仕事とプライベート時間をどちらも適切に確保しながら両立させる「ワークライフバランス」の考え方は、すでに根付きつつあります。同時に、近年は「ワークライフインテグレーション」という考え方も誕生しています。一見似ている言葉ではありますが、それぞれの意味は異なります。

今回は、ワークライフインテグレーションという考え方について、ワークライフバランスとの違いや、取り入れるメリットにも触れながら解説します。

ワークライフインテグレーションとは

ワークライフインテグレーションとは、仕事とプライベートの統合を図り、ポジティブな相互作用をもたらすことを目指す考え方です。

労働環境や人間関係が良好な職場で働いていても、プライベートで心から休息できる場所がないと、メンタルヘルスに不調が生じてしまいます。また、プライベートが充実していても、職場にストレスの要因があれば不調が起きやすくなります。

ワークライフインテグレーションは、仕事とプライベートどちらかを犠牲にすることなく、両方の充実を図る方法です。

ワークライフバランスとの違いは、仕事とプライベートの扱いにあります。ワークライフインテグレーションは仕事とプライベートを「統合」して考えるのに対し、ワークライフバランスは仕事とプライベートを「切り離して」扱います。

ワークライフバランスでは仕事とプライベートの「時間」をバランス良く確保する考え方で、「どれだけ充実しているか」といった具体的な質は問われません。そのため、残業や休日出勤がなく、フレキシブルな働き方さえできていれば「ワークライフバランスが整っている」と評価されることもあります。

ワークライフインテグレーションは、両者の垣根をなくすことで仕事とプライベート両方の充実を図ります。

ワークライフインテグレーションを取り入れるメリット

ワークライフインテグレーションは、従業員にとって前向きに働けるなどのメリットがあります。企業にとっても複数のメリットが期待できる取り組みです。

ここでは企業目線で、ワークライフインテグレーションの考え方を取り入れるメリットを解説します。

幅広い人材を確保できる

ワークライフインテグレーションを実現している企業は採用市場で評価されやすく、有能な人材を確保しやすくなります。

家庭や年齢などの事情でフルタイム勤務は難しくても、優れたスキルや専門性をもつ人材は少なくありません。

こうした人材を採用できることは、単なる生産性向上だけでなく、新しい価値を創造するきっかけになることもあります。

従業員のモチベーション向上が期待できる

ワークライフインテグレーションが叶えられる環境だと、従業員は仕事のためにプライベートを犠牲にしたり、プライベートのために仕事をセーブしたりする必要がありません。

従業員の理想に近い働き方ができれば、仕事へのモチベーションも上がります。

結果的に「自分のスキルを最大限活かせている」という自信が根付き、仕事とポジティブに向き合えるようになります。

従業員のスキルアップを促せる

ワークライフインテグレーションは仕事とプライベートの垣根をなくす考え方です。「仕事も人生の構成要素」という考えが浸透すれば、仕事に積極的になり業務に役立つ資格をとったり勉強をしたりと、自己啓発に力を入れる従業員も出てくるでしょう。プライベートで経験したことも仕事に活かしやすくなります。

ワークライフインテグレーションの考えが広がれば、従業員は働くことに喜びを感じるようになり、自発的なスキルアップを喚起できる可能性が高まります。

企業価値が上がる

企業価値も上がる点もメリットのひとつです。

ワークライフインテグレーションによって従業員満足度が高まれば、離職率が下がったり、採用市場での注目度が高まって効果的に母集団形成できるようになったりといった効果が期待できます。

「あの会社には仕事もプライベートも充実している明るい従業員が多い」と話題になれば、取引先や顧客からの評価も上がります。

ワークライフインテグレーションの実現により仕事の質が上がることで、顧客が増える効果も見込めるかもしれません。ワークライフインテグレーションは、ステークホルダー全員にとってメリットのある考え方といえます。

ワークライフインテグレーション導入時の課題

ここではワークライフインテグレーションに取り組む際に、どのような問題が起こりやすいのか解説します。メリットが多い一方で、注意しなくてはならないデメリットや課題もいくつか挙げられます。

思わぬデメリットが生じてしまわないよう、あらかじめリスクを確認しておきましょう。

従業員から理解を得られないと浸透しにくい

ワークライフインテグレーションの考え方を従業員に理解してもらえないと、社内に浸透しないおそれがあります。「それよりも目の前の忙しさをどうにかしたい」「経営層が理想ばかり押し付けてくる」と不満が生まれれば、浸透しないどころか会社への不信感を生んでしまうことも考えられます。

まずは、従業員にワークライフインテグレーションについて理解してもらうことが必要です。導入する目的やメリットを正しく伝えることを意識し、共感を得てから施策を打ちましょう。

従業員のマネジメントが複雑化しやすい

規則を作って厳しい管理を徹底すると従業員の自由度が下がってしまい、ワークライフインテグレーションのメリットが得られにくくなります。しかし、自由な社風にしすぎると全体の統率が取れなくなり、会社として舵取りするのが難しくなるので注意が必要です。

組織としてのマネジメントと、個人のワークライフインテグレーションを両立するのは簡単ではありません。現場の状況も考慮しつつ、自社に合った独自の制度を作ることが欠かせません。

人事評価システムも見直す必要がある

既存の人事評価システムでは、ワークライフインテグレーションに優れた人材を評価できないケースもあるので見直してみましょう。

実績や数字ばかり評価する企業では、顧客を獲得するためのモラルハザードが起きがちです。反対に、情意評価の割合が高すぎると収益の拡大が難しくなり、企業活動の根幹を揺るがすかもしれません。自発的なスキルアップや考え方をどう評価するか、項目を見直す必要があります。

ワークライフインテグレーションの取り組み事例

ここでは、ワークライフインテグレーション向上施策を始めている企業の事例を紹介します。

導入を検討しつつも具体的な方法が思いつかないと悩んでいる方は、自社で参考になる要素があるか確認してみましょう。

日本IBMの事例

日本IBMでは、多様な人材が成長しながらキャリア形成できるよう働きやすさをサポートしています。

女性従業員向けの健康支援セミナー、男性の育児参画を応援するセミナーと、個々の状況に合わせた施策を多く取り入れています。障害のある学生を対象としたインターンシップなども開催しており、個人・家族の特性と仕事と両立させることに積極的です。

オリンパス株式会社の事例

オリンパス株式会社でも多様な人材が持続的な成長をするためのサポートをしています。女性管理職の積極登用や不妊治療支援に加え、半育休制度など独自の制度も開始されました。

プロフェッショナルとしてキャリアを形成することを支援しつつ、ライフステージの変化にともないキャリアが断絶してしまわないよう配慮されています。結果、従業員の勤続年数の向上にも寄与しています。

まとめ

ワークライフインテグレーションは、ワークライフバランスに加えて近年新しく出てきた考え方です。仕事とプライベートをどちらも充実させられれば、気持ちが明るくなり精力的になれるほか、自発的なスキルアップやモチベーションの向上も期待できます。

個人だけでなく、企業にとってもメリットのある働き方として注目されている考え方です。なかには企業主導で、ワークライフインテグレーション向上に向けて動くケースも少なくありません。

まずは自社で働く従業員の課題をイメージしながら、ワークライフインテグレーションを導入してみたときについて考えてみましょう。