インタビュアー/佐藤健太
ライフプランの相談サービス「マネーセージ」CMO。心理カウンセラー・コラムニスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた独自の分析を行い、人の「心理」の観点から様々な業界に助言。メンタルヘルス対策や各種コンサルティングなどを担い、コラムニストとしても活動している。
※インタビューは12月上旬に行われました
この記事の目次
- ――日銀の黒田東彦総裁は昨年末の12月20日の金融政策決定会合で、2013年の総裁就任時から採用してきた金融緩和政策を修正しました。この決定をどう見ていますか?
- ――欧米の中央銀行はインフレ抑制のため利上げに踏み切ってきました。日銀の方針転換の背景にはどのようなものが考えられるのでしょうか?
- ――12月8日に財務省が発表した10月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は641億円の赤字でした。赤字となるのは2022年1月以来で、円安や資源高でエネルギー関連の輸入額が膨らんだことが響いています。他方、円安のメリットをいかす大企業を中心に最高益を記録する会社も多い状況にあります。円安は結局のところ、日本にとってプラス、マイナスのどちらなのでしょうか?
――日銀の黒田東彦総裁は昨年末の12月20日の金融政策決定会合で、2013年の総裁就任時から採用してきた金融緩和政策を修正しました。この決定をどう見ていますか?
渡辺 喜美氏
親父であるミッチー(渡辺美智雄元外相)語録曰く「暖房かけてる時には冷房かけるな」。黒田総裁の金融政策決定会合後の記者会見を見て、私は親父が口を酸っぱくして言っていたことを思い出しました。これは、いつか見た光景ですよ。
日銀は決定会合で長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げました。2021年3月の0.25%への微調整拡大を大きく変える実質利上げと言えます。岸田文雄首相への根回しもなかったらしく、不快感が示されたといいます。大蔵省(現財務省)国際金融局長や財務官の時に「円買い・円売り」介入を両方やっている黒田総裁は、サプライズを好む「天の邪鬼」的な性格をあわせ持っていると思いますね。それが今回、露骨に現れた。景気には悪い影響が徐々に出てくるでしょう。
アベノミクスの1本目の「矢」である異次元の金融緩和は、これまでも「ステルステーパリング」(密かな出口)といえる引き締め方向の政策変更を何度かやってきました。まず、イールドカーブコントロール(YCC)は、保有長期国債を年間80兆円ほど増やしていく路線が国債の「玉不足」で始まった苦肉の策であり、明らかに緩和促進のブレーキを踏んだと思います。
その後、2回目の消費税増税と新型コロナウイルス感染拡大の追い討ちで、日銀の発行銀行券と当座預金(ベースマネー)は膨らみ続けましたが、最近はその縮小が顕著です。ちなみに、2021年末に668兆円あったベースマネーは2022年12月10日現在で599兆円となっています。つまり、すでに「出口戦略」は密かに進行していたのです。
――欧米の中央銀行はインフレ抑制のため利上げに踏み切ってきました。日銀の方針転換の背景にはどのようなものが考えられるのでしょうか?
渡辺 喜美氏
今回の露骨な利上げについて、黒田氏はイールドカーブ(金利曲線)の歪みを正すと説明していますが、米国では金利の「長短逆転」が起きて久しい。10年物国債より2年物の方が高い金利なのです。景気後退局面でよく見られる現象ですよ。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がこれを歪みと言っているでしょうか。FRBは景気後退よりもインフレ抑制を重視していますし、そもそも長期金利は守備範囲にはありません。
日銀は長短の「二刀流」を使わざるを得ない。日本のような粘着的なデフレマインドから脱却し、インフレ期待に働きかけるには長期国債の金利を下げる(日銀が大量に買う)ことが最も効果的な手法です。日銀の定義によれば、「長国」とは1年を超える国債はすべて「長国」です。「年間保有長国80兆円路線」からYCCへ転換せざるを得なかったのは、政府(財務省)が国債発行を渋ったからですよ。安倍晋三政権でさえ、こうしたチグハグさが存在していました。
今回の10年物金利0.5%への拡大は、先のG7(先進7カ国)中央銀行総裁会議で国際金融資本やヘッジファンドの意を受けた各国からの外圧が背景だったとされています。投資家や投機屋からすれば、長期金利の天井は邪魔もの。「歪み」を突いて英国のように市場が政権をひっくり返せれば、大成功です。日本国債(JGB)も狙っていたに違いありません。黒田総裁は先手を打ったのか、市場の圧力に屈したのか、答えは黒田氏の任期中に出るでしょう。
日本と欧米との違いは、需給ギャップの存在です。内閣府の発表でも日本のデフレギャップは拡大傾向にあります。そんな時に金融引き締めができるわけないことは黒田氏自身が一番分かっているはずです。だから、今回の決定は「利上げ」ではないと苦しい言い訳に終始しているのでしょう。
需給ギャップの「谷」では景気後退が起きます。そして、私が発見した「法則」は、その谷底で政変や政権交代が必ず起きることですよ。マクロ政策の失敗で日本は成長しない国家、とてつもない貧しい国になってしまいました。ミッチー語録曰く「谷底から這い上がるには何年もかかるが、谷底に転げ落ちる時はあっという間だ」です。
――12月8日に財務省が発表した10月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は641億円の赤字でした。赤字となるのは2022年1月以来で、円安や資源高でエネルギー関連の輸入額が膨らんだことが響いています。他方、円安のメリットをいかす大企業を中心に最高益を記録する会社も多い状況にあります。円安は結局のところ、日本にとってプラス、マイナスのどちらなのでしょうか?
渡辺 喜美氏
円安は、日本経済にとって差し引きプラスになります。法人企業統計を見れば、一目瞭然です。7―9月期の金融・保険を除く全産業の経常利益は、前年同期比18.3%増の19兆8098億円で、同期としては過去最高益を記録しています。円安の恩恵が大きく反映されているのです。円安で儲けている企業が積極的に物価上昇を上回る賃上げを迫られていくことになるでしょう。そうすれば、30年間も苦しんだデフレ脱却の曙光も見えて来ます。
貿易赤字の多くは原油価格の上昇などの影響によるところが大きいです。その原油価格も直近は80ドル近辺で昨夏の水準よりは下がっており、資源・エネルギー・食料などの国際商品先物指数(CRB指数)も270台まで落ちています(1月中旬時点)。
食料・エネルギーを輸入に頼っている日本にとっては交易条件が改善し、またとないチャンスにもなります。
他方、円安で最も儲けているのは財務省です。法人税収は上がり、外国為替特別会計の含みも増大します。9月、10月と10兆円近い為替介入を150円近辺で行いましたので、実現益も出ました。こんな時に防衛費増額のため増税をやるとは「愚の骨頂」ですよ。東日本大震災の時もそうでしたが、国民の正義感につけ込んでこんで増税を仕掛ける悪い癖がまた出てしまったのでしょう。
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