CHRO(最高人事責任者)とは

CHROとは「Chief Human Resource Officer」の略称で、 最高人事責任者と呼ばれます。

もともとは、外資系の企業で生まれた役職で、CEO(最高経営責任者)やCTO(最高技術責任者)と同じように、「最高〇〇責任者」を表す略語のひとつです。経営層の一員として、人事業務全般の責任と権限をもつ総合的な役職を指します。

なお、日本企業では、CHROではなく「執行役員人事部長」や「取締役人事部長」の名称が使われる場合もあります。

ここでは、CHROと人事部長とで異なる点を紹介します。あわせて、CHROが求められている背景とCHROを取り巻く現状を紹介します。

CHROと人事部長の違い

CHROと人事部長の大きな違いは、経営に関与しているかどうかという点です。

一般的な人事部長は、人事部の責任者として採用や育成、人事管理に関する業務を統括します。基本的には、経営陣が策定した経営戦略を人事の側面から実行・支援する立場にあります。あくまで人事業務の実行における責任者であることが特徴です。

一方で、CHROは人事部長よりも多くの権限を持ち、企業経営の重要な資源である人材全般に関する責任者として、経営戦略の立案に携わります。経営戦略と連動する人事戦略を打ち立て、その実現に向けて全社を指揮していく立場です。

CHROが求められる背景

最近では、日本においても人的資本経営が注目を集めており、人材を貴重な経営資源と考える動きが強まってきました。

また、少子高齢化にともなう労働人口の減少や、人材の流動性が高くなったことにより、人材そのものの希少性が高まっています。

いかに優秀な人材を採用・育成し、その人材が活躍しやすい環境を整備するかが、企業において非常に重要な経営課題となっているのです。

日本におけるCHROを取り巻く現状

CHROへの注目が高まっているとはいえ、欧米と比較すると、認知度が非常に低いのが、日本の現状です。日本におけるCHRO導入企業の割合は、わずか1割前後という調査結果もあります。

その背景には、日本企業特有の終身雇用が関係しています。従来の日本企業では、人材の獲得や離職防止に経営視点から注力することは稀でした。そのため、CHROの必要性を感じづらく、認知度が高まらなかったといえるでしょう。

また、CHROが少ない理由のひとつとして、CHROの役割を外注している企業が多いことがあげられます。常に変化する社会情勢に対応した人事施策を専門的に打ち出すことは困難です。そのため、CHROは人事労務全般に関するプロフェッショナルでなければなりません。しかし、自社でその役割を賄いきれないため、外部の専門コンサルタントに任せるケースが多いのです。

CHROの主な4つの役割

ここでは、企業経営において、CHROが担う役割を解説します。

人事視点から経営に携わる

CHROの重要な役割のひとつに、人事視点から経営に携わることがあげられます。経営陣とともに、経営戦略を策定する際には「戦略を実行するためには、どのような人材が、どのくらいの人数必要なのか」「人材を確保するためには、どんな組織づくりが必要か」を考慮・提案します。

企業内の人事面でかかっているコストや、人的資源の状況を常に把握しながら、戦略の策定と実行のバランスを保つことも必要です。

人事評価制度を整備する

CHROは、組織により適した人事評価制度を策定します。さらには、進捗管理や軌道修正も含めて、全社の評価制度が適切に機能するように整備する役割を担います。

社員の評価が公正に行われる体制を整えることで、社員は納得感をもって働き、成果を出すことに邁進しやすくなるでしょう。

この際、間接部門のスタッフ職をはじめ、部署によっては評価の数値化が難しいことがあります。このような人事評価に関する問題の解決策を講じることもCHROの役割です。

社員の育成を推進する

経営戦略を実行できる人材を揃えるために既存社員の育成に注力することも、大切な役割のひとつです。特に、CHROは、中長期的な経営視点を持って、全社的な社員の育成体系の設計や、実行計画の立案を担います。

社員の育成を各部署の管理職に育成を任せきりにせず、自ら全社を横断的にマネジメントすることが大切です。

全社員にキャリアアップの可能性を示し、そのための育成支援を十分に行うことも重要です。社員の成長意欲が刺激され、日々の仕事に邁進する人が増えれば、組織全体の生産性を高められます。

企業理念やビジョンの浸透を促す

社員の一体感を醸成するには、企業理念や、経営陣が掲げるビジョンに全社員が納得し、同じベクトルをもって協力し合う風土が必要です。CHROは、広い視野を持って企業内の状況を観察しながら、より良い企業文化や風土の創出を図っていきます。

社内に、企業にとって望ましくない文化や風土があった場合には、是正策を講じます。実際にトラブルが発生してしまった際は、適切に対処することも重要な役割です。

CHROに求められる能力やスキル

ここでは、CHROを担う人材にどのような能力やスキルが求められるか解説します。自社にCHROを設置する際に、どのような人材がふさわしいか判断するための基準として、把握しておきましょう。

経営的な視点

経営的な視点と、経営全般に関する基礎知識を持ち合わせていることが必要不可欠です。業界の経済動向や、事業に関する国内外の情報などを瞬時に掴み、自社の経営戦略や人事戦略に活かせる能力が求められます。

人事労務の専門性

人事のプロフェッショナルとして経営に参画するCHROには、人事労務についての豊富な知識が欠かせません。

社内規定や人事評価制度を整備するために、給与や労務管理などの業務知識や、労働基準法をはじめとする法律知識に精通していることが求められます。法改正にあわせて、情報をいち早くキャッチアップできることも必要なスキルのひとつです。

問題解決力

経営・人事戦略を実行するにあたり、CHROは数多くの問題に直面します。そこで、問題に対して、冷静かつ論理的に、現状を分析して対処する能力が求められます。解決策の意見を出すだけでなく、経営層や社員に対して、自らアクションを起こし、解決に向けて先導できることも大切です。

場合によっては、問題に対して講じた解決策を経営陣や社員に、分かりやすく説明することが必要になることもあります。

戦略の立案力

人事の領域から経営をサポートする立場にあるCHROは、人事視点を持って戦略の立案に関わります。経営陣と同じ目線をもち、中長期的な視点から組織の発展につながる経営・人事戦略を立案する能力が必要です。経営の知識だけでなく、経験や実践的なスキルをもった人材がふさわしいでしょう。

コミュニケーション能力

CHROは、人事に関するポジションであるため、経営層だけでなく社員とのコミュニケーションも多く発生します。

社員の意見に耳を傾け、それらを踏まえた提案を経営層に届けるなど、調整役として動くことになります。多種多様な人と円滑にコミュニケーションを取れる能力が必要です。

まとめ

CHROは、人事責任者のもつ人事的視点と、経営陣としての経営的視点を併せ持つことが求められる役割です。そのため、経営陣と人事の掛け橋となる重要なポジションといえます。

今後の企業経営において、その重要性はますます高まっていくでしょう。すぐに導入しない場合でも、自社のCHROに適した人材をどのように育てるか、少しずつでも模索していくことをおすすめします。