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基礎知識

裁量労働制とは?メリット・デメリットから、残業代が発生するケースまで制度を解説

著者:チームスピリット編集部

みなし労働時間制の1つである「裁量労働制」は、あらかじめ規定した「みなし労働時間」を働いた時間とみなす制度です。裁量労働制の導入により、残業代を削減しつつ、従業員の労働時間を短縮できる効果が期待できます。

一方、裁量労働制は従業員の働き方を大きく変えることになり、導入に関する手続きも煩雑なため制度の内容について事前に正しく理解しておく必要があります。この記事では裁量労働制の意味や類似制度との違い、導入によるメリット・デメリットなどを解説します。

●目次

1.裁量労働制とは?制度概要を解説

2.裁量労働制と類似制度の違い

 ・裁量労働制とフレックスタイム制度との違い

 ・裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の違い

 ・裁量労働制と高度プロフェッショナル制度との違い

 ・裁量労働制と変形労働時間制の違い

3.裁量労働制の対象業務と対象職種

 ・専門業務型裁量労働制とは

 ・企画業務型裁量労働制とは

4.裁量労働制でも残業代(残業手当)が発生するケース

 ・みなし労働時間を8時間超に設定した場合

 ・休日労働で割増賃金が発生した場合

5.裁量労働制の導入のメリット

 ・企業側のメリット

 ・従業員側のメリット

6.裁量労働制の導入のデメリット

 ・企業側のメリット

 ・従業員側のデメリット

7.裁量労働制導入における注意点

8.まとめ

9.裁量労働制の管理を効率的に行うには

1. 裁量労働制とは?制度概要を解説

「裁量労働制」とは、みなし労働時間制の一つで、実際の労働時間に関係なく、前もって労使で定めた「みなし労働時間」を働いた時間とみなす制度です。

例えば、みなし労働時間が8時間と規定されている場合、労働時間が6時間であっても10時間であっても、労働時間は8時間として給与を算出します。

始業時間・終業時間を自由に設定できる裁量労働制は、従業員に自由度の高い働き方をしてもらうことで、生産性を向上させ、高い成果を実現する目的で導入されました。

2.裁量労働制と類似制度の違い

裁量労働制と類似点がある勤務制度はいくつかあります。さまざまな目的に合わせて導入される4つの類似制度と裁量労働制の違いを解説します。

裁量労働制とフレックスタイム制度との違い

フレックスタイム制度とは始業・就業時間を従業員が自由に決めることができる制度 です。フレックスタイム制度と裁量労働制の違いは以下のとおりです。

裁量労働制 フレックスタイム制度
コアタイム※の有無

なし

あり

(ただし、コアタイムがない制度

「スーパーフレックス制度」もある)

賃金の扱い みなし労働時間をもとに計算される 労働時間に応じて計算される
対象職種

「専門業務型の裁量労働制」対象職種は19種
「企画業務型裁量労働制」は事業に関わり、
調査および分析を行い、企画・計画を策定する業務

全職種

※コアタイム:必ず就業しておかなければならない時間帯

裁量労働制はフレックスタイム制度と異なり、みなし労働時間をもとに賃金が算出されます。そのため、フレックスタイム制度よりも成果主義の側面が強い勤務制度であると言えます。

裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の違い

事業場外みなし労働時間制とは、従業員が事業所外で業務に従事するために労働時間の把握が困難な場合、あらかじめ定められた時間を労働時間としてみなす制度です 。

事業場外みなし労働時間制は裁量労働制と同じ「みなし労働時間制」であり 、あらかじめ「みなし労働時間を設定する」という点では共通しています。

一方で、両制度が対象とする職種に違いがあります。裁量労働制が特定の職種のみ適用可能であるのに対し、事業場外みなし労働時間制の適用となる職種に制限はありません。事業場外みなし労働時間制では、外回りや出張などが多い従業員やテレワークをしている従業員など、労働時間を正確に把握できない職種(業務)に幅広く適用することができます。

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度との違い

高度プロフェッショナル制度とは、高度で専門的な知識などを持ち、かつ年収が1,075万円以上の労働者を対象とした制度です。対象の労働者は労働基準法に規定された労働時間や休憩、割増賃金などのルールの適用外となります。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い は以下のとおりです。

裁量労働制 高度プロフェッショナル制度
対象者

【専門業務型裁量労働制】
・業務内容および時間配分などについて、大半の裁量を持つ労働者


【企画業務型裁量労働制】
・対象業務を適切に遂行するための知識や経験などを有する労働者
・対象業務に常態として従事している労働者(職務経験のない者は除く)

・高度かつ専門的な知識が求められる職種

・年収が1,075万円以上の労働者

対象職種

・「専門業務型の裁量労働制」対象職種は19種
・「企画業務型裁量労働制」は事業に関わり、調査および分析を行い、企画・計画を策定する業務

金融ディーラー・研究開発職、コンサルタントなどいた時間と成果の関連性が高くないと考えられる職種
労働時間 労使で定めたみなし労働時間が労働時間とみなされる 制限なし
残業手当・休日出勤手当・深夜手当 発生する※ 発生しない

※残業手当はみなし労働時間が8時間以内の場合、発生しない

高度プロフェッショナル制度は裁量労働制と異なり、労働基準法が定めるところの法定労働時間や休憩・休日ルールが適用されません。また高度プロフェッショナル制度には年収(1,075万円以上)に関する要件もある点が裁量労働制と異なります。

裁量労働制と変形労働時間制の違い

変形労働時間制とは一定の期間内において、業務量に応じて労働時間を柔軟に調整できる制度です。 例えば、忙しい月末は10時間、余裕の出る月初は6時間というように労働時間を調整することができます。変形労働時間制と裁量労働制の大きな違いは「所定労働時間の扱い」です。

裁量労働制は労使の取り決めによって定められたみなし労働時間が働いた時間とみなされるため、所定労働時間とを考慮する必要がありません。一方、変形労働時間制は所定労働時間を基本として労働時間を決定するため、所定労働時間を超えて労働者を労働させる場合には、36協定の範囲に収める必要があります。

3.裁量労働制の対象業務と対象職種

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、それぞれに対象業務が異なります。

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制の対象は、業務の性格上、業務内容や時間配分などの多くを労働者の裁量に委ねる必要がある19の業務です。

対象となる業務(職種)は以下19種です。

<専門業務型裁量労働制の対象業務(職種)>
  • 新商品若しくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
  • 情報処理システムの分析又は設計の業務
  • 記事や放送番組制作のための取材・編集業務
  • 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • コピーライターの業務
  • システムコンサルタントの業務
  • インテリアコーディネーターの業務
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • 証券アナリストの業務
  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 大学における教授研究の業務
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
  • 税理士の業務
  • 中小企業診断士の業務

参考:厚生労働省|専門業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制とは、以下の4つの条件を満たした労働者が対象となる裁量労働制です。

(1)業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)

(2)企画、立案、調査及び分析の業務であること

(3)業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があること、「業務の性質に照らして客観的に判断される」業務であること

(4)企画・立案・調査・分析という相互に関連しあう作業を、いつ、どのように行うか等についての広範な裁量が労働者に認められている業務であること

参考:厚生労働省|企画業務型裁量労働制の適切な導入のために

経営企画、人事・労務、財務・管理、広報、営業、生産などの業務において、より高度な業務かつ分析や計画、企画設計に携わる業務が該当するとされています。例えば、広報において、広告の企画・戦略を担当する業務は対象になると考えられますが、広報が実施するアンケートの集計や、広報誌の校正業務などは該当しません。

企画業務型裁量労働制は、専門業務型裁量労働制よりも導入要件が厳格に定められています。対象労働者の範囲やみなし労働時間などの事項について、労使委員会の委員の4/5以上の多数決で決議されなければ導入することはできません

2つの裁量労働制の違い

対象の異なる裁量労働制、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違いは以下のとおりです。

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
対象者

業務内容および時間配分などについて、
大半の裁量を持つ労働者


・対象業務を適切に遂行するための知識や経験などを有する労働者

・対象業務に常態として従事している労働者
(職務経験のない者は除く)

対象職種(業務) 新商品・新技術の研究開発の業務、
番組・映画のプロデューサー業務、
インテリアコーディネーターの業務、
証券アナリストの業務、公認会計士の業務、
弁護士の業務など19業務

・事業の運営に関する事項についての企画、
立案、調査、分析の業務
・業務の遂行の手段および時間配分の決定等
に関し具体的な指示をしない業務

導入要件

以下の事項を労使協定にて協定し、労働基準監督署に
届け出る


1. 制度の適用業務の範囲
2. みなし労働時間
3. 対象業務の遂行手段・時間配分決定等について、
使用者が具体的な指示をしないこと
4.状況に応じて実施する健康・福祉確保措置
5. 苦情処理措置
6.協定の有効期間
7. 4.および5.に関して、労働者ごとの措置の記録を、
協定の有効期間中および期間満了後3年間保存すること

労使委員会の設置および以下の事項を委員
の5分の4以上で決議し、労働基準監督署に
届け出る


1. 制度の適用業務の範囲
2. 対象労働者の範囲
3. みなし労働時間
4. 状況に応じて実施する健康・福祉確保措置
5. 苦情処理措置
6. 労働者の同意を得なくてはならないこと、
同意しなかった労働者を不当に取り扱っては
ならないこと
7. 決議の有効期間
8. 4~6について、労働者ごとに講じた措置の
記録を、決議の有効期間およびその後3年間
保存する

届出・報告 労使協定を締結後、労働基準監督署へ届け出る

【届出】
委員会の決議を労働基準監督署へ届け出る


【報告】
決議が行われてから6ヵ月以内に1回、労働時間の状況や
健康・福祉確保のための措置の実施状況を報告

参考:厚生労働省|企画業務型裁量労働制の適切な導入のために

   厚生労働省|専門業務型裁量労働制

裁量労働制を導入する場合、労働基準監督署への届出がない場合は届出の義務に違反したとみなされ、罰則の対象となります。

4.裁量労働制でも残業代(残業手当)が発生するケース

裁量労働制においては、実際の労働時間が何時間であろうと、労使の取り決めにより定められたみなし労働時間=労働時間とみなされます。そのため、基本的には残業代(残業手当)は発生しませんが、裁量労働制であっても残業代が発生するケースが3つあります。

みなし労働時間を8時間超に設定した場合

あらかじめ労使協定により規定されたみなし労働時間が8時間以内の場合、残業代は発生しません。一方、みなし労働時間を8時間超に設定した場合は、残業代が発生します。例えば、みなし労働時間を10時間に設定した場合、2時間分を残業代として支払わなければなりません。

<残業代の計算例>

【条件】
1時間当たりの賃金:3,000円
 ・割増賃金率:25%
 ・みなし労働時間:10時間

【計算式】
 3,000円×1.25×3時間=深夜労働分の残業代11,250円

休日労働で割増賃金が発生した場合

労働基準法で規定されている、必ず休みを与えなければならない日を「法定休日」と言います。裁量労働制であっても、法定休日日に勤務させた場合(休日労働の場合)、1時間あたり35%以上の割増賃金が発生します(会社が自由に決められる所定休日(法定外休日)は休日労働にかかる割増賃金は発生しません )。

5.裁量労働制の導入のメリット

裁量労働制の導入のメリットについて、企業側・従業員側の双方の視点から確認しておきましょう。

企業側のメリット

本文裁量労働制の導入による企業側のメリットは以下のとおりです。

●あらかじめ定められたみなし労働時間をもとに給与を計算するため、月の人件費の予測を立てやすい
●1日の残業時間を計算する必要がない(もしくは計算の手間が少ない)ため、人事労務担当者の負担が軽減される
●全体的な残業代の削減にもつながる


このように裁量労働制の導入により、人事労務担当者の負担軽減や会社全体の残業代削減などの効果が期待できます。

従業員側のメリット

裁量労働制の導入による従業員側のメリットは以下のとおりです。

● 勤務時間、出社・退勤時間が決まっていないため、自分のペースで働くことができる
● 効率的に働けば、労働時間を短縮できる
● 「生産性を向上させよう」という意識が生まれやすい

裁量労働制の適用を受ける従業員は、求められる成果を上げることさえできれば、労働時間の長短にかかわらず、規定の賃金を受け取ることができます。そのため、「なるべく生産性を向上させて、労働時間を短縮させよう」という意識を持つ従業員も出てくることでしょう。

6.裁量労働制の導入のデメリット

裁量労働制の導入のために把握しておく必要があるデメリットについても紹介します。

企業側のメリット

裁量労働制の導入による企業側のデメリットは以下のとおりです。

● 出退勤時間が従業員によって異なるため、労働管理に手間がかかる
● 労働時間のズレから、従業員同士のコミュニケーション不足が生まれる
● 評価制度を変更しなければならない場合もある

従業員の労働時間がバラバラになるため、より成果に着目した評価制度を導入も並行して検討するとよいでしょう。

従業員側のメリット

裁量労働制の導入による従業員側のデメリットは以下のとおりです。

● みなし労働時間が8時間以内の場合、残業(残業手当)が出ない
● 自由度の高い働き方だからこそ、長時間労働が常態化する恐れがある
● 対象職種ではないにもかかわらず、裁量労働制が違法に適用されるケースもある

裁量労働制では残業手当が出ないケースも多く、みなし労働時間以上に働いている従業員の中が不満を抱く可能性があります。

また、本来は裁量労働制が適用されない職種であるにも関わらず、裁量労働制で働かせているケースも存在します。しかし、これは違法行為であり、裁量労働制が無効となります。その結果従業員からこれまで支払われなかった残業代の請求を求められる可能性があります。何年も裁量労働制を適用していた場合、未払いの残業代は高額となるため、適用職種を含め、裁量労働制の取り決めや手続きは適正に行わなければなりません。

7.裁量労働制導入における注意点

裁量労働制の導入による従業員側のデメリットは以下のとおりです。

裁量労働制でも36協定締結が必要なケースがある

36協定とは「法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて、労働者に時間外労働をさせる際に必要な協定」 のことです。裁量労働制を導入するにあたり、みなし労働時間が8時間超の場合は、通常の勤務制度と同様に36協定を結ばなければなりません。また、休日労働および8時間を超えて深夜残業をさせるケースでも、36協定を結ぶ必要があります。

裁量労働制の適用者にも正確な勤怠管理が必要

出退勤時間が決まっていない裁量労働制であっても、勤務管理は使用者の義務であり、おろそかにできません。 また、裁量労働制の適用者であったとしても、みなし労働時間が8時間超の場合や深夜・休日労働をさせた場合には労働時間や割増賃金の計算が必要です。裁量労働制を導入している職場で正確な勤怠管理を怠ると残業代未払いにもつながるため、より客観的な勤怠管理が必要であると言えます。

また裁量労働制では導入にあたり、特別休暇を付与する、健康診断を実施するなどの「健康・福祉確保措置」を講じなければなりません 。

専門業務型裁量労働制では労使協定において対象業務やみなし労働時間などとともに、労働時間の状況に応じて実施する「健康・福祉確保措置」を定めます。企画業務型裁量労働制では、労働委員会を設置して、その他の事項とともに「健康・福祉課国保措置」について決議する必要があります。

これらの措置に適切に対応するためにも日頃の勤怠管理を通して正確な労働時間の把握が求められます。

8.まとめ

裁量労働制とは前もって、みなし労働時間を定め、実際の労働時間の長短にかかわらず、労使協定にて決められたみなし労働時間分を働いた時間とみなす制度です。

裁量労働制の導入により、企業側には「人件費の予測を立てやすい」「残業代を削減できる」、従業員側は「自分の好きなペースで働ける」「労働時間を短縮できる可能性がある」などのメリットがあります。

一方で、裁量労働制は制度導入の手続きの面でハードルが高く、導入後も適切な運用をしなければ法違反となったり、長時間労働を招いたりする可能性もあります。導入を検討する際には、社内でスムーズな制度運用ができるような体制の整備も同時に進めることが大切です。

9.裁量労働制の管理を効率的に行うには

裁量労働制を導入した場合も、使用者は労働者の労働時間や残業時間の把握・管理の義務から免れることはできません。チームスピリットなら、裁量労働制などの勤務制度ごとに労働時間や残業時間、休日や深夜の労働時間も自動集計し、可視化することができます。

また、特定の残業時間を超えた場合には、従業員や管理者へアラートを通知することも可能です。裁量労働制の導入に前向きもしくは導入を決定した際には、お気軽にチームスピリットまでお問い合わせください。