近年、従業員自らキャリアコースを選択できる「複線型人事制度」が注目されています。主体的にキャリアを選択できるため、従業員の成長を広げ、従来の人事制度にはないさまざまなメリットが期待できます。
企業ごとに制度の使い方が異なるので、複線型人事制度の導入時は、概要を理解した上で自社に合った仕組みを考えることが大切です。
今回は複線型人事制度にするメリットや注意点についてご紹介します。
複線型人事制度とは
複線型人事制度とは、従業員が自ら複数のキャリアコースを選べる人事管理のことを指します。従業員に多様なキャリアコースを提示することにより、自らキャリアを選択できるため、主体的なキャリア形成が可能な制度です。
例えば、管理職として部下のマネジメントに尽力するキャリアもあれば、次世代リーダーとして経営論を学び、役員としてキャリアアップするなどが挙げられます。
複線型人事制度とは異なり、ある程度キャリアコースが固定されている人事制度のことを単線人事制度と呼びます。社内におけるキャリアコースが、事前に定められたコース以外に選択できません。例えば、昇格をする際は、現在担当している職務の管理職としてポジションになることが前提となります。従来の企業で採用されている人事制度です。
企業が複線型人事制度を取り入れるメリット
複線型人事制度が注目される背景には、企業に対しさまざまなメリットが挙げられるためです。従業員によって選択するキャリアが違うと聞くと、人事管理や評価に手間がかかる制度のように思えますが、実際はどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
従業員のモチベーション向上につながる
自分が主体的にキャリアを選択できれば、従業員のモチベーション向上につながります。キャリアの不一致による離職も防ぐことができ、人材の安定にも期待できます。また、従業員が自ら望む働き方が実現しやすくなるため、仕事に対する満足感も向上するのです。
これらの効果から、企業全体の業務効率化や生産性の向上にもつながる可能性があります。
人材の成長の幅が広がる
従業員一人ひとりの得意分野・特性・適性に合ったキャリアアップが叶いやすくなるため、人材成長の幅が広がります。
例えば、従来の単線型人事制度であれば管理職になるキャリアが一般的です。その場合、マネジメントが苦手な従業員でも、そのキャリアに進むしかなくなります。しかし、管理職以外のキャリアを目指せる複線型人事制度では、個人の得意分野を活かすことで、専門スキルを効率t系に蓄積しながらスペシャリストを目指せます。
多種多様な人材が参画するようになっている現代だからこそ、キャリア選択肢が多い職場がますます必要になっているといえます。
専門スキルに長けた人材が定着しやすい
エンジニア・プログラマー・デザイナーなど専門職は、時代に合わせて変わる最新技術を学び続けなければなりません。しかし、単線型人事制度のようにマネジメント側に行かざるを得ない組織では、自身のスキルアップに時間を充てることが困難になります。
一方、複線型人事制度であれば、自身の求めるキャリアを選択できるため、業務でスキルアップしながら、同時にキャリアアップもはかれるのです。興味・関心のある分野で確実にスキルを身につけられるので従業員にとってのメリットも大きく、ノウハウの蓄積も叶います。
複線型人事制度の分け方は3パターン
複線型人事制度には、大きく3つのパターンが存在し、キャリア志向、適正、職群で分けられます。下記でそれぞれご紹介します。
キャリア志向で分ける
キャリア志向で分ける場合、従業員が希望するキャリアに基づき、さらに「総合職コース」「一般職コース」「専能コース」の3つに細分化されます。
総合職コースは経営幹部やマネージャーになることを想定したキャリアコースであり、時には異動・転勤・海外赴任を伴います。任せられる業務のボリュームや責任感が大きく、豊富な経験を積むことができます。
一般職コースは、一定条件における勤務を希望する人に向けたキャリアコースです。原則として引っ越しを伴うような大規模な異動・転勤がありません。育児・介護やプライベートと両立したい人にとって最適であり、無理なく働きながらキャリアを継続できます。
専能コースは、特定の職種で働くことを前提としたキャリアコースです。オフィスの異動があっても職種自体は変わりません。業務内容は変えずに、経験・ノウハウを積みたいときに向いています。なかには「専門職コース」として掲げる企業もあり、中途採用の場でもよく見られます。
適性で分ける
適性で分ける場合、従業員のスキルや特性に応じて、「管理職コース」「専門職コース」「専任職コース」などに細分化するのが一般的です。
管理職コースはその名の通り管理職を目指すキャリアです。マネージャーとして部下・後輩の指導に当たりながら組織としてあるべき姿を目指します。リーダーシップが発揮される仕事なので、将来的に役員や経営層に就任することも珍しくありません。
専門職コースは、技術職・士業など独占資格を持つ専門職として、知識や技術を習得するキャリアコースです。特定の業務領域に特化するので「その道のプロフェッショナル」として評価されることが多く、頼もしい存在として成長します。
専任職コースは、総務・人事・法務・労務などのバックオフィスや、秘書など実務や経験値が重視される職種の育成に最適です。確かな経験に裏付けられたスピーディーな情報処理ができるので、縁の下の力持ちとなることも多いです。他にも、マーケティング・広報などの職種も専任職コースに向いています。
職群で分ける
職群で分ける場合、自社にある仕事内容や部署ごとに応じて柔軟にコースを細分化できます。
例えば、研究員としての専門職とマーケティングとしての専門職を分けて運用したり、現場で顧客を獲得する営業職と主にバックオフィス部門を担う事務職とで分けたりすることができます。
職群によってキャリアコースを設定する場合、職群ごとに求められるスキル・経験・役割を可視化したうえで人を配属することが重要です。本人希望だけでなく適性も見ながら、最適な人材配置をしていきましょう。
複線型人事制度を導入するときのポイント
複線型人事制度を導入するときのポイントは、下記の通りです。
・定着までしっかり時間をかける
・十分なコストを確保しておく
・評価基準を複数用意しておく
これまで単一型人事制度であった期間が長い企業では、下記のような考え方を持つ人がいることも多いです。
・仕事ができるはずなのにマネージャーを目指さないのは怠慢だ
・出世欲がない人はやる気もないのかもしれない
一方、複線型人事制度では多様なキャリアアップをするのが前提の仕組みであり、従業員の意識ごと変革することが欠かせません。複線型人事制度を導入する意義・目的やメリットを正しく周知し、共感を得て組織に定着するまで、ある程度時間がかかることを承知しておきましょう。
なお、人事評価制度の改定や社内規則の変更を伴うので、相応にコストがかかることにも注意が必要です。
複雑化する人事評価に対応するためにタレントマネジメントに特化したツールを導入したり、人材管理ツールを使ったりすることもあります。コストを把握したいときは、利用料も計算に入れておきましょう。
職種に合わせて評価基準を策定する場合は、部署・年代・役職ごとに待遇の差がでないよう配慮し、仕組みづくりしていくことも大切です。
まとめ
複線型人事制度は多様なキャリアを応援する仕組みであり、ゼネラリストもスペシャリストも育成しやすいのが魅力です。また、従業員ごとに異なるキャリアプランを尊重しやすく、従業員満足度やモチベーションが上がる効果も期待できます。
導入時の注意点は、浸透させるにはコストや日数が相応に必要となることです。かかるコストやスケジュールなども可視化しながら導入し、自社なりの運用を意識していきましょう。