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基礎知識

変形時間労働制とは?制度の概要、導入方法から残業代が発生するケースまで

著者:チームスピリット編集部

変形労働時間制とは業務量に応じて一定期間、労働時間を柔軟に調整することで多様な働き方を実現させる制度です。変形労働時間制を導入すれば、労働時間を繁忙期には長く、閑散期には短く調整することができます。

この記事では変形労働時間制の概要や導入方法、メリット・デメリットなどについて解説していきます。繁忙期と閑散期がはっきりしていて、自社に合った働き方を実現したいと考えている人事労務担当者はぜひ参考にしてください。

●目次

1.変形労働時間制とは?

 法定労働時間の範囲内で労働時間を柔軟に設定できる制度

 変形労働時間制には1年・1カ月・1週間単位がある

2.1カ月単位の変形労働時間制

 労働時間の設定

 残業代が発生する場合

 導入方法

3.1年単位の変形労働時間制

 労働時間の設定

 残業代が発生する場合

 導入方法

4.1週間単位の変形労働時間制

 労働時間の設定

 残業代が発生する場合

5.フレックスタイム制と変形労働時間制の違い

6.変形労働時間制のメリット・デメリット

 変形労働時間制の3つのメリット

 変形労働時間制の4つのデメリット

7.まとめ

8.変形労働時間制の管理を効率的に行うには

1.変形労働時間制とは?

変形労働時間制とはどのような制度なのか、最初に制度の概要について解説します。

法定労働時間の範囲内で労働時間を柔軟に設定できる制度

変形労働時間制とは一定期間の間、法定労働時間の範囲内において、業務量に応じて従業員の労働時間を柔軟に設定・調整することができる制度です。対象は企業全体、特定の部署、個人ごとなど企業の実情に応じて柔軟に設定することができます。

法定労働時間の範囲内で労働時間を柔軟に設定できる制度

【図】:労働相談トピックス令和元年11月(新潟県 長岡労働相談所)をもとに作成

上記図の右側が変形労働時間制のイメージ図です。図のとおり変形労働時間制では、例えば繁忙期の1・2週目の労働時間を50時間、閑散期の3・4週目の労働時間を30時間にするなど、労働時間を調整することができます。

なお、通常の勤務制度における労働時間は1週40時間・1日8時間が原則です。これを超える場合には36協定を締結し、残業代を支払わなければなりません。

その点、変形労働時間制を導入すれば、1週40時間・1日8時間の原則を超えて働かせることができるようになります。また、残業代も通常の勤務制度と比べて発生しづらく、残業代の削減効果が期待できます。

変形労働時間制には1年・1カ月・1週間単位がある

一口に変形労働時間制といっても、1年・1ヵ月・1週間単位の3パターンがあります。

 ● 1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4)
 ● 1ヵ月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2)
 ● 1週間単位の非定型的変形労働時間制(労基法第32条の5)

詳しくは後述しますが、上記3つのパターンは制度ごとに規定や残業代の捉え方が異なります。なお、変形労働時間制と似たフレックスタイム制(労基法第 32 条の3)※も変形労働時間制の一つではありますが、上記3つの変形労働時間制と併用することはできません。

※フレックスタイム制:始業時間および終業時間を従業員自身が決めて働くことができる制度

2.1カ月単位の変形労働時間制

3パターンある変形労働時間制の1つ「1ヵ月単位の変形労働時間制」について、3つの要点から概要を解説していきます。

労働時間の設定

1ヵ月単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以内の一定期間を平均して、1週間当たりの労働時間を40時間(特例措置対象事業場※の場合は44時間)以内となるように、労働時間を調整できる制度です。

※特例措置対象事業場:常時労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業、 接客娯楽業

変形労働時間制では例えば、閑散期の1・2週目の労働時間を6時間、繁忙期の3・4週目の労働時間を10時間に調整することも可能です。1ヵ月の間に繁忙期と閑散期がはっきり分かれている企業に向いています。

パターンある変形労働時間制の1つ「1ヵ月単位の変形労働時間制」について、3つの要点から概要を解説していきます。

労働時間の設定

出典(PDF資料):厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督|1か月単位の変形労働時間制

なお、対象期間における所定労働時間は上記の上限時間内に収めなければなりません。

残業代が発生する場合

1ヵ月単位の変形労働時間制における残業代の発生は、以下に記載する【1日単位】、【1週間単位】、【1ヵ月単位】の単位によって決定します。

【①1日単位】
 ● 所定労働時間が8時間超の日:定めた所定労働時間を超えた時間分が残業代
 ● 所定労働時間が8時間以下の日:8時間を超えた時間分が残業代
 
例:1日の所定労働時間が10時間の職場で12時間働いた場合、2時間分の残業代が発生する

【②1週間単位】
 ● 所定労働時間が40時間を超える週:定めた所定労働時間を超えた時間分が残業代
 ● 所定労働時間が40時間以下の週:40時間を超えた時間分が残業代

例:1週間の所定労働時間が40時間で、労働時間が50時間の場合、10時間分の残業代が発生する

【③1ヵ月単位】
 ● 1ヵ月全体の労働時間のうち、月ごとに定められる法定労働時間を超える時間分が残業代

例:1ヵ月の法定労働時間が171.4時間の月(1ヵ月が30日間の月)の場合、171.4時間を超えた時間分の残業代が発生する

参考(PDF資料):厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督|1か月単位の変形労働時間制

導入方法

1ヵ月単位の変形労働時間制の導入には以下の手順を取る必要があります。

① 労使協定または就業規則※において下記の事項を定める

● 対象労働者の範囲
● 対象期間および起算日
● 労働日および労働日ごとの労働時間
● 労使協定の有効期間

②締結した労使協定または就業規則※と変形労働時間制に関する協定届を所轄の労働基準監督署に届け出る

変形労働時間制に関する協定届は厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。一般的には、変形労働時間制の期間における勤務カレンダーと協定書を添付して提出します。厚生労働省が公開している記入例を見ながら、間違いのないように作成しましょう。もし、時間外労働や休日出勤も発生する場合には、36協定も併せて提出します。

※常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の作成および届出が必須です

3.1年単位の変形労働時間制

3パターンある変形労働時間制の1つ「1年単位の変形労働時間制」について、3つの要点から概要を解説します。

労働時間の設定

1年単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以上1年以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間超えないことを条件に、労働時間を柔軟に調整できる制度です。

労働時間の設定

上記図のように、1年単位の変形労働時間制では例えば、繁忙期の12月~2月は労働時間を1日9時間、閑散期の6月~8月の労働時間は1日7時間のように、業務量に応じて労働時間を調整することができます。また1年単位の変形労働時間制を適用する対象期間は、1年以内であれば、2ヵ月、3ヵ月、6ヵ月などの期間を対象にすることも可能です。

対象期間

所定労働時間総枠の上限

1年(365日の場合)

2085.71時間

6ヵ月(183日の場合)

1045.71時間

4ヵ月(122日の場合)

697.14時間

3ヵ月(92日の場合)

525.71時間

参考(PDF資料):厚生労働省|1年単位の変形労働時間制導入の手引

なお、対象期間ごとに設定できる所定労働時間の上限は上記のとおりです。上記の上限時間に労働時間が収まっている限り、例え繁忙期で労働時間が1週40時間超となったとしても、残業代は発生しません。

そのほか、1年単位の変形労働時間制には以下のような規定もあります。

● 連続労働日数:最長6日
● 労働日数の限度:1年間280日
● 1日、1週の労働時間限度:1日10時間・1週52時間

残業代が発生する場合

1年単位の変形労働時間制における残業代は、以下に記載する【1日単位】、【1週間単位】、【設定全体の期間単位】の3つの場合に発生します。

【①:1日単位】
 ●所定労働時間が8時間超の日:定めた所定労働時間を超えた時間分が残業代
 ●所定労働時間が8時間以下の日:8時間を超えた時間分が残業代
 
例:1日の所定労働時間が9時間の職場で10時間働いた場合、1時間分の残業代が発生する

【②:1週間単位】
 ●所定労働時間を40時間超と定めた週:定めた所定労働時間を超えた時間分が残業代
 ●所定労働時間を40時間以下に定めた週:40時間を超えた時間分が残業代

例:1週間の所定労働時間が40時間で、労働時間が55時間の場合、15時間分の残業代が発生する

【③:設定全体の期間単位】

 ●設定期間が1年間であれば、365日ある年は2085.7時間、うるう年は2091.4時間を超えた労働時間分が残業代

例:うるう年以外の年で労働時間が2,200時間だった場合、114.3時間分の残業代が発生する

導入方法

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、以下の手順を元に進めます。

① 以下5項目について、労使協定を締結する
 ● 対象の労働者の範囲
 ● 対象期間および起算日
 ● 特定期間
 ● 労働日および労働日ごとの労働時間
 ● 労使協定の有効期間

参考(PDF資料):厚生労働省|1年単位の変形労働時間制導入の手引

②所轄の労働基準監督署に届け出る

所轄の労働基準監督署へは、締結した労使協定または就業規則※、変形労働時間制に関する協定届を提出します。変形労働時間制に関する協定届は厚生労働省のホームページから入手できます。1年単位の変形労働時間制と同様、変形労働時間制における勤務カレンダーと協定書を添付して、提出しましょう。なお、変形労働時間制の適用により、時間外労働または休日出勤をさせる場合には、36協定の提出も必要です。

※常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の記載および労働基準監督署への提出も必要

4.1週間単位の変形労働時間制

3パターンある変形労働時間制の一つで、30人未満の規模の小売業や旅館、飲食店を対象とした「1週間単位の変形労働時間制」について3つの要点から概要を解説していきます。

労働時間の設定

1週間単位の変形労働時間制とは規模が30人未満の企業を対象とし、
①1日の労働時間の上限が10時間以内
②1週40時間以内
の2つの条件で、週単位で1日の労働時間を調整できる制度です。

1週間単位の変形労働時間制

上記が1週間単位の変形労働時間制のイメージ図です。業務量に応じて、1日の労働時間が6時間の日と10時間の日が設けられています。なお、1日だけ労働時間が10時間の日がありますが、週の合計の労働時間が40時間ですので、残業代は発生しません。

残業代が発生する場合

1週間単位の変形労働時間制における残業代の発生は、以下に記載する【1日単位】、【1週間単位】の単位によって決定します。

【①1日単位】
 ● 所定労働時間が8時間超の日:定めた所定労働時間を超えた時間分が残業代
 ● 所定労働時間が8時間以下の日:8時間を超えた時間分が残業代

例:所定労働時間が9時間の日に10時間働いたとすると、1時間分の残業代が発生する

【②1週間】
 ● 1週間で40時間を超えて労働した時間分が残業代

例:1週間に45時間働いた場合、5時間分の残業代が発生する

導入方法

1週間単位の変形労働時間制を導入するには以下の2つの手順を取ります。

①導入に必要な4項目を労使協定で定める
 ● 1週間単位の非定型的変形労働時間制をとること
 ● 1週間の所定労働時間を40時間以内(特例適用事業も週40時間以内)、1日について 10 時間を上限として、使用者がこの1週間の開始する前にその週の各日の労働時間を書面通知すること
 ● 変形労働時間制を採用する1週間の起算日とその期間
 ● 通知の時期、特別な事由があるときの変更手続き


②労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出る
締結した労使協定または就業規則※、変形労働時間制に関する協定届を所轄の労働基準監督署に提出しましょう。

1カ月、1年の変形労働時間制と同様、協定届には一般的には変形労働時間制における勤務カレンダーと協定書を添付、時間外労働または休日出勤をさせる場合には、36協定も提出します。

※常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の記載および労働基準監督署への提出も必要

5.フレックスタイム制と変形労働時間制の違い

変形労働時間制と混同しがちな勤務制度に「フレックスタイム制」があります。以下の表から両制度の違いを確認しましょう。

変形労働時間制 フレックスタイム制
制度導入の目的

・ 繁忙期・閑散期の業務量に応じた、合理的な働き方の実現

・残業代の削減

ワークライフバランスの向上
コアタイム※の有無 なし

あり
(コアタイムがない企業もある)

労働時間 企業が労働時間を決める 従業員自身が1日単位で自由に決められる


※コアタイム:1日で必ず就業していなければならない時間のこと

従業員側から見た両制度の一番の違いは、「労働時間を自分で決められるかどうか」でしょう。フレックスタイム制はコアタイムさえ出勤していれば、出退勤時間を自由に決めることができます。一方、変形労働時間制は従業員自身で労働時間を決めることができません。

また企業側から見た両制度の違いが「導入目的」です。フレックスタイム制が従業員のワークライフバランスの向上を主目的としているのに対し、変形労働時間制は繁閑期に応じて、合理的な働き方を実現してもらうことや残業代の削減が導入の主目的になります。

6.変形労働時間制のメリット・デメリット

最後に変形労働時間制のメリット・デメリットを解説していきます。導入の検討にあたり、デメリットもあらかじめ確認しておきましょう。

変形労働時間制の3つのメリット

変形労働時間制の導入によるメリットは以下の3つが挙げられます。

● 繁忙期には長く、閑散期には労働時間を短くできる
● 多様な働き方に対応できる
● 残業時間の削減にもつながる

変形労働時間制は忙しい繁忙期には労働時間を長く、逆に時間に余裕のある閑散期には短くできます。そのため、1日の労働時間が一定である通常の勤務制度と比較して、業務量に応じた多様な働き方に対応することが可能です。

また経営者や人事労務担当者にとっては、変形労働時間制は業務量に応じて労働時間を調整できるため、残業時間の削減というメリットがあります。

変形労働時間制の4つのデメリット

変形労働時間制の導入によるデメリットは以下の4つが挙げられます。

● 繁忙期には労働時間が長くなりがち
● 導入手続きをしなければならない
● 制度運用や残業時間の計算に手間がかかる
● 残業の支給額が減るため、従業員から不満が出る可能性がある

基本的に変形労働時間制では、繁忙期には人事労務担当者を含め、従業員の労働時間が長くなちがちです。

また通常の勤務制度と比べて裁量労働制は複雑な勤務制度のため、人事労務担当者にとっては制度運用や残業時間の計算に手間がかかるなど、労務管理が煩雑になるデメリットも生じます。

一方、従業員にとっては「残業代の支給額が減る」ことがデメリットとして受け止められる場合があります。そのため、導入時には「なぜ変形労働時間の導入がなぜ必要なのか」目的や意義をしっかり伝えることが重要です。

7.まとめ

変形労働時間制は、従業員の労働時間を業務量に応じて柔軟に調整できる制度です。繁忙期・閑散期の差が大きい企業にとって有効な制度と言えます。

また、変形労働時間制を導入することで、会社全体の残業代の削減効果も期待できるほか、従業員にとってもメリハリのある働き方を実現することができます。

合理的な働き方を実現する組織を目指している繁忙期・閑散期の差が激しい企業は、積極的に変形労働時間制の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

8.変形労働時間制の管理を効率的に行うには

変形時間労働制を導入することで、通常の勤務制度よりもどうしても勤怠管理が煩雑になってしまいます。「チームスピリット」を導入することで、勤務時間や残業時間が自動集計されるほか、設定した特定の残業時間の超過があった場合には本人やその上司にアラートが通知されます。

加えて、従業員や部署ごとの労働時間や残業時間等をグラフ形式で一覧表示することができるため、変形労働時間制を運用しながら残業削減の対策を打つことも可能です。変形労働時間制の導入を検討している、もしくは導入を決定した人事労務担当者は、ぜひ「チームスピリット」を含めた勤怠管理ソフトの活用を検討しましょう。