ヘルスリテラシーとは

ヘルスリテラシーとは、健康維持・増進に必要なことを正しく理解し、実践する力のことです。ヘルスリテラシーが高い方は、健康・医療に関する情報の正誤を精査したり、知識に基づいて具体的な行動ができたりする特徴があります。

単に健康に関する知識を持っているだけでなく、「活用するスキル」がヘルスリテラシーの高低に影響します。ヘルスリテラシーは、病気や怪我から自分(もしくは従業員)を守るだけでなく、メンタルヘルス予防にも役立つ考え方であるとして、近年注目されています。

ヘルスリテラシーに関する日本の現状

ヘルスリテラシーに関する日本の現状は、残念ながら世界と比較してまだまだ低いのが現状です。「かかりつけ医」という考え方が浸透し始めたのも最近のことであり、「些細なことでも相談できる身近な医者」がいない人がほとんどです。

具体的な症状が表れる前に相談したり、気軽に予防策を聞けたりする存在はさらに少なく、知識を学ぶ場所がないことも課題です。

また、日本人のうち29.2%が「一度もがん検診を受けたことがない」と回答した調査結果も出ています。

参考:「がん対策・たばこ対策に関する世論調査 2 調査結果の概要 1」(内閣府)

国民皆保険制度が導入され、誰でも気軽に医療へアクセスできるのは日本の魅力です。一方で、知識を身につけながら健康維持・増進ができる環境を、今後さらに整える必要があります。

【ヘルスリテラシー】各レベルと評価方法

ヘルスリテラシーには、健康知識の取得や理解、活用など、状態に応じて下記3つのレベルがあります。

・機能的ヘルスリテラシー
・相互作用的ヘルスリテラシー
・批判的ヘルスリテラシー

下記でそれぞれの内容についてご紹介します。

ヘルスリテラシーの3つのレベル

ヘルスリテラシーに関する3つのレベルは、それぞれ下記の特徴があります。

機能的ヘルスリテラシー

機能的ヘルスリテラシーとは、最低限必要な健康リスクや保健医療に関する情報を理解するレベルのことを指します。ヘルスリテラシーを考えるうえで最も基礎を構築する要素であり、最低限の健康知識を問う項目です。

相互作用的ヘルスリテラシー

相互作用的ヘルスリテラシーとは、自分が持つ知識以外も役立てながら健康の維持・増進ができるレベルのことを指します。友人に誘われてウォーキングイベントに参加したり、インターネットで評判の良い病院を探して自ら選択したりすることが挙げられます。

批判的ヘルスリテラシー

批判的ヘルスリテラシーとは、自ら健康情報を発信できるレベルです。このレベルに到達すると、インプットだけではなく、アウトプットもできるようになっていると考えられます。例えば、友人をウォーキングイベントへ誘ったり、SNSやブログを通して自らの健康知識をまとめたりすることがあてはまります。

ヘルスリテラシーの評価方法

ヘルスリテラシーを客観的に評価する方法のひとつとして、HLS-14(14-item health literacy scale)という尺度があります。

下記のうち、自分がどこまでできるか次第でヘルスリテラシーを測れるようになっています。

機能的ヘルスリテラシーについて
病院や薬局からもらう説明書やパンフレットなどを読む際に

1.読めない漢字がある

2.字が細かくて読みにくい

3.内容が難しくて分かりにくい

4.読むのに時間が掛かる

5.誰かに代わりに読んでもらうことがある

相互作用的ヘルスリテラシーについて
ある病気と診断されてから、その病気やその治療・健康法について

6.いろいろなところから情報を集めた

7.たくさんある情報から自分が求めるものを選び出した

8.自分が見聞きした情報を理解できた

9.病気についての自分の意見や考えを医師や身近なひとに伝えた

10.見聞きした情報をもとに実際に生活を変えてみた

批判的ヘルスリテラシーについて
ある病気と診断されてから、その病気やその治療・健康法に関することで、自分が見聞きした知識や情報について

11.自分にもあてはまるかどうか考えた

12.信頼性に疑問を持った

13.正しいかどうか聞いたり調べたりした

14.病院や治療法などを自分で決めるために調べた

引用:「医療者と患者のコミュニケーション:ヘルスリテラシーを手がかりにして」(厚生労働省eJIM)

上記の評価方法は、ヘルスリテラシーの有無を明確に判断するものではありません。あくまで参考のひとつとして捉えてください。「できていない部分がある」「家族や従業員に心配な人がいる」と感じたときは、ヘルスリテラシーについて考える時間をとることがおすすめです。

企業が従業員のヘルスリテラシーを重視すべき理由

ヘルスリテラシーは個人の努力次第で向上するものですが、近年は従業員のヘルスリテラシー向上施策に力を入れる企業が増えています。その理由として下記が挙げられます。

・健康経営に積極的な企業が投資市場で評価されるようになっているから
・従業員が健康だと業務に対する集中力や生産性が上がるから
・充実した社員教育や福利厚生は採用市場でも評価されやすいから
・従業員本人の関心がなければ効果的な健康対策ができないから

対外的な理由となるのは、投資市場・採用市場における自社への注目度アップです。投資家や金融機関から評価されれば、資金調達が容易になります。採用市場で評価されれば、優秀な人材を積極的に雇用しやすくなるのです。

対内的な理由となるのは、生産性の向上が挙げられます。体調不良やメンタルヘルスを理由とした休職(アブセンティーズム)や、慢性的な遅刻・欠勤・早退(プレゼンティーズム)を防ぐことに役立ちます。

ヘルスリテラシーが高い従業員に期待できる行動

ヘルスリテラシーが高い従業員には、下記のような行動が期待できます。

・自身の健康状態を客観的に考えながら業務ペースを組み立てる
・健康上の悩みや症状に合わせて正確な情報収集や対処ができる
・病気や怪我を予防しながら働ける

また、自身の健康維持・増進だけでなく同僚や部下の健康状態に気を遣えるようになるのもメリットです。特に管理職などマネジメントを担当する側の従業員がヘルスリテラシーを身につけることで、部署全体の健康が増進することもあります。

ヘルスリテラシーが低い従業員が抱えるリスク

反対に、ヘルスリテラシーが低い従業員には下記のようなリスクが生じるので注意が必要です。

・些細な体調変化を見逃して大きな病気や怪我をしてしまう
・慢性的な遅刻や長期的な休職につながりやすくなる
・健康に関する誤った情報に振り回されてしまう

一見健康への関心が高いように見える人でも、誤った情報に振り回されて自己流の健康対策をしてしまうと、思うような効果が出ないことも珍しくありません。

また、自身の健康に対して他人事になってしまうのも望ましくない状況です。ヘルスリテラシーが高ければ上記のようなリスクを予防できます。

従業員のヘルスリテラシーを高める方法

最後に従業員のヘルスリテラシーを高める方法を解説します。具体的にどのような施策から実施すべきかわからないときは、下記で紹介する方法を試してみてはいかがでしょうか。

1.現状のヘルスリテラシーレベルを理解する

まずは従業員のヘルスリテラシーレベルを客観的に把握しましょう。ヘルスリテラシーのレベルが低ければ、まずは健康について関心を持ってもらうことや、専門用語を使わず分かりやすく解説することに重点を置きます。

一方、すでに一定のヘルスリテラシーが獲得できているのであれば、将来的な疾病予防に関する項目などに触れることも可能です。

2.健康に関して学ぶ機会の提供

健康セミナーや、社内報を使った情報提供、産業医など事業内保健スタッフと相談できる場所の提供など、具体的な施策を考案します。いずれの場合でも、「気軽に利用できること」「強制性がないこと」を重視する必要があります。

特に自身に関する健康情報の提供には抵抗感を持つ人もいます。施策は慎重に進めることをおすすめします。

3.情報を見極めるためのポイントを共有する

正しい情報と間違った情報とを見分けるポイントについて指導するのも効果的です。

例えば、情報の発信元を確認したり、複数の専門家が言及しているかチェックしたりする方法があります。信頼できそうな根拠が見つからない情報は、一度デマを疑うなどリテラシーを高めるのが理想です。

4.チームで取り組む施策や環境を作る

部署・職種・チームなど、複数人で健康維持・増進できるような施策を考えます。昼憩時のヨガ・朝のラジオ体操・塩分に配慮した社食の提供・禁煙対策セミナーなど、従業員の関心に合わせて内容を考案するのがポイントです。

ほかにも、社内部活動を始めたり人間ドック受診費用の補助を始めたりする方法もあります。

5.従業員の興味関心をひくシステム作り

従業員ごとに異なる興味・関心を引けるよう、多岐にわたる施策を用意するのもおすすめです。女性専用の健康課題に関する相談窓口の設置、健康管理ポータルサイトを使った歩数計測、eラーニングを活用した不妊治療勉強会の提供などが上げられます。

また、平均歩数を部署間で競うなど、他チームの取り組みを可視化する動きを取る方法もあります。

まとめ

ヘルスリテラシーを高めるためには、「自分も気軽に参加してみようかな」と思える施策づくりが大切です。効果的な施策を取り入れられれば、健康の維持・増進だけでなく生産性の向上や投資市場における評価の高まりなど、企業側に与えるメリットも多くなります。

まずは従業員のヘルスリテラシーレベルを可視化するところからはじめ、興味・関心に合わせた施策を作っていきましょう。