ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング経営とは、経済的な利益を求めるのではなく、従業員の幸福度を追求する取り組みのことです。ウェルビーイングがはじめて言及されたのは、1946年に世界保健機関(WHO)が定めた憲章がきっかけと考えられます。
出典:「健康の定義」(公益社団法人 日本WHO協会)
このウェルビーイングには、ふたつの考え方があります。
・主観的ウェルビーイング
・客観的ウェルビーイング
主観的ウェルビーイングとは、人生の充実や幸福を自身で評価することです。一方の客観的ウェルビーイングは、GDPや健康寿命といった、数値で客観的に評価されることを意味します。
国際連合(国連)による「世界幸福度ランキング(World Happiness Report)」の最新版において、日本は54位に位置づけられています。先進国とされる一方で、世界的に見ると幸福度は高くありません。世界幸福度ランキングは国民1人当たりのGDPをはじめ、さまざまな角度から評価された順位のため、ウェルビーイングの達成度の指標ともされています。
出典:「Happiness, Benevolence, and Trust During COVID-19 and Beyond」(World Happiness Report)
日本の幸福度が低い理由としてあげられるのは、経済成長を優先した客観的ウェルビーイングの経営が主流とされてきたことです。対して、主観的ウェルビーイングは従業員の人生だけでなく、企業の業績にも大きな影響を与えます。ウェルビーイング経営は、従業員の幸せを追求することが、企業の利益につながるという考え方なのです。
ウェルビーイング経営を行うメリット・デメリット
ウェルビーイング経営では、社員の幸せを追求することで、企業のメリットにつながります。具体的にどのようなメリットがあるのか、デメリットも合わせて紹介します。
ウェルビーイング経営を導入する主なメリットとデメリットは、下記のとおりです。
メリット | デメリット |
離職率低下につながる | 利益の追求とのバランスが取りにくい |
多くの人材を確保できる | |
生産性の向上が期待できる | すぐには売上につながりにくい |
企業価値を向上させられる |
ウェルビーイング経営を推進することは、企業価値の向上にも寄与します。近年、投資家からは人材に投資する企業が評価される傾向があり、資金を集めやすくなるメリットもあります。
一方で、ウェルビーイング経営は即効性が期待できないのが大前提で、 中長期的な取り組みが必要となります。そのため費用と時間はかかりますが、将来的には企業にとってのメリットの多い取り組みです。
ウェルビーイングを構成する5つの要素と 2種類のモデル
これまでは、ウェルビーイング経営の概要について解説してきました。それでは、ウェルビーイングとは具体的にどのような要素で構成されている のでしょうか。主に5つの要素で構成されていると言われています。
5つの要素にはふたつの考え方があります。心理学者が提唱する「PERMAモデル」と「ギャラップ社が定義するモデル」のふたつです。
ここでは、代表的なふたつのモデルについて解説します。
PERMAモデルによる5つの要素
PERMAモデルは「ポジティブ心理学」を発展させ 、マーティン・セリグマンによって2011年に定義されました。ウェルビーイングを向上させるために必要な5つの要素の頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。
PERMAモデルが定義する5つの要素は、下記のとおりです。
Positive emotion:ポジティブな感情を持っている
Positive emotionは、喜び、感謝、安らぎ、楽しい、希望、感動などのポジティブな感情のことを指します。ネガティブな悲しい、悔しいという感情でも、失敗を糧に成長したり向上心を得たりなどポジティブな感情へつながる場合はPositive emotionに含まれます。
Engagement:何事に対しても積極的に関わっている
Engagementは、没頭、没入、夢中、熱中、専念するといった、物事に積極的になる状態を指します。何かに積極的に関わっているとき、ネガティブな感情を持つことはありません。熱中できることは幸せな状態だといえます。
Relationship:他の人と肯定的で良質な関係性を築いている
Relationshipは、援助、協力、意思疎通、友好など、他者と肯定的で良質な関係性を築けている状態です。良好な人間関係を築いている人ほど、幸福度は高いといえます。
Meaning:人生に意味・意義を自覚、目的を待っている
Meaningは、生きがい、社会貢献、利他行為、宗教などの人生の意味、意義を見つけ自覚できていることを意味します。幸福度が高い人は、自分の存在や役割、仕事や人生に対してポジティブな感情を持っているといわれています。
Accomplishment:達成感を感じている
Accomplishmentは、成果、自己効力感、功績といった達成感を得られている状態を指します。物事に対して抱く達成感はポジティブな感情を引き起し、多くの成功体験は人生を充実させます。
ギャラップ社による5つの要素
ギャラップ社は、世界的な調査やコンサルティングを行う企業です。同社が世界150カ国における調査の結果導き出した 5つの要素も、ウェルビーイングを測る指標として良く知られています。
Career Wellbeing(仕事による幸福)
Career Wellbeingは、仕事だけではなく、プライベートも含めた人生の幸福度を意味します。仕事の経歴や実績と、家事や育児、趣味など私生活も要素として含まれます。
Social Wellbeing(良好な人間関係による幸福)
Social Wellbeingは他者と良い関係を築けるかに関する幸福度をさします。職場や家庭、学校などで関わる人と、交友関係や信頼関係のある良好な関係を結べているかが指標となります。
Community Wellbeing(地域コミュニティによる幸福)
Community Wellbeingは地域コミュニティによる幸福度を意味します。家族、友人、学校、会社など自身が所属する地域社会に帰属意識はあるかなど、つながりの強さを測ります。
Physical Wellbeing(身体的な幸福)
Physical Wellbeingは身体と心の幸福度を意味します。心身共に健康で、仕事に対するやりがいをもち、ポジティブな気持ちで過ごせているかなどが指標となります。
Financial Wellbeing(経済的な幸福)
Financial Wellbeingは、経済的に満たされていることを意味します。安定した収入や、資産を有しているかなどの要素が含まれます。
まとめ
ウェルビーイング向上の取り組みについて、設定する目標は企業によって異なります。5つの要素は、目標設定や効果の測定時など、ウェルビーイングの取り組みには欠かせない指標です。
PERMAモデルとギャラップ社が提唱する5つの要素から分かるように、ウェルビーイングには、健康だけでなく、精神的にも社会的にも満たされる必要があります。
また、幸福学を研究する前野隆司氏が提唱する「幸せの4つの因子」を高めることも、ウェルビーイングには有効です。「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」の4つの因子を高め、自ら積極的に行動することで「幸福度」はあがっていくとされています。
ウェルビーイング施策とともに活用すれば、従業員の心身の健康および幸福度をより高めることが期待できます。まずは自社の状況を見直し、労働環境やコミュニケーションにおける課題を明確化しましょう。そのうえで、有効な施策を考えることが重要です。