エンゲージメント経営とは

エンゲージメント経営とは、企業と従業員の関係において、双方の信頼性を高めるための経営方針です。

エンゲージメントにはもともと「約束」などの意味がありますが、エンゲージメント経営においては「従業員エンゲージメント」を指します。従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して愛着心をもち、企業に貢献しようとする意欲のことです。

従業員のモチベーションや貢献意欲を最大限に引き出し、企業と従業員の良好な関係を築くために必要な考え方が「エンゲージメント経営」となります。

エンゲージメント経営に注目が集まっている理由

エンゲージメント経営が注目されるようになった理由は、以下のふたつです。

・価値観の多様化
・人材不足の深刻化

かつて日本では、年功序列や終身雇用といった画一的な働き方や価値観が一般的でした。しかし、これらの働き方や価値観は変化しつつあります。個人を評価してくれる企業、やりがいのある仕事などを求める人が増加しており、労働市場も変化しています。

働き方の多様化が進み、さまざまな価値観が生まれる中で、事業継続の難易度は高まります。企業が成長を続けるためには、どうすれば労働市場で選ばれるか、また長期的に働いてもらえるかを検討する必要があるのです。

また、少子高齢化による人材不足の深刻化も要因のひとつです。限られた人材をうまく活用するため、従業員の定着率アップや生産性の向上が重要になってきています。人材の確保と定着は今や多くの企業が抱える課題といえるでしょう。

このような背景から、エンゲージメントを重視した経営の必要性が高まりつつあるのです。

エンゲージメント経営で得られるメリット

エンゲージメント経営を実践することで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。期待できる3つのメリットを紹介します。

従業員の定着率向上

「若い社員の離職が多く将来的な人材を確保できない」「新卒採用をしたものの他社に流れてしまう」など、多くの日本企業で新入社員の離職率の高さが問題視されてきました。

従業員が離職する理由のひとつとして挙げられるのが、会社に対する不満です。エンゲージメント経営によって社員の期待する価値を提供し、信頼関係を築くことができれば、会社に対する不満解消が見込めます。ひいては、離職理由のひとつを払拭することにつながるのです。

さらに、定着率が向上すれば、企業価値の向上につながり、採用の効率化も期待できます。

従業員の貢献意欲やモチベーション向上

エンゲージメント経営により、従業員のモチベーション向上も期待できます。エンゲージメントの高い従業員は、企業への貢献意識や仕事に対するモチベーションが高まりやすいためです。

自発的かつ積極的に行動する従業員が増え、社員同士のコミュニケーションにもプラスの影響をもたらすでしょう。従業員同士がお互いに良い刺激を与え合える職場環境が形成され、結果的に生産性の向上も見込めます。

品質向上・業績アップ

従業員エンゲージメントは、企業の製品やサービスの質にも影響します。エンゲージメントが低い状態であると、最低限の業務をこなすだけとなってしまい、質の低下を招くこともあるためです。

エンゲージメント経営を実践することで、より良いサービスや製品を提供したいという思いから、プラスアルファの業務に積極的に取り組む社員が増えます。結果として、品質向上や会社全体の業績アップが期待できるでしょう。

エンゲージメント経営実践の3つの手順

エンゲージメント経営のメリットを知ったところで、エンゲージメント経営はどのように実践すれば良いのか、実践の手順を解説します。

1.現在の従業員のエンゲージメントを把握する

エンゲージメント経営を実践するうえで重要となるのは、従業員エンゲージメントの現状を把握して課題を見つけることです。

ただ、会社への愛着心や貢献意欲を表す従業員エンゲージメントは、目に見えるものではありません。そこで、エンゲージメントスコアなどを用いて可視化することが必要です。

方法としては、アンケートの実施やツールを用いた調査が挙げられます。例えば、以下の方法が活用できます。

・エンゲージメントサーベイ:包括的な質問でエンゲージメントを測定する
・パルスサーベイ:少数の質問で現在の心理や変化を測定する

アンケートだけで把握しにくい部分については、従業員個人やグループへのインタビューの実施も検討すると良いでしょう。

2.課題に対する解決策の検討・実施する

従業員エンゲージメントの現状を把握したら、エンゲージメント低下の原因を見つけ出します。

エンゲージメントスコアの基本になるのは、次の12の要素です。

・戦略・方向性
・リーダーシップ
・個人の尊重
・品質・顧客志向
・成長の機会
・報酬・福利厚生
・業績管理
・権限・裁量
・リソース
・教育・研修
・協力体制
・業務プロセス・組織体制

このような要素をもとに、自社で不足している部分を抜き出し、それぞれの解決策を検討していきます。

不足している項目が複数ある場合は、重要度や解決にかかる時間やコストを考慮し、優先順位をつけることが大切です。

また、一度に全ての課題を解決することは難しいため、ひとつずつ対策を立てて実践しましょう。

3.定期的な効果測定を行う

従業員エンゲージメント向上のための施策は、実践して終わりではありません。実際に課題解決につながっているのかを測定し、ずれが生じている場合は改善が必要です。先述したアンケート調査を定期的に実施して確認しましょう。

また、エンゲージメント経営の実践により、新たな問題が生じていないかをチェックすることも大切です。

エンゲージメント経営を実践するときの注意点

エンゲージメント経営を企業にとって効果的なものにするためにも、次の3つの注意点を意識して実践してみましょう。

管理職だけで実施しない

ひとつは、管理職など上層部だけで従業員エンゲージメントの解決を図らないことです。エンゲージメント経営の効果測定や実施を上層部だけで行っても、現場の状況が適切に読み取れず、実態と食い違うこともあります。

実際の状況に即した問題解決が行われないと、従業員のエンゲージメントは向上しないだけでなく、かえって低下してしまうこともあるでしょう。

現場の従業員との連携で効率良く課題解決に取り組めるメリットもありますので、従業員も巻き込んで課題解決に向けた取り組みを行うことが大切です。

課題の共有や解決策の公募など、従業員に歩み寄った方法で実施しましょう。

人事評価も見直す

従業員エンゲージメントの向上を図る取り組みを行っても、それにともなう正当な評価が得られなければ、逆効果になるリスクもあります。

エンゲージメント経営を実践する際は、従業員一人ひとりの努力や会社への貢献度が評価される仕組みづくりも心がけましょう。

従業員のモチベーション要因を把握する

従業員エンゲージメントを高い状態で維持するためには、従業員のモチベーションがどこにあるか、要因を把握しておくことが重要です。

環境の変化や状況によってモチベーション要因は変化するため、定期的にアンケートを実施するなどして状況を把握できるようにしましょう。

まとめ

エンゲージメント経営は、従業員のモチベーションや会社への貢献意欲を高め、労働生産性や定着率の向上を図るのに効果が期待できます。企業価値の向上はもちろん、人材不足や離職率に課題を抱えている企業なら、積極的に取り入れたい経営方針です。