(インタビューコーディネーター:橋本綾子)
(株)Stock Base
2021年4月設立。廃棄を削減し、循環型社会の実現を目指し、企業で余っている廃棄されてしまう備蓄品を必要としている人へマッチングするサービスを提供。
公式HP:https://www.stockbase.co.jp/(株)Stock Base 代表取締役
関芳実(21歳)
2000年、横浜市生まれ横浜市立大学入学後、税務会計を専攻。英語スピーチ大会で全国大会出場を経験。150人を超える学生団体の代表を務めるなど課外活動に注力。昨年度、ビジネスアイデア構築の面白さに魅了され、「目の前の課題を自分たちのソリューションで解決すること」を目指す。
(株)Stock Base 取締役
菊原美里(22歳)
1999年、長野県生まれ。横浜市立大学入学後、2年目から起業家人材論について学ぶ。生活の基盤となる住環境や街づくりに興味があり、人の生活をハードだけでなくソフトの面から豊かにしていきたいという想いから事業の普及を目指す。
※ディスカッション参加学生※
横浜市立大学国際商学部3年 平井嘉祐(20歳)
母が中華系カナダ人ということもあり、幼少期から多文化に触れる。大学では創立メンバーとして発足したCEBA(横浜市立大学国際商学部公認学生組織)にて、学内融和プロジェクトや地域貢献プロジェクトを企画・運営。現在は起業家人材論を専門に学ぶゼミ(芦澤ゼミ)に所属し、プロジェクトを通じて起業家マインドを学んでいる。
この記事の目次
循環型社会をビジネスで実現!学生起業家の挑戦
(菊原)弊社のサービスは企業が廃棄しているものを削減しつつ、それを有効活用するというサービスです。企業の中では不要とされているものが一歩外に出たらすごく必要とされているという原体験から同様の事象が「他にもあるのでは?」と考え、ビジネス化しました。
(荻島)なるほど。最初はカレンダーということですが、何に使われました?
(菊原)高齢者の方々は、薬の飲み忘れ防止と日常使いを分けるために重宝されました。
(関)私たち自身は、日常的に紙のカレンダーを使用しないため、捨てられて当たり前だと思っていました。ですが、それを近くで必要としてくれる人がいるなら、わざわざコストをかけて廃棄する必要はないと考えています。
(荻島)クレイグリスト(※)の企業版みたいな感じ?
※クレイグリスト(Craigslist):アメリカ合衆国に拠点を置くクラシファイドコミュニティサイト。あらゆる分野において顧客主体でモノの売買・コミュニケーション・ディスカッション・仕事の場を展開している。
(菊原)そうですね。今は災害備蓄品に着目していて、企業で余っている大量の災害備蓄品を廃棄するのではなく、食に困っている方に寄付させていただいています。現場のヒアリングでも、需要が高いため、それを循環出来たらなと考えています。
(荻島)現在は、基本的に寄付とかで成り立ってるの?今株式だと思うが。
(菊原)はい、株式会社として「ビジネスで循環型社会の実現」を目指しています。マッチング代行の手数料で収益を上げながら、現在はプラットフォームの構築を目指しています。
(荻島)競合他社は存在しない?
(関)現状、競合他社(NPO含め)は存在しています。なるべく低コストで簡単に有効活用することを重視し、企業の近くで地域に還元しています。そのため、結果的に配送コスト、企業が寄付のためにかけるコストを最低限に抑えることで差別化を図っています。
(荻島)配送は何を使うんですか?自分たちで集めに行く?宅急便みたいな?
(菊原)企業さんに独自のお得意様の運送業者さんがあればそちらにお願いしています。いらっしゃらない場合は、私たちと同じように環境活動に積極的な協力会社である運送業者に依頼しています。
(荻島)今は企業から直接やってるけど、メーカーから皆さんの会社が引き受けて、企業にサブスクリプションで備蓄食を提供して期限が来たらそのまま回収してこっちのルートに流すっていうのもやっても面白いよね。現状は、契約が顧客の数分発生してるけど、サブスクリプションにすると1つの契約で済んで、企業側のメリットが大きい。月額いくらみたいなので常備食が手に入って、しかも廃棄の手間もなく取りに来てくれて、箱か何かに宛先を貼ってそれを送るだけの形になるから楽だよね。もしそれが地方自治体でも企業でも利用できたら無駄がなくなるし面白いね。色んなところにビジネスチャンスがある。
ビジネスのスピードを10倍へ。既存の仕事を捨てて一心不乱の挑戦
(関)起業当初の約10年間は、IT受託業務をしていたとのことですが、それをやめて新しい、サービスにいく時の決断の想いをぜひ教えてください。
(荻島)一番苦しかったのは、その決断をした時です。もともと独立する前提だったため、独立するということ自体は何もためらいはなかったです。自分がやりたい仕事が「受託の仕事」ではなかったことも大きいです。受託案件は、提案から納期までが年単位のため顧客満足を得ることが非常に難しい。自分たちでプロダクトを構築し、そのプロダクトでユーザーに喜んでもらいたいという想いから、最後は独立を決断しました。
(関)当初は昼間は受託の業務、夜は新規開発をやられていたと伺っています。その形態をやめて、新規プロダクト開発に踏み切ったのはその働きが無理だと思われたのか、一心不乱に全部を注ぎ込みたいっていう想いからのどちらでしょうか。
(荻島)新しいものは、片手間では構築できない。全てをかけてもできるかわからないものを夜、1日の1割か2割の時間しかかけられないわけです。それだと普通に考えたら10倍の時間がかかるっていうことですよね。10倍やってる間にその市場からおいていかれてしまう。今いいと思ってもすぐ使ってもらえるようにはならないので、全てをかけることが自分にとって最適な選択だと判断し、決断しました。
コロナ禍における「働き方」の価値観の変容
(菊原)コロナ禍でリモートワークが進むなど、働き方の柔軟性もあがり、より多様化が実感されるようになっています。働き方を重視されている荻島さんが目指す、全員が働きやすい働き方とはなんでしょうか。
(荻島)すべての人が、満足する働き方はないんじゃないかなと思いますね。但し、勿論自分が理想とする働き方の考え方は持っています。それは「あまり時間にとらわれない働き方である」ということ。弊社の場合はSaaSビジネスであり、基本的には出来上がったものの価値を利用してもらって、それが社員が労働したものとしてお金になっている。だからこそ、理想の働き方は「自分が企画してつくったソフトウェアが仕事をする」に尽きると考えている。時間や労働でお金を頂くのではなく、何か仕組みが稼いでくれるということ。この形にするとレバレッジが効いて、単純な労働よりも何倍もの報酬を得ることができる。この「何か仕組みが稼いでくれる」ということは全員が意識すべきだと考えます。そうすれば、労働や時間にとらわれないはたらきかたができるし、そうなったらいいなと思います。
(菊原)何か生み出したものが、実質的には働いているということなんですね。
「経営者」マインドの醸成と社内への浸透
(菊原)誰かを雇う「経営者」という立場において、大事にされていることはなんでしょうか。
(荻島)私の目標は、本当に心の底から「うちの会社に入って良かった」と思ってもらえること。そもそも「働く」ということは、お金を稼ぐだけではなく、世の中に貢献をするとか、自分が働くことによっての満足を得ることです。自社の仕事を、そのような満足を得られるような事業にしたいです。多様性があるからこそ、その考えが全く同じである必要はないですが、経営者としての自分の考えを常に社員へ発信し、自主的に働けるような環境を作ることを心掛けています。
(関)部下とのコミュニケーションを積極的に取ることを、とても大事にされているとのことですが、そこが1番難しい所なのかなと思っています。
(荻島)その通り。工場のように手順を決めてその通りに何時から何個やってくださいっていうのがマイクロマネジメントといって一番簡単な方法ではあるけれど、それだと時間や労働に縛られたものしか出てこないからその人のアイデアを生かしたモノにはならない。生かしたものを出してくださいって言ってもそう簡単にはいかないので、その環境を整えることだけでも大事にしています。
(菊原)環境を整えるというのは、具体的にはどういったことでしょうか。
(荻島)実際にはハード面の問題もあるのだけれど、それ以外にも制度や方針も含めて経営層は「機械的な労働を求めてません」という、コアバリューやビジョンミッションを決めることです。そしてそれを、自分が自ら積極的に実践することで、部下に背中を見せながら実践を続ける日々です。
「空中ブランコ経営」と「運を掴む」
(関)新規事業を構築する中で1番辛かったこと、そこから得た教訓はなんでしょうか。
(荻島)新規事業は、先ほど述べた事業転換の切り替えが非常に難しかった。その時に得た教訓は、「人は変わるのが大変」だということ。
(平井)それは周りの人を変えることが、大変ということでしょうか。
(荻島)自分が変わるのが大変。成功を捨てるのは難しい。例えば、事業が成り立たなくてどうしようもない状況で、もう変わるしかありませんって言ったら理由もなく変わっていく。だけどすごくいい状況下の中で、「このままでは将来的に上手くいかない」と悟った時に、それが全く分からないものに移るっていうのは、普通に考えたら理解され難い。自分自身が積極的に意識を変えて、行動していくことが大切ですね。
(平井)先を読めないと、なかなか怖くて出来ない行動ですね。
(荻島)読んでいるつもりはないのですが、僕は自転車操業ならぬ「空中ブランコ経営」という考え方を大切にしています。空中ブランコ経営とは、まずは先方にボールを投げてるから、タイミングは別として一応返って来るのを待ち、次は自分が出ていって向こうから返ってきたものにタイミング良く掴まること。掴むということは、ある程度は計算しているが予測はつきにくい。だが、その一瞬を確実に掴めるように計算して、行動してきた。運は作るのではなく、掴むもの。常に自分で「運を掴み取れる」ように努力を忘れず、行動し続けてください。応援しています。