働者数 産業医の数 嘱託または専属
49人以下 義務なし(健康管理の努力義務) 選任
50人以上999人以下 1人 嘱託
1,000人以上3,000人以下 1人 専属
3,001人以上 2人 専属

改正により、事業者は労働時間が月80時間を超えている自社従業員に情報を通知し、産業医にも提供しなければなりませんが、この際、勤怠管理システムなどを活用した正確な勤怠データを提示するのが望ましいでしょう。

また、労働時間が月80時間以上の従業員の勤怠データは、勤怠管理システムによって簡単に出力できる、またはパソコン上ですぐにデータとして閲覧できるような状態であると産業医と連携した長時間労働対策もスムーズに検討できます。個人情報の保護に配慮しながら、情報共有がしやすい体制づくりを進めることが重要です。

労働時間の状況の把握と保管の義務

働き方改革関連法の施行と安全衛生法の改正により2019年4月から、労働時間や労働状況の把握」が全ての企業に義務付けられました。

この義務は新しく策定された、「労働時間の適正把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の中で具体的に記載されています。ガイドラインが提示している、労働安全衛生法および労働安全衛生規則の内容を見てみましょう。

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
(労働安全衛生法第66条の8の3)

法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
(安全衛生規則第52条の7の3)

参考(PDF資料):厚生労働省|労働時間の適正把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

ここから見て取れるように、企業が従業員の労働時間を適正に把握するために、原則として、以下の方法で労働時間を記録するよう求められています。

・タイムカードによる出勤・退勤時刻の記録
・ICカードによる出勤・退勤時間の記録
・パソコンのログインからログアウトまでの時間の記録 など

これらを活用した労働時間管理が必要なのは、従業員の自己申告に基づく労働時間は正確とは言えず、労働時間をより「客観的な記録」として残すことが求められているからです。

客観的な労働時間の把握を行うことにより、長時間労働を防止するだけでなく、自社で発生している時間外労働や割増賃金の額を正確に把握でき、働き方の見直しにもつながります。これらの労働時間の把握を効率的に行うためにも、勤怠管理システムをはじめとするツール・システム導入が必要になるでしょう。

この労働時間の把握義務は、正規、非正規関係なく、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者が対象です。また、労働時間の状況の記録は3年間保存する義務があり、管理監督者や裁量労働制の適用者に対しても同様の措置を講じる必要があります。

法令等の周知の方法

産業医を選任した企業は、下記について労働者に周知する必要があります。

・産業医等の具体的な業務内容
・労働者から産業医への健康相談の申し出の方法
・産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの方法


周知の方法としては、労働者が常に確認できる場所に掲示する、書面を交付する、データとして記録し各作業場で常に確認できる機器を備える、などがあります。

労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

労働安全衛生法第104条では、健康診断や面接指導、ストレスチェック検査の結果などを含む「労働者の心身の状態に関する情報の取扱い」について以下が規定されています。

事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。

ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

労働者が安心して健康診断や面接指導などを受けられるよう、事業者はこれらの情報を適正に管理するための措置を講じる必要があります。

4.まとめ

今回の記事では、人事労務担当の方に向けて、2019年の働き方改革による労働安全衛生法の改正内容を中心に解説しました。

法改正により、事業者は労働者の労働時間をより適切に把握するための対応や、労働者の心身を健康に保つための措置が求められるようになり、より企業にとって勤怠管理の重要性が増したと言えます。 企業は、産業保健機能の強化・労働者への法令周知など、法改正に準じた対応を行う必要があります。改正に合わせた措置を現場で遵守し、自社従業員の健康や働き方改善に向けた取り組みを進めましょう。

5.働き方や役職問わず正確な勤怠管理を行うには

改正労働安全衛生法により、労働基準法では正確な労働時間管理が必要ないとされている管理監督者やみなし労働時間制の労働者にも、正確な労働時間管理が必要となりました。

厚生労働省が定めているガイドラインに沿って、勤怠管理システムを活用した正しい労働時間管理が必要です。 勤怠管理の「チムスピ勤怠」なら、時間外労働やフレックスタイム制勤務・リモートワークなど、従業員それぞれの複雑な働き方にも対応した勤怠管理が可能です。

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