パーパス経営とはどのような経営方針か
パーパス経営とは、社会の中で企業が存在意義を示すため、社会にどのように貢献していくのか目標や志(パーパス)を掲げ、施策に取り組む経営方針のことを指します。パーパスは、社会とのつながりに着目している点で、ミッションやビジョン・バリューとは異なります。
近年、持続可能(サステナブル)な社会を実現させようという考え方が広がり、社会貢献に対する世の中の意識が高まっています。企業が社会に与える影響にも注目が集まっているため、パーパス経営を実践して自社の存在意義を明確にする企業が増えているのです。
また、ESG投資のように、持続可能性が企業価値の高さとして投資家に評価されるようになりました。そのため、企業の掲げるパーパスも、消費者の企業選択や投資家の投資判断の指針にされつつあります。
企業がパーパス経営に注目している理由
企業がパーパス経営に注目している理由は、企業価値を向上させる要素として社会貢献が不可欠になりつつあるためです。では、なぜ社会貢献の重要性が高まっているのでしょうか。
SDGs・サステナブルな考え方の浸透
2015年の国連サミットで、SDGs(持続可能な社会を実現するための開発目標)が採択されたことをきっかけに、社会でサステナブルな考え方が注目・浸透するようになりました。
SDGsでは、企業主体の目標達成が重要視されています。そこで、企業活動においても、社会や環境への貢献度が重要視されるようになり、企業が掲げるパーパスの重要性が高まっているのです。
また、SDGsとともに注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した経営にも、パーパスの存在が重要になります。
社会全体でのDX化推進
DX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進のため、デジタル技術の導入に取り組む企業が増えています。しかし、DX化は単にデジタル技術を導入し、定型業務の自動化を進めていけば良いわけではありません。DX化による社内の変革を目指すには、社会や顧客にどのような貢献ができるのか、という視点が必要です。
そのためには、経営者がパーパスを明確にして組織が一丸となって取り組み、ビジネスに新たな付加価値を創造することが重要とされています。
ミレニアル世代・Z世代の社会進出
1980~90年代に生まれたミレニアル世代やそれに続くZ世代と呼ばれる若い世代が成人し、社会に進出してきていることも、パーパス経営が注目される理由のひとつです。
ミレニアル世代やZ世代は、不透明な社会情勢や社会的格差、金融危機などの厳しい環境を経験しているため、社会貢献に対する意欲に高い関心を持っています。その結果、企業のパーパスや存在意義を判断基準として企業を選択する傾向があるのです。
企業が今後成長を続けていくためには、ミレニアル世代やZ世代の採用が欠かせません。次世代の人材から支持されるよう、企業がパーパスを掲げる重要性が高まっているのです。
パーパス経営の実施により得られる効果
パーパス経営によって得られる効果は、企業価値の向上です。事業活動においてどのような効果があるのか、見ていきましょう。
ステークホルダーからの評価が得られる
パーパス経営の実践は、消費者や投資家などステークホルダーからの評価につながります。
パーパスが明確で社会貢献を重視している企業は、社会からの信頼度が高くなります。パーパスに共感してくれるステークホルダーが増えれば増えるほどブランディング効果も高まるでしょう。企業競争が高まる中、自社の差別化にも効果的です。
従業員のエンゲージメントを向上させる
会社がパーパスを掲げることは、従業員がその会社で働く意義を見出すことにもつながります。働く意義が明確になり、従業員のモチベーションが高まれば、より良い成果が期待できます。
さらに自分の仕事が企業を通じて社会貢献ができていることが実感できれば、会社へのエンゲージメントが高まります。エンゲージメントの向上は、企業に業績の向上や組織の活性化、離職率の低下など組織的なメリットをもたらします。
企業の競争力を強化できる
企業の掲げるパーパスが明確になっていれば、従業員との目標の共有もしやすくなります。
組織の方向性が揃うことで相乗効果が生まれ、新しい意見やアイデアが出やすくなるでしょう。その結果、より良いサービスや製品の開発が叶うだけでなく、生産性の向上や業務効率化なども実現できます。企業成長につながり、生き残っていく競争力が得られるでしょう。
パーパス経営に取り組む3つの企業事例
パーパス経営を目指したいものの、「パーパスと自社の事業がどのようにつながるのかわからない」「どのような取り組みをすれば良いか悩んでいる」という経営者の方もいるでしょう。
そこで、ここからはパーパス経営に取り組み、成果を挙げている企業事例を3つ紹介します。パーパス策定や施策の参考になれば幸いです。
事例1.ソニーグループ
ソニーグループは、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」というパーパスを発表しました。このパーパスは、全世界にいる従業員の意見を取り入れながら策定されたものです。
ソニーグループでは、策定したパーパスを浸透させるため、事務局を設置し従業員の意識統一を目指しました。その結果、コロナ禍ではリモートワークとなったにもかかわらず、従業員が一丸となって業務に取り組むことができたようです。成果として、過去最高益を記録しています。
また、2020年4月には、「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」を設立しました。新たな社会貢献の取り組みを具体化したもので、企業の存在価値をさらに高めています。
事例2.ネスレ
ネスレが掲げるパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます。」です。
このパーパスのもと、ネスレはSDGs達成のための目標も掲げ、持続可能な食生活への貢献や天然資源の保護、コミュニティ強化などに取り組んでいます。
具体的な施策に、主力製品のパッケージの紙化、コーヒーマシンのオフィス提供によるコミュニケーション促進、国産コーヒー豆栽培のプロジェクトなどが挙げられます。
パーパスを動機付けとして、社会貢献度の高い事業展開を進めていることが、ネスレの特徴です。
事例3.東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングスは、創業当時から掲げている「お客様や地域社会の“いざ”を支え、お守りする」というスローガンをパーパスとして、社会貢献を目指しています。
経営方針には、パーパスをもとに事業戦略を行う「パーパス・ドリブン経営」を掲げており、海外で働く従業員も対象とする会議を開催し、パーパスを従業員に浸透させることに注力しています。
保険会社として保険内容に沿った保険金の支払いだけでなく、事故防止や事故後のサポートなどの新しいサービス提供にも尽力し、社会的価値と利益成長の両方を高めることに挑戦中です。
まとめ
企業の社会的価値への関心が高まる中、パーパス経営に取り組むことは、今後の企業発展に必須といえます。パーパス経営を実践するために、まず自社が社会にどのような貢献が可能なのか、事業内容と照らし合わせながら考えてみましょう。そして、具体的に事業や日々の業務へと具現化することが成功への道です。