ワークシェアリングが求められる背景とは
なぜ、ワークシェアリングが求められるようになったのか、時代の背景を紹介します。
ワークシェアリングの概要も解説するので、どのような制度なのか理解を深めましょう。
ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、多くの従業員間で仕事をシェア、分担し、ひとり当たりの負担を軽減する手法です。「ワーキングシェア」と呼ばれることも多く、雇用の安定にもつながるとして注目されました。
加えて、属人性からの脱却やゼネラリストの育成にも適した方法ともいわれています。ひとり当たりの賃金が下がるものの、雇用が守られることで安定した収入が得やすく、新たな雇用の創出も可能になります。
ワークシェアリングが求められる背景
ワークシェアリングが求められるようになった背景として下記が挙げられます。
・不景気
・働き方改革の推進
・副業の普及
・ジョブ型雇用の増加
・ワークライフバランスの見直し
・リモートワークの増加
海外で10年以上前に提唱された働き方ですが、日本で話題になったのはここ数年の話であり、まだまだ浸透しきっているとはいえません。
従来は業務効率を重視して、ひとりの従業員にひとつの仕事を任せるのが良いとされていました。しかし、そうすると業務が属人化しやすく、担当者の異動や離職などにより途端に業務が停滞する現象に悩まされる企業が増加しました。
少子高齢化による労働人口不足の影響を受け「人を雇いたいと思ったタイミングで雇えない」「ノウハウを共有できる同僚がいない」などの課題も生じています。
こうした背景に対し効果があるとされたのがワークシェアリングであり、複数人で同じ業務を担当することで属人化から脱却できるようになりました。
また、ひとり当たりの負担が減ることでワークライフバランスの充実が図れること、近年増加しているリモートワークとも相性が良いことなどもメリットとされています。副業やジョブ型雇用ニーズの拡大なども、ワークシェアリング浸透の後押しとなりました。
ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングには、「雇用維持型」「雇用創出型」「緊急対応型」「多様就業型」の4種類が存在します。
それぞれで性質が異なるので、まずは自社にどのタイプが合うか検討してみてください。
雇用維持型
雇用維持型は、中高年者、育児や介護の担い手などの雇用維持を目的に、ひとり当たりの労働時間を削る方法です。比較的短時間でも働きやすいので、退職者の再雇用にも向いています。
採用できる層が幅広くなるため、人材が慢性的に不足している企業におすすめの手法といえます。雇用人数は増えつつも、短時間ずつ複数人に働いてもらえるので、マンパワーを確保しやすくなるのがメリットです。
雇用創出型
雇用創出型とは、求職者に新たな雇用を提供する方法です。フルタイムよりもパートタイムなど勤務時間が短い層に対して導入することが多い傾向があります。「長時間は働けないけれど収入が欲しい」「余暇を使ってやりがいを感じる仕事がしたい」という人などを採用しやすくなります。
人材不足の企業に向いている点では、雇用維持型と似ています。雇用創出型は、公共事業など国や市区町村が主導する事業で導入されることが多いのが特徴です。
緊急対応型
緊急対応型とは、自社内でリストラなどの可能性が高まったときに実施する方法です。ひとり当たりの労働時間を一時的に減らすため、支払える給与額も下がってしまいますが、雇用を維持できるので従業員を急な失業から守ることができます。
シフトの短縮、休日の増加などわかりやすいワークシェアリングの形もあれば、工場の稼働時間を短縮するなどして調整することもあります。
多様就業型
多様就業型とは、社内の勤務形態を複数用意してさまざまな人材に就労機会を与える方法です。具体的には、リモートワーク、フレックスタイム制度、サテライトオフィス勤務、モバイルワーク、時短勤務などが挙げられます。
多様な働き方を応援できる、時代のニーズに合った施策でもあり、従来の勤務形態では就労できなかった人を雇用できるチャンスが広がります。
企業と従業員におけるメリット・デメリット
ワークシェアリングには、メリットだけでなくデメリットも存在します。
施策を成功させるためには、メリットとデメリットのどちらも正しく認識することが重要です。
ワークシェアリングのメリット
まずは、ワークシェアリングのメリットを解説します。企業側と従業員側それぞれに分けてチェックしてみましょう。
企業
企業側の主なメリットは、下記のとおりです。
・人件費の配分を変えられ、減らすことができる
・業績悪化に対応できる
・長時間労働などの職場環境を改善できる
・ジョブ型雇用やリモートワークも行いやすくなる
ワークシェアリングにより人件費の配分を変えることができれば、人件費そのものを減らすことにつながります。そのため業績悪化にも対応しやすく、不必要なリストラや雇い止め、雇い控えを防ぐ効果を得られます。
また、長時間労働や業務過多などの職場環境を改善しやすいことや、リモートワークなど新しい働き方を導入しやすくなることも大きなメリットです。優秀な人材を安定して雇用できるため、人材の流出予防にもつながります。
従業員
従業員のメリットは、下記のとおりです。
・解雇のストレスを免れる
・ワークライフバランスの維持ができるようになる
・働く場所を増やすことができる
ワークシェアリングで労働時間にゆとりが生まれれば、ワークライフバランスが充実します。プライベートを充実させられるだけではなく、副業を開始して副収入を得られたり、リスキリングによるスキルアップを期待できたりします。
企業の業績が悪化しても急なリストラに遭うことが減るので、雇用を安定させるメリットがあるのも特徴です。働く選択肢が増えるという点でもワークシェアリングには大きな意義があるといえるでしょう。
ワークシェアリングのデメリット
ワークシェアリングにはデメリットもあります。あらかじめ把握しておくことで、ある程度対処できるデメリットも少なくありません。
企業
企業側のデメリットは、下記のとおりです。
・制度変更にコストや手間、時間が必要となる
・雇用人員増加の場合、関連コストは上昇する
・ワークシェア対象外の職種との格差に配慮が必要
ワークシェアリングの導入には社内ルールの見直しや規程の変更が必須であり、準備には多くの手間や時間がかかります。ひとり当たりの労働時間を減らして、雇用人数を増やすのであれば、労務管理の手間が増加するため注意が必要です。
また、スムーズな入社手続きや適材適所でのタレントマネジメントができないと、期待通りの効果が発揮されません。ワークシェアリングに適さない職種との間に格差も生じやすく、従業員の不満につながるおそれもあります。
格差が生じないように、各従業員が不公平さを感じないように、導入前にヒアリングを徹底するなどの配慮が必要です。
従業員
従業員側のデメリットは、下記のとおりです。
・勤務時間が短くなって給料が減る
・スペシャリストを目指しにくくなる
ワークシェアリングにより勤務時間が短くなれば、その分給料が減ってしまいます。勤務時間が短縮される分、副業で収入を上げる選択肢も生まれますが、開始直後から本業と同程度の収入を稼げるとは限りません。
また、複数の業務を経験しながらゼネラリストになることができても、スペシャリストとして成長しにくいという弊害もあります。
まとめ
ワークシェアリングにはメリットが多く、導入する企業が増えています。
一方で、導入時のハードルや従業員ひとり当たりに支払う給料の減額など、デメリットもあります。何の対策もなくワークシェアリングを導入すると、一部の従業員に不満が生じかねません。
ヒアリングで現状を確認しつつ、従業員目線で本当にワークシェアリングが求められているか、どのような制度が必要か考えることが重要です。