1.ニューノーマルな時代の人的資本投資のトレンド

新型コロナウィルス感染症による影響もあり、DXトレンドが大きく加速する中、DXに必要となるデジタル人材の不足が課題となっています。人材不足がDXを推進する上での障害となっており、社外のDX人材を採用するか、社内の現場人材をDX人材として育成・教育する必要があります。
そのため、従業員の「学び直し」である「リスキリング」が注目されています。

システムやツールの実装工程において必要な基本的なレベルでの情報処理技術を持つエンジニアは一定数います。しかしながら、DX推進における上流工程からのノウハウを持った専門家や、リーダーとしてのプロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー、プロダクトオーナーとなる人材不足が顕著です。同様に、UI/UX、AI、データ・ビジネス分析領域の人材も枯渇しています。

DX人材の枯渇を解消するために現実的で実施可能な施策には、研修の充実や資格取得の推奨が挙げられます。
TeamSpirit社内でも、AI人材としてアップスキルしたいメンバーに対しては、集中的な勉強会やslackでのトピック共有など、特定のテーマでコミュニケーションが活性化するような仕組みづくりや、社内教育・人材育成を行っています。

社内研修や自発学習に多く言えることですが、業務時間中の自発的な学びをどこまで許容するかは議論の分かれるところです。学習内容がリスキリングに変わったとしても同様で、通常業務を行いつつ、並行して学習できる環境かどうかは、組織の在り方や現場の方針に大きく左右されるでしょう。

TeamSpirit社内では、業務時間中の自発的学びとしての勉強会への許容度もあり、教え合い、学び合いという文化もあります。それと並行し、外部のeラーニング・オンライン学習でリスキリングの学びのチャネルも選択肢としてあります。 グローバルに展開するオンライン学習プラットフォームCourseraを活用し、サービス内にある、有名大学の授業を受講する取り組みを試験的に開始しました。R&Dチームの一部メンバーとして機械学習の基礎の習得に課題があったため、メンバーが自発的にStanford UniversityのMachine Learningコースを選択しました。結果、Certificateを取得し一定の進捗を得ることができました。

Machine Learning by Stanford University – 機械学習

2.オンライン大学やeラーニングでの学びと、選び方

オンライン学習が世界的な広がりを見せた2020年以降、UdemyのようなEdtech企業がナスダック上場を果たし、オンライン大学プラットフォームとして有名なCouseraも一般に認知、普及しました。その他、海外の大学のオンラインコースも増加傾向にあり、英語力に支障がなければ、学びの幅は制限されることなく、選択肢は今後も増え続けることでしょう。

ここで「何をリスキリングしていくべきか」については迷うところではありますが、今後必要となるであろうケイパビリティ(能力や可能性)を、一度、個人や組織で可視化・見える化し、何を優先的に実施をするかを選択していくと良いかと思います。

社会の動向も加味した上で、現在のケイパビリティと未来のケイパビリティを比較して見える化すれば、さらに進んでいく方向性が見えるのではと考えます。

GAITのようなDXに特化したアセスメントやATDのような汎用のアセスメントが可能なサービスもありますので、ケイパビリティの参考に利用するのもおすすめです。必要に応じて計測し、強みを伸ばすか、弱みを克服するか、または新規性の高い分野に投資するかなど、今後の方針を決定する際には、効率的にリスキリングできるのではないでしょうか。

3.Harvard Business School Onlineの受講

私は、これからの未来、さらに必要だと思うケイパビリティを意識し、まずは「イノベーションのジレンマ」「ジョブ理論」の著者であり、イノベーション理論で非常に有名な故クリステンセン教授のDisruptive Innovationの授業を受講してみることにしました。

この授業は、現在のオンライン教育のトレンドを作ったHarvard Business School Online(*以降HBS Online)の最初の授業で、大学が提供するオンライン学習でビジネス的に成功した事例でもあります。

Disruptive Innovation Online Course | HBS Online

HBS Onlineの講義は申込み後、2週間ほどで審査の結果が届きます。

その後、規定の期間毎に、動画コースを視聴し、各セクションで確認テストや自身の体験ではどうTakeAwayできるか(自身にとっての収穫は何になるか)等を回答します。Assignment(宿題)は大きく3つありました。

①Fintechに関する事業計画を3人でグループディスカッションし、事業計画書をPDF化し提出
先行で該当市場に参入済みの競合プレーヤーへの差別化〜ポジショニングや他社には模倣困難な強み作りを含むロードマップを含めた“勝てるプラン”を作成しました。

②Job To Be Done(ジョブ理論 – Wikipedia)についてペアを組みディスカッション、身近な買い物で、どんなものがあったか写真つきで、解説したものをPDF化し提出
「ジョブ理論」の中ではミルクシェイクの例が有名ですが、身近な例として、妻の要望で購入した“熱伝導効率の良い片手鍋”を例に作成しました。

③コース全体の授業を通しての学びを、Final Paperとして論文作成、教授に査読を受ける
論文の例ではウォルマートのヘルスケア分野参入でしたので、以前の職場での新規事業開発について論文を作成しました。

確認テストや論文など全てクリアすれば、Certificate(認定)されます。
③の論文が内容的に一番重い宿題でした。当たり前ですが、英文で作成する必要があります。
題材は「自身の新規事業開発で大きく成功したもの」とし、英語の論文で提出しました。
データ分析に基づいた科学的なものである必要があるので、少し手間がかかりましたが、期日までになんとか提出できました。

結果、修了となりCertificateの電子認証付きPDFと、エアメールで紙の修了証も郵送で届きました。授業の難易度もさることながら、日本とアメリカの時差があり、結構疲れるものだったので郵便物を受け取った時は少し嬉しい気分になりました。

今回、Strategy TrackにEnrolledしたので、他に2つのStrategy TrackのCertificateを取得できれば、 Specializationを取得できるので、時間があればトライしたいと思います。

直近は、少し旬な分野である「AI経営」や「ESGクオンツ」、その後は「ファイナンス分析」といった内容を学ぶ計画でおります。

PwC Japanグループ×東京大学 AI経営寄付講座(社会人向けプログラム
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「ファンドマネジメント講座」(ESGクオンツ編)
UC Berkeley HaaS – Financial Data Analysis for Leaders

4.スターバックス/Amazon等でのESG/人的資本情報開示とオンライン大学の会社負担化の事例

米国では人的資本情報開示が義務化され、研修コスト・受講者数などを数値で出すことになりました。
スターバックスではアリゾナ大学と連携し、会社負担で従業員が大学を卒業できるプログラムを開始しています。
ASU Starbucks

Amazonも、従業員の大学授業料の負担をすると発表しました。
Amazon、社員の大学授業料を全額負担 75万人対象、2025年までに総額12億ドル投資 – ITmedia NEWS

従来であれば単なる福利厚生的な要素であった研修が、今後は企業にとって業績貢献に必要な要素として、また、社会的にも必要かつ期待される取り組みとして、人的投資への注目は高まるばかりです。

米国では従業員への人的投資が非財務分野の投資として進み、ESG投資もさらに盛んになるとも言われています。

国内では、試験的に研修投資と企業価値の因果関係を分析する潮流も見受けられます。効率的かつ効果的な研修投資が社会的要請となってくることは、現実的に差し迫ってきているのではないでしょうか。

5.その先の具体的な施策へ

今後、SDGs/ESGの注目はさらに高まり、昨今の政府の「人への投資」と呼ばれる”人的投資の流れ”は加速することが予想されます。

この機会に今一度、「研修・資格取得・研究開発・無形資産計上にかけた時間=工数」と「研修・資格取得・研究開発・ソフトウェア開発関連ツール・業務委託関連予算=経費」がどのように「業績や企業価値に大きく影響するとされる“価値評価の高い無形資産”」へ紐づくかを、TeamSpiritで見える化し、分析してみるのはいかがでしょうか。

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次回は、”タレントマネジメント”と”人的資本投資の原理となっているHBSによるインパクト加重会計”などの最新のHR・ピープルアナリティクス動向のケーススタディについてご紹介いたします。
どうぞ宜しくお願い致します。