人的資本経営とは何か
そもそも人的資本経営とは、どのようなものかを見ていきましょう。
人的資本経営の概要
これまで企業は、人材を企業が成長するためのいわば資源として捉えてきました。
人的資本経営とは、簡単にいうと、人材を資源ではなく資本として考え、経営していく手法です。経済産業省では、人的資本経営について「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。
引用:「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」(経済産業省)
近年、インターネット技術が発達し、企業にグローバル化が求められるようになりました。さらに、新型コロナウイルスなどの世界的な感染症やSDGsへの対応が必要となるなど、現在外部環境は著しく変化しています。企業がそれらの変化に対応して生き残っていくためには、企業価値を持続的に向上させる必要があります。
そのためには、人を資源として捉えるのではなく、「資本」として捉えて最大限に生かすことが重要です。
人的資本経営で求められるふたつの取り組み
外部環境の著しい変化に対応するためには、人的資本経営の導入が必要不可欠です。では、人的資本経営を導入するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。
ここでは、人的資本経営を導入するために必要なふたつの取り組みについて見ていきましょう。
人的資本を高める戦略を策定する
人的資本を高めるためには、一定の投資が必要です。しかし、やみくもに投資を行っても、費用対効果が得られることはありません。
人的資本を活かすためには、その価値をより高めるための戦略が必要です。どのような経験をもつ人材がいて、どのようなスキルがあるのか、足りない部分はどこかを、把握することから始めましょう。
そして、「どこに、いくらの投資をするのか」「投資をどのように企業価値の向上につなげるのか」を社員と共有しながら決定します。
人的資本に関する情報を開示する
人的資本経営を行うには、人的資本に関する情報を開示する必要があります。人的資本に対する取り組みや現状を、投資家に対して開示します。
現在、無形資産を重要視する傾向が高まっています。その中で、人的資本に関する情報が投資判断の材料とされてきました。投資家から人的資本に対する取り組みを評価されることで、資金も集まりやすくなるでしょう。
人的資本経営が重要視されるようになった背景
ここからは、人的資本経営が重要視されるようになった背景について見ていきましょう。
サステナブルな考え方の浸透
人的資本経営が重要視されるようになった背景のひとつに「サステナブルな考え方の浸透」があります。
現在、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)など、サステナブルな考え方が世界的に浸透しています。これは、企業価値の評価についても同じです。企業価値においても、業績などの財務情報だけでは、継続的に利益を上げていけるかの判断が困難になってきました。
このように、経営戦略やESGやCSRに関する活動状況などの非財務情報が重視される中で、人的資本の重要性が高まり始めたのです。
人材版伊藤レポートの発表
企業だけでなく、政府も人的資本経営の重要性を公表しています。それが、2020年9月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」です。ここでは、人的資本経営についての政府の方針が報告されました。
また、海外でもISO30414の公開されたり、人的資本の情報公開が義務化されたりした影響で、多くの企業が人的資本経営に注目しています。このように海外の動きや、政府の発表などによって、国内でも人的資本経営が重視されるようになってきました。
人材構造・働き方の多様化
人材構造や働き方の多様化も人的資本経営が重要視されるようになった背景のひとつです。働き方改革や地方活性化の政策により、従来の終身雇用形態ではなく、非正規雇用やフリーランスなどの働き方が増えています。
また、仕事に対する価値観や考え方も多様化しています。それと同時に、個人を尊重し、それぞれの魅力を最大限に活かすことが企業に求められるようになってきました。
人材構造、働き方の多様化に対応するためにも、人的資本を活用しながら企業価値の向上を目指すことが重要です。
国が公表している人的資本経営のポイント
日本政府も人的資本経営を積極的に取り入れるよう、企業に呼びかけています。国が公表している人的資本経営のポイントを把握しておきましょう。
人的資本経営で重要となる3つの視点
経済産業省が公表している「人材伊藤版レポート」の中では、人的資本経営に必要な3つの視点と5つの要素として「3P・5Fモデル」が提唱されています。まずは、3つの視点から見ていきましょう。
経営戦略と人材戦略の連動
まずは、経営戦略と人材戦略を連動させることです。
企業は、中長期的な経営戦略を設けて経済活動を行います。経営戦略と人材戦略を連動させることで、売上や利益、成長率などの数値的な目標の達成だけでなく、持続的な企業価値の創出をすることも可能となります。
As is-To beギャップの定量把握
人的資本経営には、As is-To beギャップを定量的に把握する視点も必要です。As is-To beギャップとは、理想と現状のギャップもしくは、そのギャップを作り出している問題点を把握することです。
人的資本の課題ごとにKPIを設定し、定期的に戦略を見直していきます。そこでPDCAサイクルを回し、人材戦略に磨きをかけることが重要です。
企業文化への定着
人的資本経営は、トップダウンで導入を促しても定着させることはできません。企業に人的資本経営を根付かせるためには、「企業文化への定着」が必要です。経営者だけでなく、従業員一人ひとりの意識改革をすることで、人的資本経営を成功させることができます。
人的資本経営で重要となる5つの要素
次に、人的資本経営で重要となる5つの要素を見ていきましょう。
動的な人材ポートフォリオ
人材ポートフォリオとは、経営目標を達成するために、必要な人材の種類や数を分析する手法のことです。人的資本経営では、常に、組織内の人材情報の分析、設計が必要になります。
知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
ダイバーシティとは、人材の多様性の確保のことです。また、インクルージョンとは、個人が多様性を認め合いながら働くことです。
人的資本経営で重要となるのが、個人を尊重し多様性を認め合う考え方です。持続性のある企業価値向上を生み出すには、多様な人材を最大限生かして、新しいイノベーションを作ることが重要となります。
リスキル・学び直し
リスキルとは、必要なスキルを習得すること、もしくはさせることをいいます。
職業において、必要なスキルは常に変化していきます。リスキルや学び直しをすることで、変化に対応しながら働くことが可能になります。上述した「As is-To beギャップの定量把握」の視点からも、目標に必要な能力を把握し、リスキル・学び直しすることが重要となるでしょう。
従業員エンゲージメント
「従業員エンゲージメント」とは、企業に対する従業員の思いや貢献意識のことです。従業員エンゲージメントが高まるほど、生産性がアップし、利益率の向上につながります。また、離職率の低下や顧客満足度の向上など、企業活動に対してあらゆるメリットを与えます。
そのため、人的資本経営を成功させるためには、従業員のエンゲージメントを高めることが必要です。
時間や場所にとらわれない働き方
そもそも人的資本経営が重要視されるようになった背景のひとつに、働き方の多様性があります。人的資本を最大限生かすためにも、時間や場所にとらわれない、ワークスタイルの多様化は重要です。
まとめ
人的資本経営とは、人材を資源ではなく、資本として考え、経営していく手法のことをいいます。企業には、企業価値を持続的に向上させることが求められます。そのためには、人材を資本として捉えて最大限生かすことが必要です。
これからの社会情勢は、どのように変化していくか予測がつきません。企業がその変化に対応し、生き残っていくためにも、ますます人的資本経営は重要となっていくでしょう。