良い雑誌を創る一歩は「毎日のハンコ押し」!?
(小倉健一氏・ITOMOS研究所長)荻島さんの会社のホームページ見てすごくハタと思った部分があります。現場から見たら勤怠管理も経費精算も同じでしょっていうその説得力。それがセンスだなって思うんですよね、その言葉一つで。クラウドを使って勤怠管理と経費精算を一緒にしましょうっていう話なんですけど、その言葉が書いてあるっていうことが、営業面ですごい差になっているような気がして。
ジョブズの作ったiPhoneだってAndroidだって機能はほぼ一緒じゃないですか。でも圧倒的に訴求力はiPhoneの方があるし。何が違うかって言ったらきっとセンスとしか言いようがない。綺麗、美しいみたいな。TeamSpiritの中にそういうセンスが埋め込まれてるような気がしていて、その辺ってどっから出てくるものなんですかね。
(荻島浩司・チームスピリット代表)僕も本当にAppleの製品とかは好きで、でもやっぱりあれは全ての人に1人1つのコンピューターっていうビジョンにあると思っていて。
我々は従業員のためのITツールっていう位置づけです。先日小倉さんに書いていただいた連載でも思ったんですけど、本当はIT革命でもDXでもそれほど違いが分からなかったりする、もっと言えばオートメーションだって同じですよね。一言でいうとオートメーションっていうことなんですけど、そうなってくるとドラッガーの指摘の通り、一人ひとりのマネジメントをするっていうことがどんどん増大してくると。
工場があって働く人っていう関係から、今の時代は一人ひとりが自分のことをマネジメントしていかないといけなくなって来ているじゃないですか。会社の業績を上げるためには当然良いサービスとか製品を作らなければいけないわけですけども、良い製品を作っているのは働いている人なんで、圧倒的に人の差なんですよね。それには総合力みたいなものがあるので、一人ひとりを活性化することができたらすごい強いだろうなって思ったことがあります。
それからもう1つは受託開発をしていて、そのまんまみんなが年を取っちゃうと、組織としては特定の優秀なエンジニアにいつまでも依存することになっちゃう。この仕事は間中さんにしかできないっていう風になっちゃうわけなんですよ。そうすると人替えが難しくなって、達人が抜けたら新しい達人を見つけることの繰り返しから抜け出せなくなっちゃう。人を活性化させるっていうのは何よりも重要だなっていう風に思う。
(小倉)編集長になって本当にびっくりしたのは、前の編集長は毎日こんなに書類に目を通してたんだって知ったとき。20〜30人規模のデスクや現場の担当者が送ってくる経費精算を毎日目通してハンコ押して。交通費押して出張押して、みたいな。本当に今だから言えますけど、ほぼ真面目になんてチェックしていなかった。いや少しは真面目に読んでいた部分もあるんです。現場がどんな本読んでるのかは見てましたね。
これは経費が適正に使われているかと言うより、性格診断です。
でも、それって勿体ないですよね。僕の時給から考えたら、こんなのにいちいち目を通させる仕組みを前提に作られた組織って効率的じゃないし、もっともっと良い雑誌作ろう、いい紙面作ろう、というマインドに持っていけないものかなって常に思っていたんです。いまの管理職ってカシャカシャとハンコとかボタンを押すだけになっちゃってますよね。
(荻島)勤怠管理にしても経費精算にしても、タイムボードにカシャカシャってやったりとか紙の伝票に書いたりしたら、それをデータ化したり計算したりするのは本社の管理部門側がやっていたわけです。それがITっていう名前の下に、働く人側が入力し、管理職がチェックするという作業が発生したわけです。
1人では確かにちょっと少ない時間ではあるけれども、でも働く側からすると増えているわけですよ、作業が。インプットしてるのにインプットした後の成果が何も来ない。例えば接客してデータ入れたんなら、分析してこうですよみたいなことを言ってくれればまあやりがいもあるんですけど。一切やりがいのない仕事なのでそれは1回にしちゃっていいと思う。
あと、僕は東芝の仕事をしている時は、やっぱり何時に来て何時に帰ったか、どこへ出張したのか全部書いていたのですけれど、別々のシステムで同じことを2度も3度も入れなければいけなくて。当然間違えるじゃないですか。間違えると事務のおじちゃんがいて「荻島さんここ間違ってるよ」ってわざわざエレベーターで上の階から降りてきてくれて、二元チェック機能があったんですよ。この違和感が起業の構想につながった面はある。
これから重要になってくるのはラストワンマイルじゃないですかね、働く人のためのツール、働く人が自分でマネジメントする。どんどん世の中が変わっていって、そこのタッチポイントを全部抑えたいなって思う。
(間中健介・WITH所長)「消費者の企業化」と言って、Appleを持っている1人の消費者は、20年前の中小企業よりも多くの情報を処理し、タスクをこなしている。Appleは消費者の情報に対する好奇心やコミュニケーション意欲を無意識のうちにエンパワーしてきた。TeamSpiritもユーザーをエンパワーするというか、前にそういうコーポレートメッセージがあったと思うんですけど、僕はすごくいいなと思っていて。
(荻島)ありがとうございます。でも、個人的にはもっとできると思っています。B to CのCが働き手なんですけど、ウチのビジネスで見ればB to B to Cなんで、B to Bのところで、もっと価値観を共有しなきゃって思う。
IT化がハンコ文化を後押ししてきた仕組み
(小倉)それってコロナで変わったりするんですか。というのはコロナになって在宅勤務が増えて通勤時間がいかに無駄かっていう風に気づいて、通勤時間なくなっただけでこんなに時間が増えるんだ! となって朝の時間ゆっくり取れて新聞読めて、となっているんですけど。
TeamSpiritとしてコロナを機に変わったことか、それはいい意味と悪い意味とがあると思うんですけど、そのあたりどうですか。
(荻島)そうですね、お客様としてはなかなかこの分野のIT化が進まなかったので、どうしても実在主義というかですね。まず、職場に来て帰るのが仕事であるので。職場に来てから何をやるっていうのが文化だったと思うんですね。なので5分遅れても15分遅れたことになってたりとか、25分前に出社しても定時に来たことになってたりするわけですよね。
TeamSpiritでは、出社するボタンを押すときに今日何をするということを入れて、帰るときに今日何をやったということを入れてボタンを押すことになっています。コロナの前からやっていました。
(小倉)「今日こういうことやります」スタート、「こういうのやりました」終わり、という。
(荻島)はい。こういうのやりますって決めてからスタートなんだから、これが3分前だろうが16分前だろうがスタートですよね。だからここは1分単位で仕事をしたっていうことにしましょうよっていう。そして、帰るときは「こういうことをしました」っていうまとめをやるまでが仕事ですよねっていう。
ただ、なかなかそれ受け入れられなくて。どうしても「まるめ」っていうんですけどタイムカードを打刻する時代の名残がある。在宅勤務をやろうとすると、まず「今日何をするか報告しろ」ということになるわけですよ。やっぱりオフィスにいないから不安なんですよ。最近ようやく私たちの考え方が受け入れられるようになってきた。いわゆるジョブ型っていう形に移行しつつあるんですかね。
(間中)ジョブ型がリモートワーク下において本当に高い生産性かどうかっていうのはわからないですよね。在宅勤務の生産性について経済産業研究所の森川正之先生が分析にチャレンジしているのを見たことがありますが、在宅勤務拡大によって最大30%生産性が下がっている可能性があるっていう指摘をしているペーパーもあった。そういう調査とかをWITHでやれたりすると面白い。
(荻島)そうですね。うちの会社で例えば開発の仕事をするとか導入の作業をするっていうような仕事に関しては、確実に生産性は上がっていますね。通勤時間のその時間も使えますし、集中する度合いも高いし。
一方で、ちょっと聞けばわかるような話をいちいちメールで聞かないといけないとか、オンラインで話すためにアポ取らないといけないとかいう点では、生産性が非常に落ちていると思う。
(小倉)下着メーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンの吉越浩一郎元社長が、毎日13:30~14:30の間は電話禁止、私語禁止、出歩き禁止をやって生産性格段に上がったのです。一日1時間でも黙って仕事をするのがいいかもしれません。良し悪しがあると思うんですよ。その辺をうまく組み合わせられると良いですね。
特にコロナだと営業活動を制限されるから、新しいものを売ったり新しいアイデアを相手に受け入れてもらうってすごい難しいと思いますね。どこもうまくいってないんですけど、地道にやってくしかないっていう話、、、でもどうなんですかね。
10年後、20年後・・・ 遠い目標からの逆算
(荻島)コロナで業態を急激に変えなきゃいけなくなっちゃったときに、ついていけた人とついていけなかった人ってやっぱりいるかなとも思っています。例えば回転寿司屋だって、普通にみんなが食べに行くっていうのが普通だったのにテイクアウトでもオッケーってなったら逆に業績が上がったみたいなことがあると思っていて。こういう状態の時にフィットできるかどうかっていうところも、経営者の資質だったりするんだとは思うんですよね。
(小倉)運不運はあったと思うんですよね。例えばワタミなんてお店ではすごくいいサービスをしてたけど、やっぱり飲食店ってコロナ禍ではしんどく、サイゼリヤもそうですし。
ただ本当に生き乗っている人は大局観を持ってるっていうか、似鳥昭雄さんとか孫正義さんとか柳井正さんが言っていることで共通してることは、「10年先に起きるって思ったことが早まった」ってことをおっしゃっています。
名経営者と言われる人は、ものすごい遠い視点から計算していくと今やるべきことが分かってくるんじゃないかなと思ってる。柳井さんって遠い目標から逆算してこれやるぞって、遠い目標を考えてるんですよ、10年後20年後の。そういった計算をすると答えが見えてくるっていう時もあるかなとは思いますね。
プレジデントってやっぱりニュース。ニュースっていうのはNEWの複数形なんで、要は新しいことを報道していくことです。そこで面白いのは成長している、儲かってる企業に焦点を当てて、DXがうまくいってる企業とかに焦点を当てて取材をしていくと、GAFAは違うのかもしれませんけど、最新のものを使ってるというよりは、10年前に合ったような既存のテクノロジーをうまく組み合わせた、それこそセンスだと思うんですけど、組み合わせて使っている。ニュースなんですけど、技術は実は10年前のものをうまく組み合わせている。
だから新しいものというよりも今目の前にある僕らの商品を知らない顧客とどう組み合わせたらこの人たちに届くのかなっていうことをすごく考えていくと、うまくいくんじゃないかと思います。
WITHのいいところは、すごく近い所の報道をしますよね。それって親和性があるし、それを作っているteamspiritっていう会社がこのWithを大きくすることで、目に見えない宣伝効果とか信頼感につながっていくと思うので、そういったセンスのある、要するに広告費を直接投入するんじゃなくて、自分たちでメディア作っちゃうなんて発想なかなかできないと思うんですけど、そういうのを組み合わせていくときっとうまくいくんじゃないかなって。
少しずつ大きくしてくイメージでやっていけば、経済メディアとしてのWITHって将来性をすごく感じますよ。