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基礎知識

原価管理とは|目的や必要性・手順を具体例付きで解説

著者:チームスピリット編集部

原価管理とは、商品やサービスを提供する際の原価を正確に把握し、維持や見直しを行うことを指します。

  • 原価管理とは具体的に何をするのか、正しく行うことでどんなメリットがあるのかを確認したい
  • 実際に原価管理を行えるように、やり方や全体像を確認したい

このような方も多いのではないでしょうか。

原価管理は、家計に例えると「家計簿をしっかりと付け、支出の把握と見直しをすること」に近い考え方です

モノの製造やプロジェクトの完了までに、何にいくらの費用がかかっているのかを把握し見直すことで、利益率の改善策を考えられます。

本記事では、原価管理の必要性と、それを効果的に実行する手法について分かりやすく解説します。

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原価管理とは

原価管理とは、商品やサービスを提供する際の原価を正確に把握し、利益の最大化を図るための手法やプロセスを指します。

そもそも「原価」とは、製品やサービスを提供するために必要な費用のことを指します。詳しくは後述しますが、具体的には材料費、労務費、間接費などの合計額となります。

まずは原価管理についてイメージしていただくために、簡単な具体例から説明していきます。

ホームページ制作業における原価管理の具体例

最初にBtoBの原価管理例について説明します。

例えばホームページ制作会社が企業のホームページ制作を行う場合にかかる主な原価は、人件費とソフト・サーバー費用です。

直接労務費

直接経費

人件費

・開発ソフト代

・直接経費

人件費は「各メンバーの工数単価×稼働時間」の合計で算出します。ここでは、プロジェクトマネージャー、プログラマー、デザイナーの人件費が合計で100万円だったとします。

さらに開発ソフトとサーバー費用で20万円だとした場合、合計原価は120万円となります。

※人件費の部分を直接労務費といい開発ソフトとサーバー費用のことを直接経費といいます。

このように原価を算出することができれば、

  • 得たい利益を確保できるように販売価格を調整する
  • 基準となる原価を上回っていないかを確認しながらプロジェクトを進める

といったことができるようになり、結果として適切な利益率の維持、もしくは改善が期待できます。

飲食業における商品の原価管理の具体例

次に、BtoCの原価管理の例を簡単に説明します。

例えばカフェを経営しているとします。そのカフェで人気の「キャラメルマキアート」を1杯作るのに必要な原価がエスプレッソが50円、ミルクが30円、キャラメルシロップが20円だとすると、原価の合計(直接材料費)は100円です。

原価合計がわかれば、商品の価格をいくらに設定すれば、利益を確保できるかという判断が行えます。

ただし厳密にいうと、ホームページ制作やキャラメルマキアートの原価は今説明した直接費(直接材料費、直接労務費、直接経費)だけではありません。

なぜなら、他にも間接費と呼ばれる費用が原価の中には含まれるからです。

それでは次に間接費を含めた原価の種類について詳しく解説します。

そもそも原価とは?原価の3つの種類

原価の種類は、主に材料費労務費、経費の3つに分けられます。

さらに、材料費は直接材料費間接材料費に、労務費は直接労務費間接労務費に、経費は直接経費間接経費に分かれます。

材料費

直接材料費

材料費、買入部品費など

間接材料費

補助材料費、(工場)消耗品費、消耗工具(器具)備品費など

労務費

直接労務費

直接的に製造に関与した労働者への賃金など

間接労務費

間接的な作業に対する賃金、給料、退職給与引当金、福利厚生費、法定福利費など

経費

直接経費

外注加工費など

間接経費

光熱費、通信費、租税公課、旅費交通費など

以下にわかりやすいようにコーヒー店の原価を例に挙げて表にまとめました。

直接費

間接費

材料費

製品の製造に直接使用した原材料

例:コーヒ豆、ミルク、シロップ、水など

製品を製造する過程で使われるが、特定の製品や作業に直接的に割り当てるのが難しい材料のコスト
例:紙コップ、ストローなど

労務費

製造作業に関わった人件費など

例:実際にコーヒーを入れる従業員の給与など

直接は製品の製造に関わっていない従業員の人件費など

例:監督者やマネージャーの給与など

経費

製品を作るために直接的に関わる経費(直接材料費と直接労務費に該当しないもの)

例:器具の減価償却費など

特定製品への使用を明確にするのが難しい経費

例:電気代、ガス代、保険料など

直接費は販売している商品そのものに関わる原価であり、間接費は製品そのものに直接関わらないものの、商品を販売する上で必要不可欠な原価ということができます。

原価管理を行う際は、このように自社の製品を販売するうえで何が原価になるのかを正しく把握しておかなくてはいけません。

原価管理の目的と重要性

原価管理は大きく分けて「財務会計」と「管理会計」を目的に行われます。

財務会計目的で行われる原価管理

・財務諸表の作成や、税金の算出のために必須で行う

・社外に報告するために行うため、「正確性」が求められる

管理会計目的で行われる原価管理

・マネジメント(利益率の把握や赤字回避)、経営戦略の策定のために行う

・社内での利益確保・コストの見直しなどのために行うため、「リアルタイム性」が求められる

財務諸表の作成や、税金の算出のため(財務会計目的)

財務諸表を作成したり税金を算出したりするために、どの企業も必須で行わなければいけません。

財務諸表は、貸借対照表、損益計算書、製造原価明細書からなる、企業の利害関係者に向けて財政状態を公表するための書類です。

これら財務諸表作成のために、原価を正しく把握する必要があります。

原価の把握や利益率の改善・経営計画策定のため(管理会計目的)

もう一つの目的は、コストを正しく把握すること、さらにはコストを削減し利益率を向上させることにあります。

例えば、先ほどのカフェの例ではキャラメルマキアートの原価は直接材料費しか含まれていませんでした。

しかし実際には、従業員やテナント代、光熱費などの間接費も原価に含まれます。間接費も考慮しなければ、適正な販売価格を決定できません。

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原価管理を適切に行わずに販売価格を設定した場合、利益を確保できず赤字経営に傾いてしまう危険性や競争力が低下してしまう可能性もあります。

また製造業以外のプロジェクト型ビジネス(制作や開発・コンサルティングなど、労務費が原価の大部分を占める業種)においては、原価をリアルタイムで算出する必要があります。複数プロジェクト、複数メンバーが稼働している状態で原価管理をせずに進めていると「気付いた時には既に赤字だった」という事態に陥ってしまう可能性があります。

このような赤字プロジェクトを回避するためにも、リアルタイムでの原価管理が重要になります。

原価計算や予算管理・予実管理との違い

原価管理とよく似た意味を持つ単語として「原価計算」「予算管理・予実管理」があります。これらの違いを見ていきましょう。

▼予算管理・予実管理と原価管理、原価計算の関係

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原価計算と原価管理の違い

原価計算は、ある製品やプロジェクトの完成までにかかったコストを計算する業務です。企業のホームページを作成した場合は、ホームページ作成にかかった費用を計算します。カフェでキャラメルマキアートを提供する場合は、キャラメルマキアートを作って販売するまでにかかった費用となります。

一方で原価管理は、原価計算で算出したコストを元に、コスト削減や利益率の増加に向けた各種改善を行う業務です。原価計算の結果をもとに、適切な予算の設定も行います。

以上の関係から、原価計算は原価管理に含まれる業務ともいえます。

予算管理・予実管理と原価管理の違い

予算管理は、企業の数値目標となる「予算」を管理する業務です。これには各製品やプロジェクトの予算管理だけでなく、予算の配分も含まれます。単一の製品・プロジェクトだけでなく、会社全体の予算を俯瞰的に見て管理する業務です。

また予実管理は、製品やプロジェクトの「予算と実績」を合わせて管理する業務です。

  • 予算:事前に見積もった原価や経費・売上など
  • 実績:実際にかかった原価や経費・実際に発生した売上など

これらの情報を比較し、プロジェクトや製造が計画通りに行われているかどうかを確認し、必要に応じて軌道修正することが「予実管理」です。

原価管理は、ある製品やプロジェクトの完成までにかかったコストを管理する業務です。予算に対するコストの実績を管理する業務であるため、予実管理の一部に含まれます。

予実管理については、プロジェクトの予実管理とは?手順4ステップと活用ツールを紹介の記事にて詳しく解説しています。

原価管理を行う3つのメリット

以下に原価管理を行うことで得られる3つのメリットについて解説します。

メリット1:損益分岐点を把握することができる

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損益分岐点とは、売上高と費用の額がちょうど同じになるポイントのことをいいます。

損益分岐点では、利益も損失も出ていない「利益ゼロ」の状態になります。

例えば上記の画像の場合、テナント代や光熱費などの固定費に加えて変動費(仕入代など)などが積み重なると、費用のラインが上がり、損益分岐点が高くなります(この状態から利益を出すためには、より大きな売上が必要になります)。

原価管理を行うことで、何にいくらかかっているのかを整理することができます。、これにより損益分岐点を把握し、より具体的な原価目標を立てやすくなります。原価管理は企業が収益をあげるために必要な手段の一つといえるでしょう。

メリット2:利益率の改善策を考えられる

原価管理を適切に行うことで、原価が実際にどれだけかかっているかを正確に把握でき、利益率を向上させるための施策を考えられます。

例えばコーヒー1杯の販売価格が500円で、その原価(豆、水、電気、カップなど)が300円だとすると、コーヒー1杯あたりの利益は200円となります。しかし原価管理を行ったところ、原価の内、コーヒーを販売するためのカップが占める割合が大きいことが判明したとします。

その対策として、顧客に再利用カップの使用促進やマグカップを使ってもらうなどの手段を取ることで、利益率の向上を図れるでしょう。

また、戦争や災害などの影響で光熱費価格が上昇しているような場合、原価が上昇する可能性が高いため、適切に上昇分のコストを把握し、販売価格に反映する必要性があります。

メリット3:適切なコスト削減ができる

原価管理を行うことにより適切なコスト削減ができます。そして結果的に、販売価格を下げたり、利益率を上昇させられる可能性があります。

緻密な原価管理を行えば、必要以上にコストが掛かっているのはどの部分かが可視化できます。コストが多く掛かっている部分を見つけることでどこのコストを削減できるか検討できるようになります。コスト削減を適切に行うと原価を抑えられるため、利益率の上昇が期待できます。利益を多く出すことができれば、値下げによるユーザーへの還元や、ユーザーニーズに応えた別製品の開発、業務拡大など企業活動の幅を広げられるでしょう。

このように原価管理を適切に行うと、コスト削減はもちろん利益率の向上、企業活動の広がりにも寄与できる可能性があります。

企業の経営活動においては、水道光熱費や通信費、事務担当職員の給与など製品やプロジェクトに直接関係ないコストも管理する必要があります。原価管理で適切なコスト削減を行うには、原価以外のコストを管理する「コスト管理」も欠かせません。コスト管理については、「コスト管理とは?手法や管理すべきコストの種類などを解説」記事も合わせてお読みください。

原価管理のポイントを業種別に解説

原価管理は業種によってかかるコストの種類や性質が異なります。そのため、原価管理で重視するポイントも業種によって異なってきます。

ここでは、製造業・小売業・プロジェクト型ビジネスの3業種について、原価管理のポイントを解説していきます。

製造業の原価管理のポイント

製造業は、1から原材料や部品を加工・組み立てて製品を生産する業種です。

製造業の原価管理において、特に重要なポイントは、「間接費の適切な配分」です。

間接費は製品ごとに明確には分けられないため、適切な配分方法を考える必要があります。間違った配分は製品の原価を歪め、誤った判断を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

例えば、自動車メーカーが「高級車A」と「一般車B」を製造しているとします。「高級車A」は高性能で製造が複雑であるため製造に時間がかかる一方で「一般車B」はシンプルな設計であるため迅速に製造可能だとします。

これらを考慮せずに間接費(現場に関わっていないマネージャーの労務費など)を、仮に生産時間に応じて均等に配分するとどうなるでしょうか。「A車」の間接費が過大に計上され、「B車」の間接費は過小に計上されることになります。その結果「高級車A」は実際の利益よりも少ないと誤認され、経営戦略や投資判断に影響を及ぼす可能性があります。

正確な間接費の配分は、製造業における経営判断の基盤となるため、非常に重要です。適切な配分方法を採用することで、企業はより正確な経営判断を下すことができます。

小売業の原価管理のポイント

小売業は製造業で完成した商品を仕入れて販売するスーパーマーケットやコンビニエンスストア、家電量販店などが該当します。

小売業の原価管理上のポイントは2つあります。

在庫リスクがある

小売業は商品を仕入れて販売することが主であるため、在庫を持つことが一般的であり、その在庫のコストが利益を大きく左右します。

例えばスーパーマーケットが過剰に野菜を仕入れて売れ残りが発生し、このロスが原価を上昇させるといったことが考えられます。

このような在庫リスクを無くすためには 需要予測を基に、適切な量・時期での仕入れを行うことで在庫コストやロスを最小化する必要があります。

シーズンやトレンドの影響を受けやすい

小売業は流行の影響を受けやすいジャンルもあるため、そのトレンドが一過性であった場合や予想以上に市場が飽和してしまった場合には、商品が売れ残るリスクが生じます。

例えば、スマートフォンやタブレットなどの電子製品は比較的短いサイクルで新製品が登場します。特定のモデルを大量に仕入れた後すぐに新しいモデルや機能が登場した場合、旧モデルの需要が急激に低下し、在庫リスクが生じる可能性があります。

このようなリスクを最小限にするために小売業は、需要を高度に分析して仕入れを行う必要があることが分かります。

プロジェクト型ビジネス業の原価管理のポイント

プロジェクト型ビジネスは、顧客から特定の案件などを請け負い、社内やパートナー企業の人材を割り当て、受注した案件を遂行する業種です。システムやアプリなどのサービス開発などを行うIT業や、広告代理事業などが挙げられます。プロジェクト型ビジネスにおける原価は、システム開発を行うエンジニアや、プロジェクトを進めるメンバーの労務費(人件費)が主となります。

プロジェクト型ビジネスにおける原価管理のポイントを2点解説します。

工数管理を適切に行う必要がある

プロジェクト型ビジネスでは前述の通り、プロジェクトメンバーの稼働に応じて原価が決まるケースが多いです。

そのため、日ごろから工数管理を行い「誰が」「何に」「どれくらいの時間をかけたのか」をリアルタイムで把握することが重要です。

例えば月給40万円の社員が3人月で終えられるプロジェクトにアサインする場合、原価は人件費だけで120万円かかる計算になります。すると見積もりは最低でも120万円以上の金額を提示しなければ、原価が売上を上回ってしまうことになります。また、3人月で終わる見込みがそれ以上時間が掛かることも想定されます。工数管理を適切に行うことで、必要以上に工数が掛かった場合の対策を講じることも可能です。

工数管理を適切に行うには、各タスクの工数を入力するための環境作りや、工数実績を分かりやすく可視化して分析できるツールなどを活用することがおすすめです。

工数管理ツールについての詳細を知りたい場合は、こちらの記事もあわせて参照してください。

工数管理ツールおすすめ10選を一覧で比較|機能・費用・選び方も解説

学習コストがかかる

新しいプロジェクトに向けてこれまでとは違うプログラミング言語やツールが必要となる場合、新しい人材を雇うか、既存の従業員に学習してもらうためのコストがかかります。

また学習初期には、新しいプログラミング言語の利用に慣れるまでの間、生産性が一時的に低下する可能性や誤解や知識の不足からミスが発生するリスクも高まります。

この分の追加コストも原価として考える必要があります。

プロジェクト型ビジネスにおける原価管理については、「プロジェクト原価管理とは?管理の流れや計算方法を解説」の記事で詳しく解説しています。

【製造業の場合】原価管理を行う大まかな手順

ここからは、実際に原価管理を行う手順(生産プロセスの効率化やコスト削減などを目的とする)を見ていきましょう。製造業の場合、原価管理は主に次の手順で行います。

製造業の原価計算の手順

  1. 標準原価計算で理想の予算を算出する
  2. 実際原価計算で実際にかかった原価を算出する
  3. 差異分析で増減分のコストを分析し、問題点を改善する

つまり、あらかじめ目安となる原価を決めておき、実際にかかった原価を正しく把握したうえで、それらを比較する、という手順を踏みます。

その結果、目安と実績の差を比較し、差が出た理由を分析することで、ボトルネックの特定や改善策の立案などが行えるようになります。

次からは、具体的な手順について解説していきます。

1.標準原価計算で理想の予算を算出

原価計算の最初のステップでは、標準原価(理想のコスト)がいくらになるかを計算します。

標準原価計算とは、生産コストをあらかじめ設定した標準(理想)のコストに基づいて計算する方法です。

例えば、1つの製品を作るのに以下の原価がかかるとします。

直接材料費

単価(1kgあたり)150円の材料が2,000kg必要

→150円×2,000kg=300,000円

直接労務費

・従業員の時給が1,500円

・労働時間が合計100時間必要

→1,500円×100時間=150,000円

製造間接費

・電気代が1時間500円

・機械の維持費が1時間300円

・管理費が1時間200円

・かかる時間が100時間

→(500円+300円+200円)×100時間=100,000円

すると標準原価は、それぞれの合計で550,000円となります

このように、標準原価計算を行うには、直接材料費・直接労務費・製造間接費の3つの標準原価を、過去の実績データや業界の標準・専門家の意見などを参考に決めます。そして、最後にそれらの3つを合計して、製品1個あたりの標準原価を計算します。

すると、次のステップで行う「実際原価」が550,000円と比べてどのような費用になるかを確認することで、目標原価が達成できたかどうかや、目標原価を達成するためにどの部分を改善したらよいかを考えられます。

2.実際原価計算で実際の原価を算出

次のステップでは、実際に「いくらのコストがかかったか」を計算し、標準原価との差分を確認するための準備をしていきます。

実際原価計算とは、実際に発生したコストを元に製品の原価を計算する方法を指します

例えば、1つの製品を作るにあたって、実際に以下の原価がかかったとします。実際原価と標準原価との違いは、下表のとおりです。

実際にかかった原価

標準原価

直接材料費

材料の価格の変動などで320,000円かかった

300,000円

直接労務費

通常よりも早く製品が完成し、140,000円しかかからなかった

150,000円

製造間接費

通常よりも早く製品が完成し、80,000円しかかからなかった

100,000円

合計

540,000円

550,000円

計算により、実際原価は合計540,000円かかったことが分かりました。

3.差異分析で増減分のコストを分析し、問題点を改善する

標準原価計算と実際原価計算の間には差異が生まれます。

先ほどの例では、標準原価と実際原価との間に10,000円差異が発生しました。この差異の原因を分析することで、生産活動の効率や原価管理の状況を評価し、改善することができるようになります。

実際にかかった原価

標準原価

直接材料費

320,000円

300,000円

直接労務費

140,000円

150,000円

製造間接費

80,000円

100,000円

合計

540,000円

550,000円

ここからは、標準原価と実際原価の差異を理解するため、直接材料費・直接労務費・直接経費それぞれの差異を確認していきます。

3-1:直接材料費の差異を分析する

実際にかかった原価

標準原価

直接材料費

320,000円

300,000円

直接材料費に差異が出た場合は、主に以下の要素を確認します。

  • 価格
  • 消費量

例えば、仕入先との交渉がうまくいかない場合や為替レートの変動などにより、価格が上昇又は下落することが考えられます。

また、デザインの変更や製造過程でのロスが発生し、実際にはもっと多くの材料が必要になった場合などは、その分材料の消費量が増えるため、直接材料費が高くなってしまいます。

3-2:労務費の差異を分析する

実際にかかった原価

標準原価

直接労務費

140,000円

150,000円

直接材料費に差異が出た場合は、主に以下の要素を確認します。

  • 賃率
  • 作業時間

例えば、労働者全員が一律の時給ではないため、賃率改定や残業代の支給などによって実際賃率は変動することがあります。ある労働者が病気で休み、その分の人件費が発生しなかった、もしくは他の労働者が効率よく作業を進めて時間を短縮した結果、労務コストが節約されることもあります。

また、新人とベテランでは同じ業務を行うにしてもかかる時間が異なりますし、人的要因以外にも機械の故障による時間ロスが起こった場合などは、直接労務費が余分にかかってしまうこともあります。

3-3:間接費の差異を分析する

実際にかかった原価

標準原価

製造間接費

80,000円

100,000円

製造間接費に差異が出た場合は、主に以下の要素を確認します。

  • 予算
  • 操業度

経営計画などで事前に設定した間接費の予算と、実際にかかった間接費の金額に差が出ることがあります。

例えば月々の事務所の光熱費(電気・水道・ガスなど)の予算を10万円と設定したが実際には月の光熱費が8万円だった場合は、2万円のコストがかからなかったこととなります。

この予算差異をチェックすることで、間接費が計画より多くかかっているのか、それとも節約できているのかを知ることができます。そして、その原因を探求し、今後の経営改善の手がかりとすることが可能です。

次に「操業度」とは、生産・販売可能な規模や能力に対する、実際の利用割合のことを指します。

例えば、ある工場では製品を月間1,000個製造できるとします。そして固定製造間接費(機械の維持費や管理費など)の標準額が100,000円とされている場合、単位あたりの固定経費は100,000円÷1,000単位= 100円となります。

ここで、ある月に工場が実際に生産した量が900個(操業度90%)だった場合を考えてみます。

「900個(実際の生産量)−1,000個(標準操業度)」×100円/単位=−10,000円となり、これは不利な操業度差異が生じたことになります。

よりわかりやすく説明すると、本来1,000個作れたところ900個しか作らなかったため、固定経費の1単位あたりのコストが予想よりも高くなったということです。

このような操業度差異は、生産スケジュールの遅延、機械の故障、原材料の供給不足など、生産活動に関連するさまざまな要因によって生じることがあります。

標準原価とは事前に設定された予測値であり、実際原価は実際の生産活動を通じて発生したコストです。

両者の間の差異は、価格変動、生産効率、突発的な出来事など、さまざまな要因によって生じることがわかります。この差異を分析することで生産プロセスの効率化やコスト削減の方向性を見つけ出し、改善案を考えることができます。

【プロジェクト型ビジネスの場合】原価管理を行う大まかな手順

続いては、プロジェクト型ビジネスにおける、原価管理(赤字プロジェクトを防ぐことを目的とする)の手順を解説していきます。

赤字プロジェクトを防ぐためには、リアルタイムで原価を算出し数値が適切であることを確認する作業が必要です。そのためには、以下の流れで原価管理を実施します。

プロジェクト型ビジネスの原価計算の手順

  1. 標準原価を設定する
  2. 各従業員がプロジェクトに対する工数(作業時間)を報告・入力する
  3. プロジェクトごとの実際原価を算出する
  4. 予算差異の分析を行い、問題点を改善する

1.標準原価を設定する

最初に「標準原価」を設定します。標準原価とは事前に想定した原価で、いわば「予算」となる価格です。標準原価を設定するには、過去のデータや実際支払う給与をベースに、プロジェクトごとに必要な外注費・労務費・経費を予測します。

ここでの外注費や労務費は、従業員の工数に従業員ごとに定められた「標準賃率」を掛けた数値です。例えば、1時間あたり2,000円の標準賃率で、プロジェクトに10時間携わる予定の社員がいたとしましょう。この場合、工数10時間 × 標準賃率 2,000円 = 20,000円 が、標準原価のベースとなる労務費です。

2.各従業員がプロジェクトに対する工数(作業時間)を報告・入力する

プロジェクトが開始したら、作業の工数を集計します。日々の業務にかかった工数を適切に取得できれば、プロジェクト原価の大部分を占める「労務費」を正確に把握できます。

工数管理システムなどを用いて、可能な限り正確なデータを取ることが重要です。

▼稼働時間をもとに工数管理を行う画面のイメージ

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システムを活用し工数を把握できれば、以下のようなことが行えるようになります。

  • 進行中のプロジェクトが赤字になるのを事前に察知し、対策を打てる
  • 過去実績を踏まえた見積もりを作成する

3.プロジェクトごとの実際原価を算出する

プロジェクトの実績をもとに、実際原価を算出する工程です。各従業員から報告された工数と稼働単価を掛けて、労務費を算出します。

併せて、外注費やその他経費も含めたプロジェクトごとの費用を求め、実際かかった原価=実際原価を算出しましょう。

なお実際原価計算は、入力されている工数データを活用しリアルタイムで実施します。後からまとめて計算すると、予想以上にコストが掛かっていたことが判明し、結果赤字プロジェクトが発生するなど取り返しのつかない事態を招きかねないからです。

実際原価計算を活用してコストの削減と利益率の向上を図るには、日々正確に工数を入力してもらい、工数データに基づいたコストをタイムリーにリアルタイムで確認していくことが必須となります。

4.予算差異の分析を行い、問題点を改善する

最後に、プロジェクトごとに予算差異の分析を行います。

原価管理においては、予算である標準原価と実際原価が異なる場合が多くあります。標準原価と実際原価との差異を求め、その理由を分析することを「予算差異の分析」と言います。

▼予算差異の分析のイメージ

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プロジェクト原価管理は、標準原価の設定や実際原価の算出だけではありません。なぜ予算と実績が違ったのか、特に予算をオーバーした場合はどうすれば改善できるかを検討し、実践することが重要ポイントとなります。例えば次のような改善方法が考えられます。

▼原価差異に対する対策の一例

原価の種類

差異に対する対策

直接労務費の差異

  • 工数管理により、何にどれだけ時間をかけているのか「見える化」する
  • 業務改善を図り、作業効率や生産性を向上させる
  • 社員教育を実施し、スキルの向上を図る

直接経費の差異

  • 水道光熱費や通信費の削減を検討する
  • 消耗品の使用を抑える
  • 古い設備を新しい設備に変え、ランニングコストの減少を図る

実際原価が標準原価より低かった場合は、次回以降は想定人員や工数などを減らし、実情に合わせた標準原価を設定します。

原価管理を適切に実践する方法3選|おすすめ原価管理システムも紹介

原価管理を実際に実践するための方法について以下に解説します。

なお、原価管理を行う際は、まず目的や目標を明確にしておきましょう。

例えば、材料費削減が目的であれば会計部または経理部などが材料のコスト構造を分析し、原価の振り分けや計算を行うといった対策が考えられます。一方、労務費の削減が目的であれば、人事部が業務のプロセスを見直したり、研修や教育を強化することで生産性の向上を図るなどの対策ができます。

そのうえで、以下のような手段で原価管理を行います。

方法1:外部の専門家やコンサルタントの雇用

原価管理が容易な業種の場合には、社内の人材で対応が可能な場合もあるかもしれません。

しかし製造業などの場合は専門的な知識が必要になりますし、業務過多で原価管理まで対応できないといったことも考えられます。

そのような場合には原価管理の専門家やコンサルタントを一時的に雇用して、現状の分析や改善策をアドバイスしてもらうという方法もあります。

方法2:原価管理のエクセルを導入して管理する

原価管理が比較的容易な業種であれば、エクセルで管理する方法もあります。

例えば以下のようなサービスを活用することで、あらかじめ簡単な枠組みなどが記入された、エクセルのテンプレートをダウンロードできます。

「原価」の書式テンプレート|bizocean

ただし、それぞれの原価を正確に把握した上で入力しなければ意味がないため、一般的には「外部の専門家やコンサルタントの雇用」を行って管理するほうが現実的です。エクセルでの管理は、あくまで「原価の把握が容易な製造業以外の業種」向けの方法である点に注意してください。

方法3:原価管理システムを導入して分析する

原価管理を行う時間や人材が足りない場合は、原価管理システムを導入するという選択肢もあります。従来エクセルで管理していて、原価計算を「見える化」するためにシステムに切り替える企業も多いです。

原価管理システムとは、原価計算や差異分析・損益の分析などを効率的に行うためのシステムです。例えば以下のようなことが行えます。

  • 原価計算業務を効率化する
  • 実際原価をデータベース化し、分析に活用する
  • 原価計算の仕訳を自動化する
  • 間接費の配分を「見える化」する

製造業・流通業に適した原価管理システムの例

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※引用:FutureStage|株式会社日立システムズ

FutureStageは、株式会社日立システムズが提供している原価管理システムです。「製造業向け」「卸売業向け」「小売業向け」などのパッケージが用意されており、売上や生産にかかった工数・在庫・仕入・債権・債務情報などをタイムリーに把握することができます。

製造業向けの製品であれば、例えば以下のようなことが行えます。

  • 未来在庫の把握と最適在庫のコントロール
  • 生産進捗の管理
  • 総合原価計算による製品、ロット別の原価把握
  • 製番管理による個別部品表の管理
  • 製番に紐づく手配と進捗の管理
  • 個別原価計算方式での製番毎の正確な原価把握 など

プロジェクト型ビジネスに適した原価管理システムの例

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※引用:チムスピ工数 | チームスピリット

チムスピ工数は、株式会社チームスピリットが提供する原価管理システム(工数管理システム)です。

主にIT業やプロジェクト型ビジネス(広告代理店や制作会社・コンサルティング業など)を展開している企業が、プロジェクトにかかった人件費などの原価を正しく管理するためのシステムです。

どの作業にどのくらいの人数と時間を費やしたのか(=工数)という情報を取得・分析し、見積もりの作成や予算差異の分析を行い、利益率の改善に役立てることができます。

▼予算差異分析のイメージ図

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例えば以下のようなことが行えます。

  • メンバーごとの作業時間、作業内容を入力することで、工数を管理する
  • 勤怠との連携で、労働時間と工数を一致させる
  • 工数の入力漏れや数値の不整合・プロジェクトの赤字化を察知してアラートを出す
  • 工数や単価をベースに原価を自動的に算出、リアルタイムでの予実管理を実施する
  • プロジェクトやタスクをランクごとに単価を設定する(アドオンが必要)
  • 作業メンバーごとに単価を設定し、プロジェクトの原価を計算する(アドオンが必要)

▼工数入力画面例

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▼労務費と経費の予実管理の例

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上記の機能により、プロジェクトの⼯数実績を「見える化」し、原価計算や管理、利益率の改善施策に取り組むことができます。

まとめ|原価管理は個々の事業や業種に適した方法を採用することが重要

原価管理は、商品やサービスを提供する際の原価を正確に把握・見直しを行うための手法です。原価管理を正しく行うことで、何にいくらの費用がかかっているのかを把握し、利益率を改善できる可能性があります。

製造業の原価計算の手順

  1. 標準原価計算で理想の予算を算出する
  2. 実際原価計算で実際にかかった原価を算出する
  3. 差異分析で増減分のコストを分析し、問題点を改善する

プロジェクト型ビジネスの原価計算の手順

  1. 標準原価を設定する
  2. 各従業員がプロジェクトに対する工数(作業時間)を報告・入力する
  3. プロジェクトごとの実際原価を算出する
  4. 予算差異の分析を行い、問題点を改善する

つまり、あらかじめ目安となる原価を決めておき、実際にかかった原価を正しく把握したうえで、それらを比較し必要に応じて改善する、という手順を踏みます。

原価管理を正しく行うには、専門知識や複雑な計算が必要になることも多いです。そのため、外部の専門家やコンサルタントに頼ったり、自社事業に適した原価管理システムを活用することが一般的です。

【アナログ的な管理方法を脱却】
工数管理ツールを検討する際のポイントとは?

  • 毎日の工数管理が従業員の負荷を高めて習慣化しない
  • アナログな管理方法で精緻な原価管理の可視化ができていない
  • リアルタイムにプロジェクトの予実管理ができず利益率が下がっている

アンケート対象の約7割がツールによる工数管理をしていると回答した中で、その満足は8割越えと驚異の数値となりました。

他社事例をもとにツール導入による利便性や具体的な運用方法までご紹介しておりますので、導入検討中のご担当者様は是非ご一読くださいませ。

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