2019年4月に施行された働き方改革関連法により、残業(時間外労働)の上限規制が導入されました。一般企業ではすでに導入が始まっていますが、医師や建設業、運送業などでは特例として猶予期間が設けられ、2024年4月から適用が始まります。
今回は残業時間の上限規制をはじめ、2022年時点で把握すべき残業に関する各種ルール変更について解説します。
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●目次 |
1.働き方改革関連法で変わる残業時間の上限規制とは
2019年4月に施行された「働き方改革関連法」では、以下のような法改正がなされました。
- 残業時間の上限規制
- 有給休暇の取得義務化
- 高度プロフェッショナル制度創設
- フレックスタイム制の清算期間変更
- 勤怠管理の対象拡大(管理監督者・みなし労働時間制の労働者)
- 勤務間インターバル制度
- 産業医の機能強化
ここでは、既に大企業、中小企業ともに導入が始まっている残業時間の上限規制について説明します。
2019年から残業時間の上限規制が労働基準法で定められた
残業時間の上限規制導入により、残業時間の上限が原則「月45時間・年360時間」までと労働基準法第36条*で定められました。この残業時間の上限規制は、すでに大企業では2019年4月から、中小企業でも2020年4月から適用されています。
また、臨時的かつ特別な事情があり、残業時間が「月45時間・年360時間」を超える場合には特別条項付き36協定の締結が必要です。ただし、特別条項付き36協定を締結した場合でも、以下の点を守らなければ法違反となります。
*出典:e-Gov法令検索|労働基準法
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参考:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制わかりやすい解説
なお、上記の残業時間(時間外労働)には休日労働も含まれます。
違反した場合の罰則が明記される
導入された残業時間の上限規制に違反して残業をさせた場合、罰則として6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。
労働基準法の改正を含む働き方改革関連法の施行前は、特別条項付き36協定さえ結んでいれば、従業員に過剰な時間外労働をさせていた場合に科される罰則は設けられていませんでしたが、法改正により罰則が明記されたことで、企業はより積極的な残業削減の取り組みが求められるようになったのです。
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2.2020年に対応が必要になる残業に関する法改正
従業員は企業から支払われるべき残業代を受け取っていない場合、残業代請求権に基づき、未払い分を請求することができます。2020年には労働基準法改正により残業代の請求権のルール変更がなされました。ここでは2022年4月から具体的な効力を発揮するルール変更の内容について解説します。
2020年4月から残業代請求の時効は「3年」へ
労働者がこれまで未払い分の残業代を請求できる権利である残業代請求権の時効は、請求できる状態になってから2年間でした(労働基準法第115条)。
労働基準法改正により2020年4月1日以降、残業代請求権の時効期間は2年から「3年」へと変更されました。これにより、労働者側は2020年4月1日以降に発生する未払い残業代に関しては、3年前まで遡って請求することが可能になったのです。この「時効期間3年」が適用されるのは、最短でも2022年4月1日以降です。
残業代支払いについて時効3年の効力が発揮する
時効期間が2年から3年に延長されたことにより、2020年4月1日以降に発生した未払い残業代の請求権は2023年4月まで有効になります。つまり、時効3年の効力が発揮される、2020年4月1日以降に従業員から未払い残業代の請求があった場合には、企業は3年分遡って残業代を計算し、従業員に支払わなければなりません。
時効期間の延長により、企業の側で残業代未払いがあった場合には従来と比べ1年分多く残業代を支払わなければならず、精算のための事務作業が増える、などの影響があります。
2023年4月以降に未払いの残業代の請求があった場合には、3年分の残業の記録に基づき、適切な対応を検討しましょう。
3. 2023年に施行される残業に関する法改正
労働基準法において、2023年に施行される残業に関する法改正について解説します。
中小企業にも適用、月60時間の法定割増賃金率が50%に引き上げ
これまで中小企業に対しては月60時間超の残業(時間外労働)に対する割増賃金率を50%以上とする規定の適用が猶予されてきました。
しかし、働き方改革に伴う労働基準法改正により、2023年4月1日までに適用猶予の廃止が決定されました。以下のとおり中小企業も月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は50%以上が適用されます。
引用:厚生労働省 中小企業庁|2023年4月1日から月時間60超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
なお、月60時間超の割増賃金率50%以上の適用を回避する目的で、休日振替を行い、休日労働の割増賃金率35%以上を適用する対応は、厚生労働省としても「労働基準法の趣旨に照らして望ましくない」と明言しています。この見解にも十分留意して対応を進めましょう。
対応を怠ると違法になるケースも
月60時間超の残業に対する割増賃金への対応について、以下2つのケースでは違法となります。
1.正しい金額で残業代を支払っていない 2.36協定の特別条項を結んでいない(一般条項しか結んでいない) |
残業代を適切に支払わないのは労働基準法違反です。罰則として「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」 を科せられるおそれがあります。
また、36協定の特別条項を結んでいない場合、従業員に月45時間超の残業をさせることはできません。例えば、割増賃金を支払っていても特別条項を結んでいない状態でこのような残業をさせれば法違反となります。
4.2024年に施行される残業に関する法改正
2024年4月1日より、これまで猶予期間が与えられていた、医師・建設業・運送業に対して、時間外労働(残業)の上限規制が導入されます。
医師の働き方改革
医師の働き方改革とは、主に医師の労働時間に関する是正を行うことで、医師の働き方の適正化に向けた取り組みを指します。ポイントは、罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制が医師にも適用される点です。このほかにも、医療機関の管理者には、連続勤務時間制限28時間や9時間以上の勤務間インターバルの確保、代償休息※などの義務も課せられます。なお、残業時間の上限規制については以下のA~Cの水準に合わせて導入される予定です。
※代償休息:未取得の休息を別に付与すること
A水準 | すべての勤務医 | 年960時間以下 月100時間未満(例外あり) |
B水準 | 2次救急病院や3次救急病院など 地域医療に欠かすことのできない医療機関 |
年1,860時間以下 月100時間未満(例外あり) |
C水準 | 集中して多くの症例を経験する必要がある医師 (研修等を行う機関) |
建設業の働き方改革
建設業では働き方改革の一環として、2024年4月1日より、一般企業と同じ条件で時間外労働の上限規制(残業時間の上限規制)が導入されます。
【原則※】時間外労働は月45時間・年360時間 ※月45時間・年360時間を超える場合には特別条項付き36協定の締結が必要。ただし、特別条項付き36協定を結んだ場合でも以下1~4は守る必要がある 1.時間外労働と休⽇労働の合計を⽉100時間未満に収める 2.時間外労働と休⽇労働の合計を、「2~6カ月平均」が全て1⽉当たり80時間以内に収める 3.時間外労働は年間720時間以内に収める 4.時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、最大でも年6カ⽉ |
参考:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制わかりやすい解説
ただし、災害の復旧や復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、以下2つの項目は適用の範囲外となります。
1.時間外労働と休⽇労働の合計を⽉100時間未満に収める 2.時間外労働と休⽇労働の合計を、「2~6カ月平均」が全て1⽉当たり80時間以内に収める |
運送業界の働き方改革
運送業界も働き方改革の一環として、医師や建設業と同様に残業時間の上限規制(時間外労働の上限規制)が導入されます。運行管理者や整備職、事務職などドライバー職以外は以下の一般企業と同様の一般則が適用されます。
【原則※】時間外労働は月45時間・年360時間 ※月45時間・年360時間を超える場合には特別条項付き36協定の締結が必要。ただし、特別条項付き36協定を結んだ場合でも以下1~4は守る必要がある 1.時間外労働と休⽇労働の合計を⽉100時間未満に収める 2.時間外労働と休⽇労働の合計を、「2~6カ月平均」が全て1⽉当たり80時間以内に収める 3.時間外労働は年間720時間以内に収める 4.時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、最大でも年6カ⽉ |
参考:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制わかりやすい解説
一方、ドライバー職の残業時間は一般企業およびドライバー以外の職とは異なり、「年960時間・月平均80時間(休日労働を含まず)」が上限です。将来的にはドライバー職も同じ規定の適用となる見込みです。
5.まとめ
働き方改革に伴う労働基準法改正により、残業時間の上限規制に関するルール変更が行われました。具体的には残業時間(時間外労働)は月100時間未満・年720時間以内が上限となり、違反をした場合には罰則が科されるようになります。また2023年からは中小企業も月60時間超の残業には割増賃金率50%以上が適用されます。
こうした法改正によるルール変更により、企業には上限規制に対応した残業時間の集計や適用される割増賃金率に対応したシステムの更新・準備など、残業時間に関わるさまざまな対応が求められます。残業時間のルール変更を機に、労働時間把握や法令に対応した正確かつ効率的な仕組み作りが求められます。
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