裁量労働制とは
裁量労働制は「みなし労働制」とも呼ばれる制度であり、あらかじめ定めた一定時間を労働時間とみなします。実働時間が長くても短くても、一定時間働いたとして計算される制度です。
例えば、みなし労働時間が8時間と設定されていた場合、5時間働いた場合と、10時間働いた場合で、給与は変わりません。早く仕事を終えれば早く帰宅でき、残業した場合でも残業代は支給されないということです。
具体的な労働時間を何時間に定めるかは、会社ごとの労使協定により定められており、いわゆる「定時」の考えに縛られなくなります。パフォーマンスさえ発揮していて確実に役割をこなしていれば、定められた時間未満の労働であっても、通常と変わらぬ収入を得られます。
裁量労働制には2種類ある
裁量労働制は、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類に分けられます。雇い主の都合でいずれかを選択できるのではなく、職種ごとに適切な制度が決まっているのが特徴です。
日本における導入率は、2021年3月時点で専門業務型が2.0%、企画業務型が0.4%といずれも僅かな割合にとどまっています。
出典:「令和3年就労条件総合調査 結果の概況」(厚生労働省)
それぞれの制度の詳細や、該当職種について、下記で解説します。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、時間配分や仕事の進め方を従業員の裁量に任せる必要がある職種に採用される制度です。
具体的には、下記のような職種が専門業務型裁量労働制の対象に挙げられます。
・ライターやディレクターなど編集出版関連職
・ニュースキャスターや新聞記事など放送関連職
・プログラマーやエンジニアなど情報処理関連職
・公認会計士や弁護士など士業
・証券アナリスト
・コンサルタント
・大学における教授研究の業務
上記に該当する職種の場合、企業・従業員間で労使協定を締結することにより、裁量労働制の導入が可能です。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、会社の経営及び重要な決定が行われる職種に採用される制度です。「企画」と名のついている通り企画職やマーケティング職が対象となるほか、下記のような仕事も含まれます。
・総務
・人事
・経理
・法務
・労務
・経営企画部
・秘書室
特に、本社機能に関わる部分に導入されることが多いことが特徴です。裁量労働制を導入する職種の選定を行うときは、自社の場合と照らし合わせながら検討しましょう。
こちらも専門業務型裁量労働制と同じく、労使協定を締結する必要があります。ただし所轄の労働基準監督署に届出が求められるなど異なる点もあるので、導入時は注意が必要です。
企業が裁量労働制を導入するメリット
次に、企業が裁量労働制を導入するメリット・デメリットを解説します。裁量労働制を導入した場合、期待できるメリットは4つです。
人件費を管理しやすい
実働時間の長短に関わらず一定の金額を支払う制度なので、原則として残業代を支払う必要がありません。その分、人件費を事前に算出できるなど、管理面でのメリットが大きく現れます。
人件費予算に則った採用戦略が立てられたり、あらかじめ給与計算の大半を済ませておいてルーティン業務を簡略化したりすることも可能です。
労務管理の負担を軽減できる
残業時間数を算出しながら残業代を試算するなど、労務管理の負担を軽減することができます。特別な残業・早朝深夜の勤務・インセンティブなど別途計算が必要な給与項目がなければ、ほとんど一律で支払いにすることもできるのです。
会社として実労働時間を管理することは求められるものの、給与締め日後の忙しさの緩和にもつながります。
人材採用の幅が広がる
裁量労働制にメリットを感じる人を雇用しやすくなる点も挙げられます。例えば、高いスキルを用いて短時間で業務を終えられる人や、家庭との両立を目指す人などが該当します。
定時に縛られない柔軟な働き方や、裁量と責任の多い仕事にやりがいを感じる人にとってもメリットがあります。採用市場における注目度が集まり、有能な人材の採用につながることも考えられます。
また、ワークライフバランスを理由とした退職を防げるという点もメリットのひとつです。
生産性が向上する
裁量労働制は、早く確実な仕事ができる人ほどプライベート時間を確保しやすい働き方であり、従業員のモチベーション向上につながります。「時間を効率良く使おう」「ミスなくスピーディーな仕事をして早めに退勤しよう」という意欲をもとに、生産性が上がることも多いのです。
また、自分のペースで働けるからこそ「今日はゆったり働く」などの選択肢も広がり、従業員の働きやすさに寄与することもポイントです。
裁量労働制を取り入れるデメリット
メリットの多い裁量労働制も、導入の判断には慎重さが必要です。導入後、思わぬトラブルに悩まされることのないよう、あらかじめデメリットも確認したうえで検討しましょう。
導入に工数がかかる
労働時間の取り決めについて組合と話し合ったり、労使協定を締結したりする必要があり導入に工数がかかります。
社内規定や給与規定にも影響する場合、改定しなければなりません。すでに労働基準監督署に届け出ている規定があれば、改定についても報告するなど事務手続きが多くなります。
また、妊産婦・産休育休中・介護休暇を取得中の従業員など、導入が適切か判断すべき人がいるケースもあります。
従業員同士のコミュニケーション問題が生じやすい
従業員ごとに出退勤の時間がズレやすくなり、社内コミュニケーションに支障が出るケースがあります。
「一斉の朝礼ができず業務連絡しづらくなった」「必要最低限の情報共有だけになってしまい、雑談が減った」などの事例を抱える企業も珍しくありません。従業員同士の交流が減り、信頼関係が築きにくく、新しく入った人材が定着しない可能性も出てきます。
スケジュール調整や労働管理が困難になる
大規模な会議・複数人で進行したい案件などが生じた場合、スケジュール調整に手間がかかる可能性が高まります。例えば、朝早めに勤務を始めたい人と夜型の人とでスケジュールの希望が合わず、なかなか会議の場を設けられないなどです、
また、個人のスキルや業務量次第では残業を避けられず、長時間労働につながる可能性もあります。裁量労働制だからといって手を抜かず、正確な勤怠実績を把握しながら長時間労働を防ぐ取り組みの実施が欠かせません。
裁量労働制を導入する際のポイント
裁量労働制を導入する際のポイントとして、みなし労働時間内と、それ以外の労働時間を明確に区分することが挙げられます。
裁量労働制であっても、無制限に残業させて良いわけではありません。下記の場合は、残業代を支払う必要があります。
・みなし労働時間が8時間を超える場合
・労使が合意している場合でも年720時間を超える残業
・1年間の間に45時間以上残業する月が6ヶ月を超える
他にも、深夜残業や休日出勤には割増手当を支払う必要があります。「裁量労働制だから」と大雑把な勤怠管理だけをしていると、労働基準法に抵触するおそれもあります。
まずは正確な勤怠実績を把握し、そのうえで裁量労働制の範囲と、それ以外の範囲とを分けて給与計算することを意識していきましょう。
勤怠実績の把握に困ったら勤怠管理ツールを使うのもおすすめです。働く時間や場所の異なる個人の勤怠実績を可視化できるだけでなく、部署ごとの残業時間数なども一元管理できるツールもあるため、裁量労働制との相性も抜群です。
まとめ
裁量労働制は、個々の従業員に仕事の進め方や時間配分を任せられる働き方です。会社にとっては労務管理の簡略化や人件費の事前試算などのメリットがあります。
同時に、従業員にとってはワークライフバランスやモチベーションの向上などのメリットがあり、働き方改革の一環として取り入れるのもおすすめです。
しかし、運用次第では長時間労働をしても給与は変わらないことから、従業員の不満を招いたり、正確な勤怠実績を把握できず残業代の支払い漏れが起きたりすることも考えられます。裁量労働制の導入には、正確に勤怠実績を把握できるツールの活用も視野に入れ、トラブルのない運用スタイルを構築していくことが大切です。