鷹の2つの人生

鷹は長寿命で知られており、最長70年ほど生きると言われています。しかしながら、作家の中谷彰宏さんによると、前半の約40年と、その後の30年は、まったく違う姿になります。

鷹は35歳頃になるとクチバシと爪が弱くなります。クチバシが長く曲がって胸につくようになり、うまく捕食することができなくなります。爪が弱くなると獲物を取れなくなります。そして、羽が重くなり、自由に飛べなくなります。

強い自分のまま生きていこうとすれば、そのまま寿命を迎えます。一方、70歳まで生きる鷹は、このときに、約半年間にわたる厳しい「修行期」に入ります。

まず、山の頂上に行って巣を作ります。そこで自らのクチバシを岩にたたきつけて破壊します。やがて新しいクチバシが生えてくると、それを使って爪をはぎ取ります。新しい爪が生えてきたら重くなった羽を抜いていきます。この「修行期」の間はほとんど餌を取ることができませんが、外敵から襲われるのを防ぐため、山頂に身を潜めなければいけません。鷹は食物連鎖の頂点にいますが、鷹同士で争うこともありますし、人間に狙われることもあります。体力が弱れば他の動物から襲撃されることもあるでしょう。やがて新しい羽が生えてきたら、鷹は新しい鷹として生まれ変わり、活動を再開します。
(※以上、中谷彰宏さん作『50代でしなければならない55のこと』を参考にしました)

YouTube上にはこの「修行期」の鷹を扱うコンテンツが複数アップされていますので、ぜひご覧ください。苦痛とリスクにチャレンジした鷹は、新しく生まれ変わり、新たに30年以上の活躍の場を得ることができます。

鷹にとってのクチバシ、爪、羽は、企業にとって事業ポートフォリオを支えるアセットです。企業経営者は常に「クチバシを変えなさい、その次は爪を変えなさい」というプレッシャーと「クチバシを変える必要は無い。そんなリスクは負わないで欲しい」というプレッシャーを同時に受けます。その結果、往々にして、従来の体制を大きく変えずに新規事業を興すという展開になりますが、人員と予算と時間が十分に確保されなければ新規事業は成功しません。やがて「新規事業は失敗だった」という烙印が押され、変革は先送りされてしまいます。

減益下でチャンスを獲得

2022年上半期は上場会社の多くが減益の決算を発表しています。日経新聞によると、8月12日までに決算発表を終えた上場企業の2022年4~6月期の純利益は前年同期比26%減と2四半期連続で減益となっています。

減益の要因としては、一般的には長引くコロナ禍とウクライナ情勢の影響が挙げられていますが、革新的技術への巨額投資を始めたり、高額報酬でプロ経営者やDX人材を採用したり、既存事業からの撤退による損失を計上するなど、戦略的に行動して減益決算となっている例も多数報じられています。同業他社が減益、赤字の決算であれば、自社も赤字覚悟で構造改革、先行投資をしやすいという経営者の意識もあるかもしれません。

市場は企業の収益獲得能力だけではなく、企業の短期・長期の戦略を観察しています。クチバシを刷新するために増資をする、あるいは今年度はまず自己資金で爪2本を刷新する、という具合に、自社ならではの戦略を示し、市場に高く買ってもらうことが、いまのような激動期には欠かせません。

そして、日本企業の戦略策定能力と戦略実行スピードは、GAFAほど華やかではないかもしれませんが、近年、確実に高まっています。コロナ禍で日本のメーカーは中国・東南アジアからの部品供給の途絶、人材の移動停滞による労働力不足で大きなダメージを受けましたが、かなりの企業が調達先の分散・多様化、標準化などサプライチェーンの変革を進めています。新たなサプライチェーンを作るにあたり、提携やM&Aによってマーケットインテリジェンス(市場への理解)を確保するための取組も足元で加速しています。

私たち働き手自身も、このうねりのなかで、局面で自分自身の戦略を振り返って、見直していく必要がありそうです。そのために、ミドル年次の私としては、まずはクチバシ(=口)で健康的な食生活に気を配るとともに、羽が重くならないようエクササイズを増やしていきたいところです。