人材戦略とは
人材戦略とは、企業が経営戦略を実現するために策定する企業内の人事に関する戦略のことです。人材戦略では、企業がいかに「必要な能力を持った人材を」「十分な人数確保したうえで」「適切に人材配置や育成を行い」事業を進めていくかを検討します。
人材戦略そのものは以前からある考え方です。しかし、近年、グローバル化やデジタル化による事業環境の変化や労働人口の減少、個人のキャリア意識の向上などによる労働市場の変化が影響して、人材戦略に求められる内容が大きく変わってきています。
これまで、日本企業の多くは、新卒一括採用と終身雇用を前提に、長期的な安定性と企業内部の公平性の担保を重要視した人材戦略が採られてきました。
しかし、あらゆる事業に変革が求められ、変化が速まっていくこれからの時代には、事業環境や経営戦略と連動しつつ、中長期の視点と即応性が両立した柔軟な人材戦略が強く求められています。
人材戦略に基づいて実施されている施策例
これからの時代に求められる人材戦略の一環として、具体的にどのような取り組みがあるのか、例を見てみましょう。
タレントマネジメントの活用
タレントマネジメントとは、社員が持つスキルや経験を人事部が管理し、組織内で統合的に活用することです。
タレントマネジメントを活用することで、経営戦略を実現するためのポジションに適した人材を的確に発見し、登用することが可能になります。また、社員の個性を認め、それを活かした人材配置ができることで、企業の多様性も高まるでしょう。
社員にとっても、強みや、得意なスキルを発揮しやすくなることで、より意欲的に働けるようになるメリットがあります。
離職率の低減施策の実施
社会における人材の流動性が高まるなか、優秀な人材が自社に残り、活躍し続けてもらうためには、離職防止の施策も必要です。
社内に良質なナレッジ(企業にとって利益性が高い知識や知見)が蓄積され続ければ、企業全体が持つ力量の底上げにもつながり、企業間競争力も上がることでしょう。
また、離職率が低下すると、新たな採用活動にかかるコストが削減でき、浮いた分のコストを、ほかの経営戦略の実行に活用できるメリットもあります。
具体的な取り組みの例としては、職場の人間関係をより良くするための施策や、就労条件の見直しがあげられます。
経営戦略と連動した目標設定や人事評価の実行
経営戦略の方向性に沿った、一貫性のある目標設定や人事評価を行うことで、より社内全体で足並みを揃えて事業を推進できます。また、社員を自社が求める人物像に育成していくことも可能です。
社員にとっても、自分の目標達成が会社の利益と直結していることが肌で感じられれば、やり甲斐をより感じられるようになるでしょう。結果として、会社へのエンゲージメント向上にもつながります。
人材戦略を構成する4つの要素
それでは、実際に人材戦略を組み立てるには、何をどのように検討すれば良いのでしょうか。人材戦略を策定するうえで有効なフレームワークを4つの要素に分けて解説します。
採用
採用は、人材戦略において、最も重要な要素といえるでしょう。企業側が、求める人材を正しく定義できていなければ、採用した人材とミスマッチが起こるリスクが高まります。事業が思うように前に進まず、採用した社員がすぐに辞めてしまうケースも多いです。
経営理念や経営戦略に沿って、求める人物像を具体化したうえで、必要な人材を採用できるようにする取り組みが必要です。
特に新たな事業を立ち上げる際には、事業の成功に必要な人材要件をよく検討したうえで、既存の人材の能力や経験と照らし合わせましょう。ギャップがあるようであれば、それを埋められる人材を獲得できるようにします。
育成
各社員が経営戦略の実現に貢献するだけの能力を身につけたり、経験を得られたりするように、長期的な視点を持った育成の仕組みづくりも重要です。
さまざまな事業環境変化に対応できるように、その時代に必要な知識やスキルの獲得を従業員が進んで取り組めるように支援する体制を整えると良いでしょう。社内の研修制度はもちろん、資格取得制度や自己啓発奨励制度を充実させることも有効です。
配置
各社員が持てる能力を最大限に発揮してもらうために、社員一人ひとりの適正や能力を見極め、適切な人材配置を実施することが大切です。
また、既存事業に基づくポジションへの配置だけでなく、経営戦略を基に将来を見据えた戦略的な配置を行うことも必要です。
定着化
いかに従業員の定着率を高めていくかも重要です。企業が継続的に発展していくためには、優秀な人材にできるだけ長く活躍してほしいものです。
具体的には、福利厚生の充実や多様な働き方への対応、ワークライフバランスの向上などを推進しながら、いかに従業員のエンゲージメントを高く保ち、離職を防ぐかを考えていきます。
人材戦略を立てる際のポイント
最後に、人材戦略を立てるときの大まかな流れを説明します。
経営戦略を再確認する
まずは、現在の経営戦略がどのようなものなのか、改めて理解を深めましょう。将来的な自社の理想の姿や経営状況に加え、どのような作戦や戦術を用いて、それらを実現していくかを明確にします。
また、現在の経営状況を把握しておくことも重要です。事業環境や、競合他社との比較を客観的に確認しながら、問題点を洗い出しましょう。
経営戦略の実現に必要な人材要件を定義する
経営戦略の実現のためには、どのような人材が必要なのか、理想的な人物像を定義します。さらに、どのような人材が、何人程度必要かイメージしておきます。
入社時期や採用フロー、育成予定の詳細などもこの時点で想定しておくと良いでしょう。繁忙期の人材補填といった短期的な視点だけで考えるのではなく、中長期的な視点を持って、検討することが重要です。
現状を可視化して目標設定する
人材要件が定まったら、次に、現状を客観的に把握しましょう。具体的には、既存の人材の能力や経験、人数の過不足など、人材の特徴や社内における配置状況を確認します。そして、理想と現状のギャップを埋めるための、明確な目標設定を行います。
この際、KGI(Key Goal Indicators:重要目標達成指標)、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を定めましょう。なお、KGIは、戦略全体の最終目標であり、KPIはKGIを達成するために業務レベルで達成が求められる中間目標です。最終目標と中間目標を分けて設けることで、実際の業務内容に落とし込みやすくなります。
KGIとKPIのどちらも、達成率をはっきりさせるために、数値で判断できる内容にすることが重要です。
目標達成へのプロセスを設計する
具体的な目標を設定したら、それを実現するための策を練り、実行するための行動計画を立案します。
計画当初は、あまり高いハードルを設定しないようにすることが大切です。取り組む社員のエンゲージメントが低下しては本末転倒なので、現実的に実現可能な戦略を立てることを意識しましょう。
まとめ
経営の原動力となる人材を確保し続け、企業を持続的に発展させていくためには、経営戦略と連動した人材戦略を策定することが、とても重要な時代に突入しています。
自社が求める優秀な人材を揃えるために、本記事を参考にしながら人材戦略の策定を進めてみてはいかがでしょうか。