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基礎知識

正しい原価計算とは?6種類の計算方法・目的をわかりやすく解説

著者:チームスピリット編集部

  • 何のために原価計算を行うのだろうか
  • 原価計算はどうすればいいのか分からない
  • 何となく原価管理ツールに数字を入れているが、どうしてこの数字を使うのか理解できていない

原価計算を担当しているものの、その目的や正しいやり方がわからず、不安に思う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、原価計算とは何か、目的や計算方法、具体例を使った原価計算の出し方の流れをわかりやすく紹介します。

業種ごとの原価割合や、原価計算ができない時の対処法も解説するので、ぜひ参考にしてください。

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原価計算とは

原価計算とは、製造原価を求めるために実施する計算です。何にいくらかかったのかを計算し、目標原価を達成できていたか、どの費目がどれだけ増減したかを分析し、利益率の把握や改善に活用します。

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なお製造原価とは、製品を製造する際にかかった費用のことです。業種により、製造原価となる「費用」は異なります。

  • 製造業の場合は、原材料や部品を購入し、加工して製品を作成する過程で必要な費用
  • 飲食業では、原材料費や水道光熱費など
  • プロジェクト型のサービスを提供している場合(代理店や制作会社など)は、プロジェクト完了までに必要な人件費など

「製造原価」は「売上原価」と混同されがちな言葉です。製造原価と売上原価の違いは「当期に製造したか販売したか」です。

製造原価

売上原価

内容

当期に製造された製品の原価(材料や諸費用の価格)

当期に販売した商品の原価(商品の仕入値)

計算対象

当期に製造した製品

(当期の販売有無は問わない)

当期に販売した製品

※ここでの「製品」とは、原材料を加工して作成した品物を指します。「商品」は仕入れたまま加工せず販売する品物です。

原価計算の目的

では、原価計算は何のために行われるのでしょうか。

原価計算基準(※)によると、原価計算は大きく分けて「財務会計」と「管理会計」を目的に行われます。

財務会計目的で行われる原価計算

社外に報告するために行うため、「正確性」が求められる

管理会計目的で行われる原価計算

社内での利益確保・コストの見直しなどのために行うため、「リアルタイム性」が求められる

※原価計算基準とは、1962年に大蔵省企業会計審議会が公表した会計基準です。原価計算は「原価計算基準」をベースに行われます。

財務諸表作成と公定価格決定(財務会計目的)

原価計算基準では、財務諸表を作成するために原価計算が行われると定義されています。

財務諸表は、貸借対照表、損益計算書、製造原価明細書からなる、企業の利害関係者に向けて財政状態を公表するための書類です。

これら財務諸表作成のために、原価を正しく把握する必要があるのです。

財務会計目的の中には、公定価格を決める根拠として原価計算を実施することも含まれます。

原価の把握や利益率の改善・経営基本計画の策定(管理会計目的)

もう一つの目的は、適正な原価設定や利益率の改善です。

例えば、原価計算により目標原価となる「原価標準」を設定したうえで、実際にかかった原価を原価標準と照らし合わせて比較することで、「何にいくらかかっているのか」「原価を削減するためにはどのようなアクションが有効なのか」などを分析し、改善できるようになります。

またそれをもとに、適切な経営戦略を策定したり、各部門の予算を最適化したりすることが可能になります。

原価計算が必要な理由

ここからは、原価計算がなぜ必要か、より具体的に解説します。

  1. 経費削減のため
  2. 適正価格を設定するため
  3. 経営改善の指標とするため

1.経費削減のため

原価計算は、経費削減のために必要とされています。

企業が利益を増やすには、経費を抑えてなるべく利益率を最適化した状態で、商品やサービスを提供することがポイントです。

しかし、いくら経費を減らしたいからといって、やみくもにコストカットを行えばよいわけではありません。品質を担保できる範囲で実施することが重要です。

そのため原価計算をすることで、どこにいくらの費用がかかっているのかを把握し、それをもとに適切なコスト削減の方針を考えることが望ましいでしょう。

2.適正価格を設定するため

原価計算は、適正価格を設定するためにも必要です。

完成した製品を販売する際、過度に値下げするとその分の利益が減少します。値下げを続けると原価割れを起こしてしまい、場合によっては利益がゼロとなるかもしれません。反対に、利益を出したいからと必要以上に値上げすることも、マーケティング戦略上避けたほうがよいでしょう。

企業が経済活動をする際は、高過ぎず安過ぎず、適正な利益を出すことが大切です。

そのためには、製品やサービスの提供に必要な「原価」や「原価率」を正しく管理することが重要です。原価計算を適切に行い、目標値や実績を管理することが重要なのです。

3.経営改善の指標とするため

原価計算は、経営改善の指標としても活用されます。製品やプロジェクトごとに原価計算を行うことで、どの製品やプロジェクトが利益を出しやすいか分析ができます。

原価計算により

  • どこでどう原価を抑えると利益が出るのか
  • いくらまでなら費用を増やしても大丈夫か
  • 各部門の予算配分をどのようにするべきか

など個別の商品やサービスごとに状況が見えてくるので、計算結果を経営改善の指標とすることもできるでしょう。

原価の構成要素

本来原価にならないはずの費用を原価として計上すると、修正作業に時間がかかってしまいます。従って、原価計算をする際は、どの費用が製造原価となるかを知ることが大切です。

製造原価は、大きく分けて以下の3種類の費用で構成されています。

  1. 材料費
  2. 労務費
  3. 経費

構成要素1.材料費

材料費とは、製品を作るために消費される原料や部品などの費用です。材料費として計上されるのは、主に次の勘定科目になります。

勘定科目

該当する費用

原材料費、素材費

製品の材料

(買入)部品費

外部から購入して製品に組み入れた部品

(工場)消耗品費

工場の設備に対して使われる消耗品

消耗工具(器具)備品費

固定資産として扱わず減価償却不要となる10万円以下の工具や備品

構成要素2.労務費

労務費は、製造に関わった従業員の賃金や社会保険料です。

企業によっては、労務費の一部を「販売費及び一般管理費」とする場合もあります。企業のルールに従って分類しましょう。

勘定科目

該当する費用

賃金、給与、雑給

従業員に支払う給与


※賃金=現場従業員

※給与=現場外の従業員

※雑給=パート・アルバイト

賞与手当

ボーナス、夏季・冬季手当、報奨金、通勤手当など各種手当

退職金、退職給与引当金、退職給与引当金繰入

支払った退職金、退職金として積み立てている費用

福利厚生費、法定福利費

社会保険料、健康診断費用、社宅、食事代など

労務費については「労務費とは?内訳や人件費・経費との違い、労務費の計算方法を解説」記事で詳しく解説しています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

構成要素3.経費

製品製造のために支払った、材料費、労務費以外の経費は「経費」として計上されます。

勘定科目

該当する費用

外注加工費

製造工程を外部の会社に委託する際に、外部会社に支払う費用

通信費

インターネットや郵便、電話料など、各種通信にかかった費用

減価償却費

固定資産の取得価額を減少させ、費用化するための勘定

租税公課

各種税金、会費、組合費など

旅費交通費

役員や従業員が会社の業務のために出張・外出した際にかかった出張旅費や交通費

保管料

製品の保管を倉庫業者に委託した際に、倉庫業者に支払う費用

「材料費と労務費以外は経費に当たる」と覚えておくとよいでしょう。

それぞれの原価は「直接費」と「間接費」に分けられる

ここまで紹介した3つの原価は、さらに「直接費」と「間接費」に分けられます。

原価計算では、特定の製品に直接関係した費用と間接的に関係した費用を分けて計算します。直接関係した費用を「直接費」と呼び、反対に、間接的に関係がある費用は「間接費」です。

直接費

・製品製造やプロジェクト開発・販売そのものに関わる費用

・一つの製品やプロジェクトに紐づいている

間接費

・製品製造やプロジェクト開発・販売に直接は関わらないが、間接的に必要となる費用

・複数の製品やプロジェクトにまたがって発生することがある

なお、これまで紹介した原価は、それぞれ以下のように「直接費」「間接費」に分類されます。

材料費

直接材料費

材料費、買入部品費など

間接材料費

補助材料費、(工場)消耗品費、消耗工具(器具)備品費など

労務費

直接労務費

直接的に製造に関与した労働者への賃金など

間接労務費

間接的な作業に対する賃金、給料、退職給与引当金、福利厚生費、法定福利費など

経費

直接経費

外注加工費など

間接経費

光熱費、通信費、租税公課、旅費交通費など

間接費は、製造原価として各製品に割り振らなければいけません。各製品に割り振る処理を「配賦(はいふ)」と呼びます。

例えば、製品A、製品B、製品Cを開発している事業所の光熱費1万円を時間で配賦する場合、以下の表のようになります。

製造にかかった時間

配賦率

配賦額

製品A

80時間

50%

5,000円

製品B

48時間

30%

3,000円

製品C

32時間

20%

2,000円

このように、直接費なのか間接費なのかによって原価計算の方法が異なるため注意が必要です。

それぞれの原価は「変動費」と「固定費」にも分けられる

原価計算では、製造原価を「変動費」と「固定費」に分ける考え方もあり、後に行う原価計算の方法に影響を及ぼします。

  • 変動費:売上や生産量などに応じて増減する費用(材料費など)
  • 固定費:常に一定額発生する費用(設備の維持費など)

後述する原価計算の方法では「固定費を原価に含めるかどうか」によって手順が異なるケースもあるので、理解しておきましょう。

なお、製造原価を変動費と固定費に分けることで、黒字と赤字の境となる損益分岐点が求められます。損益分岐点を確認することで、どの程度の売上を達成すれば(コストをどの程度まで抑えれば)いくらの収益が出るかを見極められます。

▼損益分岐点の図解

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原価計算のやり方|6種類の原価計算と計算式

ここからは原価計算の方法と計算式を解説していきます。

原価計算の方法にはいくつかの種類があり、会社の規模や業種、製品の生産方法などを総合的に判断して、適切な計算方法を選択します。

下記の3つの区分の中から、それぞれ適切なものを選択して計算することになります。

原価計算の種類

  1. 総合原価計算と個別原価計算(製品の生産方法の違い)
  2. 全部原価計算と直接原価計算(原価の集計範囲の違い)
  3. 実際原価計算と標準原価計算(原価の計算方法の違い)

※原価計算の方法の選択で判断に迷う場合には、専門家の意見を参照することがおすすめです。

それぞれについて見ていきましょう。

「総合原価計算」と「個別原価計算」

製品の生産方法の違いによって「①総合原価計算」と「②個別原価計算」のどちらかを選択することがあります。

①総合原価計算:同じ商品を大量生産する

総合原価計算は、同じ商品を継続的に大量生産する場合に採用される方法です。食品・飲料製造業、電気製品製造業などで採用されています。

総合原価計算では、期間ごとに発生した製造原価を生産量で割って製品1個あたりの製造原価を求めます。

製品1個あたりの製造原価=総製造原価÷生産数

多くの企業では、製造原価の会計期間は1ヵ月となります。従って、1ヵ月ごとに会計を締め切り、製造原価を計算します。

総合原価計算の最大のメリットは、生産数に左右されず、効率的に原価計算ができることです。また、直接費と間接費を区別しないため、シンプルに原価が計算できます。

総合原価計算は、製品や生産方法によりさらに次の4つに分類されます。

  1. 単純総合原価計算
  2. 等級別総合原価計算
  3. 組別総合原価計算
  4. 工程別総合原価計算

①-1.単純総合原価計算

単純総合原価計算は、製造工程や素材が同一の製品を大量生産する場合の方法です。食品や飲料、製紙業、製鉄業などで採用されています。

製造原価÷生産数で1個当たりの製造原価が割り出される、最もシンプルな計算方法です。

①-2.等級別総合原価計算

等級別総合原価計算は、同じ製造工程でありながら、大きさや品質などで等級が分かれている製品を生産する場合に採用されます。

製造原価の合計に対して、等級に応じた負担割合を示す数値(等価係数)をかけて等級ごとの原価を算出する方法です。

▼導入例

  • Sサイズの衣服とLサイズの衣服を製造する繊維製品製造業
  • 大吟醸と吟醸を製造する酒造業

①-3.組別総合原価計算

組別総合原価計算は、同じ製造ラインや工程で、違う製品を生産する場合に採用されます。違う製品をそれぞれ「組」と呼び、組ごとに原価計算を実施する方法です。

▼導入例

  • 2種類の車を同じ製造ラインで製造する自動車製造業
  • チェックの服とストライプの服する繊維製品製造業

①-4.工程別総合原価計算

工程別総合原価計算は、複数の工程で製品を生産する場合に採用されます。例えば生産の際に複数の工場を経由する場合や、同じ工場内で複数の製造部門を経由して製品が完成する場合などです。

工程別総合原価計算では、各工程を「第1工程」「第2工程」「第3工程」と呼びます。工程が進むごとに製造原価が増える方式です。

第1工程で担当した部品が完成したときに、第2工程では第1工程の製造原価を「前工程費」として製造原価に加えます。第3工程では第2工程の製造原価を「前工程費」とします。最終的に全ての工程で使われた製造費用を製造原価とし、計算終了です。

工程別総合原価計算では、各工程ごとに製造原価を計算するので、どの工程で原価を多く使っているか、ロスが出ているかを把握しやすくなります。

②個別原価計算:プロジェクトや製品単位で原価を集計する

個別原価計算は、プロジェクトや製品単位で原価を集計し算出する方法です。直接費と間接費を別々にしてから、プロジェクトや製品1個あたりの原価を計算します。

▼導入例

  • 建設業、広告代理店
  • システム開発やコンサルティング、プロジェクトによりサービスが変わる場合
  • 特注された機械のような個別に製造される受注生産の場合

1つのプロジェクトにどの程度の原価がかかっているのかを明確にし、利益率を把握するとともに、別案件の見積もり作成に活用することもできます。

個別原価計算のやり方については「個別原価計算とは?総合原価計算との違いや計算方法・仕訳例をわかりやすく解説」記事で詳しく解説しています。

「全部原価計算」と「直接原価計算」

原価に固定費と変動費の両方(全て)を含めるのか、それとも変動費のみを計上するのかで、「①全部原価計算」と「②直接原価計算」に分類されます。

①全部原価計算:全ての原価を計上する

全部原価計算は、「固定費+変動費」で計算する、つまり製造に使われた全ての原価を集計して原価として計上する方法です。

固定費は売上によって変動しない費用なので「売上に紐づく原価」は見えづらいというデメリットがあります。しかし長期的に見ると、製造のために必要になった全ての費用を含めた原価を算出できるため、正確な利益率を計算できるというメリットがあります。

会計制度では全部原価計算が原則とされているため、財務諸表作成の際には全部原価計算が採用されることが一般的です。

②直接原価計算(部分原価計算):変動費のみ計上する

直接原価計算は、製品の原価を固定費と変動費に分類し、変動費のみで費用を計算します。

固定費は含めないことから「部分原価計算」とも呼ばれる方法です。先述した損益分岐点の算出にも用いられます。

固定費は売上によって変わるわけではありません。この方法では変動費のみを原価にするため「売上に対して原価がどれだけかかったのか」を正確に把握できるというメリットがあります。

ただし、制度会計上、直接原価計算での財務諸表作成は認められていません。直接原価計算を行った場合は固定費を調整する必要があることから、実務ではあまり採用されていないのが現状です。

「実際原価計算」と「標準原価計算」

実際にかかった原価を計算する際に「①標準原価計算」を行います。

また、その原価が目標に対してどれだけの差額が出たのかを分析をする際に「②標準原価計算」を採用します。

①実際原価計算

実際原価計算はその名のとおり、実際にかかった原価を計算する方法です。

▼例

実際にかかった原価

直接材料費

320,000円

直接労務費

140,000円

製造間接費

80,000円

合計

540,000円

②標準原価計算:目標原価を定める

原価管理を行うにあたって、目標とする原価を定めたうえで、実際にかかった原価との差を分析し、適切なコスト管理ができているかを判断する方法があります。

そのために行うのが「標準原価計算」です。

標準原価計算では、商品を生産する際に目標とすべき「標準原価(=原価標準)」を定めます。この計算を行っておくことで、目安となる原価を定め、原価割れが発生していないか、製造やプロジェクトの進行は想定通りに行われているかといったことを判断できます。

例えば、1つの製品を作るのに以下の原価がかかるとします。

直接材料費

単価(1kgあたり)150円の材料が2,000kg必要

→150円×2,000kg=300,000円

直接労務費

・従業員の時給が1,500円

・労働時間が合計100時間必要

→1,500円×100時間=150,000円

製造間接費

・電気代が1時間500円

・機械の維持費が1時間300円

・管理費が1時間200円

・かかる時間が100時間

→(500円+300円+200円)×100時間=100,000円

合計

550,000円

すると、標準原価は550,000円となります。

前項で説明した実際原価(実際にかかった原価)が、この550,000円と比べてどのような費用になるのかを確認することで、目標原価が達成できたかどうかや、目標原価を達成するためにどの部分を修正したらよいかを考えられます。

実際にかかった原価

標準原価

直接材料費

材料の価格の変動などで320,000円かかった

300,000円

直接労務費

通常よりも早く製品が完成し、140,000円しかかからなかった

150,000円

製造間接費

通常よりも早く製品が完成し、80,000円しかかからなかった

100,000円

合計

540,000円

550,000円

実績が標準原価よりも安く済んでいるため、原価による赤字は免れていると判断することができます。

このとき、実際原価が標準原価を上回ってしまった場合は、何がどれだけ増加したのかを分析することで、改善点を見つけることができます。

原価計算の流れを具体例を交えて解説

ここからは、原価計算のやり方や流れを解説していきます。

原価計算にもさまざまなものがあるので、今回はプロジェクト型ビジネス(代理店や制作会社など、労務費が原価の大部分を占めるビジネス)における「②個別原価計算」を例に挙げて解説します。

※あくまで一例です。事業内容や状況によって異なるケースもあります。

プロジェクト型ビジネスでは原価の大部分が従業員の人件費(工数)となります。つまり、「工数×稼働単価」をプロジェクト全体で出したものが原価となるイメージです。

そのため、まずは「どのくらい工数がかかったか」を正確に出して、その後原価計算を行う必要があります。

  • 財務会計が目的の場合は、「正確性」が重要となる
  • 管理会計が目的の場合は、「リアルタイム性」が重要となる

いずれの場合も、工数を正しく集計・管理できる工数管理ツールの導入がおすすめです。

財務会計目的と管理会計目的、それぞれの場合の原価計算の流れを、具体例を交えて解説していきます。

財務会計目的の原価計算例

Webページの制作プロジェクトを行うとして、プロジェクト全体でかかった費用が、以下の通りだとします。

勘定科目

値段

使用目的や内訳

支払方法

外注費用

10,000,000円

本プロジェクト専用

普通預金

労務費

2,000,000円

60%:本プロジェクト専用

40%:会社全体での使用分のうち一部

普通預金

経費

500,000円

50%:本プロジェクト専用

50%:会社全体での使用分のうち一部

現金

※プロジェクト内で作成されるのは、ライティング(文章)とデザイン。それぞれにかかった費用は、60%と40%で按分する。
※実務では、これらの情報は「製造指図書(せいぞうさしずしょ)」により指示される。

個別原価計算では、製品ごとにかかった原価の内訳を原価計算表に記入しながら、仕訳を行います。原価計算表とは、製品ごとにどの費用がどれだけかかっているかを記録する表です。

▼原価計算表

ライティング

デザイン

外注費用

直接労務費

直接経費

間接労務費

間接経費

製造原価

原価計算表に製品ごとの製造原価内訳を記入しながら、費目別→部門別→プロジェクト別に原価計算を行います。

ステップ1.費目別原価計算

最初に、部門ごとに発生した外注費用・労務費・経費を、直接費と間接費に振り分けます。

1.外注費用・労務費・経費を支払った金額を仕訳する

勘定科目

借方

勘定科目

貸方

外注費用

10,000,000

普通預金

10,000,000

労務費

2,000,000

普通預金

2,000,000

経費

500,000

現金

500,000

2.直接費、間接費に分ける

仕訳をした後、労務費と経費を直接費と間接費に分けましょう。プロジェクトに直接関係している費用は直接費です。プロジェクトと直接リンクさせづらい費用は間接費になります。

今回は、以下のように分類されます。

外注費用

全て本プロジェクト用なので直接費

労務費

60%(1,200,000円)が本プロジェクト専用=直接費

残り40%(800,000円)は会社全体での使用分のうち一部=間接費

経費

50%(250,000円)が本プロジェクト専用=直接費

残り50%(250,000円)は会社全体での使用分のうち一部=間接費

その後はまず、直接費を按分しましょう。原価計算表の按分比率を基準にして、ライティングとデザインそれぞれに按分します。

ライティング部門

デザイン部門

外注費用

6,000,000

4,000,000

直接労務費

720,000

480,000

直接経費

150,000

100,000

間接労務費

間接経費

製造原価

次に、振り分けた直接費の仕訳をしましょう。仕訳では、製品に振り分けた直接費は全部「仕掛品(しかかりひん)」勘定とします。

「仕掛品」は、製造途中の製品を指す勘定科目です。仕訳上は製造途中でかかった費用を全部仕掛品勘定にまとめ、最後に製品ごとの製造原価として振り分けます。

そして、間接費の仕訳です。間接費は「製造間接費」勘定へ振り替え、直接費と別であることががわかるよう仕訳をします。

勘定科目

借方

勘定科目

貸方

仕掛品

10,000,000

外注費用

10,000,000

仕掛品

製造間接費

1,200,000

800,000

労務費

2,000,000

仕掛品

製造間接費

250,000

250,000

経費

500,000

振り分けた製造間接費は、次の部門別原価計算で製品それぞれに配賦します。

ステップ2.部門別原価計算

部門別原価計算は、ステップ1で仕訳した間接費を部門ごとに配賦する工程です。製造間接費として仕訳した間接労務費と間接経費を、ライティング分(60%)とデザイン分(40%)にそれぞれ按分して原価計算表に記入します。

ここでライティングとデザインそれぞれの製造原価合計を出せるので、合計を計算し記入しましょう。

ライティング部門

デザイン部門

外注費用

6,000,000

4,000,000

直接労務費

720,000

480,000

直接経費

150,000

100,000

間接労務費

480,000

320,000

間接経費

150,000

100,000

製造原価

7,500,000

5,000,000

原価計算表では製品ごとに製造間接費を振り分けましたが、仕訳では、製造間接費は一度仕掛品にまとめます。仕掛品の金額が確定した段階でまとめて製品に分配するので、問題ありません。

勘定科目

借方

勘定科目

貸方

仕掛品

800,000

製造間接費

※間接労務費

800,000

仕掛品

250,000

製造間接費

※間接経費

250,000

※(借方)仕掛品1,050,000/(貸方)製造間接費 1,050,000のように製造間接費をまとめても可

ステップ3.プロジェクト別原価計算

最後に、プロジェクト別の原価計算を行います。

1.仕掛品勘定の合計を按分比率(60%:40%)に沿って、各部門ごとの製造原価に按分する

勘定科目

借方

勘定科目

貸方

ライティング部門

デザイン部門

7,500,000

5,000,000

仕掛品

11,450,000

2.各製品の原価と原価計算表の製造原価合計が合致することを確認する

ここで合計が一致しない場合は、仕訳や計算が間違っています。仕訳や計算から不一致の原因を見つけ、最終仕訳と原価計算表の製造原価合計を必ず一致させましょう。

管理会計目的の原価計算例

管理会計を目的として原価計算したい場合には、従業員が入力した工数データから、「どのプロジェクトにどの程度原価がかかっているのか」を可視化できるシステムを活用するのがおすすめです。

システムを使えば、リアルタイムでデータを確認できるため、担当者が計算することなく、プロジェクト型ビジネスの原価計算が行えます。

▼システムを使った原価計算のイメージ

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上記の画面では、システムによって集計した「工数」と、あらかじめ設定した従業員の「稼働単価」などを掛け合わせています。各プロジェクトで、原価がどれくらいかかっているかが一目で分析できるのです。

原価計算は、製造原価から利益を算出して終わりではありません。原価計算で算出した利益や費用が予算と比べてどうだったのかまで分析する必要があります。

  1. 正しい工数入力により正確な労務費や各種費用を算出する
  2. 算出した費用を用いて、原価を算出する
  3. 原価や各種費用、売上から利益を算出する
  4. 算出した原価、費用、利益が予算と比べてどうだったかを分析する
  5. 必要に応じて、プロジェクトの軌道修正や、次回以降の新規プロジェクトに今回のデータを活かす

予実管理を行うことで、売上・工数・原価・外注費・経費・利益(粗利)を定量的に管理することが可能です。

さらに、予実管理に特化したシステムを使えば、プロジェクト終了後の実績だけではなくプロジェクト進行中の進捗もリアルタイムで確認が可能です。

リアルタイムで状況把握することにより、最終的に赤字とならないよう即時に対応し、軌道修正できる利点があります。
プロジェクト型ビジネスにおける予実管理については、「プロジェクトの予実管理とは?手順4ステップと活用ツールを紹介」記事も合わせてお読みください。

業種による原価率の違い

原価計算は「利益を上げるため」に行います。適正に利益を上げるためには、正確な原価の算出だけでなく適正な「原価率」を知っておくことも欠かせません。

原価率とは、売上高における原価の割合です。売上原価を売上高で割って算出されます。

売上原価÷売上高×100

原価率は適正な原価を設定するために使用され、業種により異なります。以下の表は、経済産業省が2022年に発表した「企業活動基本調査確報(2021年度実績)」を参考にした、業種ごとの平均的な原価率です。

適正な原価率は、業種ごとに変わります。自社製品の原価率は平均に近いかどうか、下の表を使って一度確認してみましょう。下表より原価率が高い場合は、製造原価を下げられるポイントはないか、財務諸表を見て分析してみることをおすすめします。

業種名

原価率(単位:%)

※%の小数第2位四捨五入

製造業

79.4

情報通信業

70.0

ソフトウェア業

72.0

情報処理・提供サービス業

70.3

インターネット附随サービス業

39.0

卸売業

87.0

小売業

70.0

物品賃貸業

83.8

デザイン業

67.7

エンジニアリング業

86.0

広告業

81.4

飲食業

51.7

サービス業

72.7

※売上原価=売上高ー売上総利益で算出
※参考:企業活動基本調査確報(2021年度実績)|経済産業省

原価計算が難しいと感じたときに取るべき2つの対処法

ここまで内容をご覧になり「原価計算は難しい」「理解しづらい」と感じた方もいらっしゃるでしょう。

原価計算が自分でできない場合、2つの対処法が考えられます。原価計算ができるシステムを導入することと、税理士に依頼することです。

対処法①:自社の業種に対応した原価計算システムを導入する

原価計算が自動でできるシステムも存在します。各種費用を入力するだけで原価計算ができるシステムを導入すると、原価計算が容易になるでしょう。

例えば、プロジェクト型ビジネス(広告代理店や制作会社・コンサルティング業など)向けに提供されている原価管理システム「チムスピ工数」を利用すれば、どの作業にどのくらいの人数と時間を費やしたのか(=工数)という情報を取得・分析し、原価の把握や利益率の改善に役立てることができます。

▼工数入力のイメージ

kousu_nyuryoku.png

▼入力された工数をもとに原価が自動で算出されるイメージ

mm_jisseki.png

システムを活用することで、例えば以下のようなことが行えます。

  • メンバーごとの作業時間、作業内容を入力することで、工数を管理する
  • 勤怠との連携で、労働時間と工数を一致させる
  • 工数の入力漏れや数値の不整合・プロジェクトの赤字化を察知してアラートを出す
  • プロジェクトやタスクをランクごとに単価を設定する(アドオンが必要)
  • 作業メンバーごとに単価を設定し、プロジェクトの原価を計算する(アドオンが必要)

原価計算システムはたくさんあり、システムごとに得意な業種や扱う計算方法が存在します。

原価計算システムを導入する際は、自社ではどんな項目が必要か、自社の環境に合っているか、既存システムとの連携ができるといった観点で、自社に合ったシステムを選ぶことが大切です。

対処法②:原価計算の仕訳や計算が得意な税理士に相談する

原価計算に関する業務を得意とする税理士もいます。税理士に依頼することで、専門的な知識が必要な場合でも正確に原価計算を行えるでしょう。

社内で原価計算を適切に行えない、もしくは不安がある場合は検討したい方法です。

ただし税理士に依頼すると、顧問料だけでなく代行記帳料金や決算料が必要な場合があります。原価計算システムの導入より高くなってしまうかもしれない点に注意が必要です。

原価計算の効率化には工数管理ツールの活用がおすすめ

ここまで原価計算の計算式や計算方法、流れについて詳しく解説してきました。しかしながら「自社内でこれをミスなく計算するのは難しそうだ」と感じた方も多いのではないでしょうか。

原価計算を手作業やエクセルなどで行おうとしても、計算が複雑なので、どうしても計算ミスが起こりがちです。

ここからは、原価計算で計算の間違いが起こりやすい原因と、計算ミスを防ぎ原価計算を効率化するために工数管理ツールをおすすめする理由を解説します。

原価計算において間違いが起こりやすい原因

原価計算における計算間違いには、単純な計算ミス以外にも次のような原因が考えられます。

  • メンバー個々における時間単価の設定ミス
    (例:Aさんの時間単価5,000円なのに、4,000円で計算してしまった)
  • 正確な工数が把握できていない
    (例:AさんはXプロジェクトに10時間費やしたのに9.5時間で計算してしまった)

原価計算に間違いがあると、正しい原価管理が行えず、利益確保やコスト削減の支障となります。

このような間違いが起こらないようにするためには、ミスを回避できるシステム(=工数管理ツール)を導入するのがおすすめです。

原価計算において工数管理ツールの活用を推奨する理由

先述した原価計算の流れにおいて、正確な労務費の算出は欠かせません。手間をかけずに労務費を正確に算出するには、工数管理ツールを活用することがおすすめです。

工数管理ツールでは、メンバー個々の時間単価だけでなく個別のプロジェクト別工数も管理が可能です。入力した工数が自動的に反映されるので、リアルタイムで工数や労務費を可視化できます。

また、プロジェクト収支や原価計算機能を持つ工数管理ツールなら、労務費を基準にして原価や利益を算出する原価計算(財務会計目的)だけでなく、予実管理や予算策定で工数データを活用する管理会計目的でも活用可能です。

※工数管理ツールによって機能は異なります。

▼チームスピリットシリーズでの「工数管理」と「原価計算」のイメージ

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自社でどの工数管理ツールを選ぶべきかについては「工数管理ツールのおすすめ10選を一覧で比較|機能・費用・選び方も解説」にて詳しく解説しています。

まとめ|原価計算のやり方は業種や事業内容によって異なる

原価計算は、何にいくらかかったのかを計算し、目標原価を達成できていたか、どの費目がどれだけ増減したかを把握するために重要です。利益率の改善や経営判断に活用します。

原価計算を正しく行うには、そもそも何が原価になるのかや、それぞれの分類(直接費と間接費、固定費と変動費など)を理解しておかなくてはいけません。

またそれらによって、計算方法が異なる点にも注意が必要です。

原価計算が難しいと感じた場合は、原価管理システムを導入したり、専門家に相談したりすることもおすすめです。

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工数管理に課題を抱える企業様は多いものの、既存の方法を脱せず応急措置的な業務改善を繰り返しているケースが見受けられます。

ぜひ同様の課題を抱えていた他社事例を参考に、自社の抜本的な業務改善や正確な工数管理の実現の一助としてお役立てください。

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