令和3年度「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を徹底解説
著者:チームスピリット編集部
近年では過重労働をなくすための動きが活性化しており、各企業でも残業や休日出勤をなくすための努力や取り組みが意欲的に実施されています。しかし、労働者の勤務体系によっては、遅くまで残業した次の日も朝早く出社するなど、仕事と仕事の間の休息時間がしっかり取れていないケースもあるでしょう。そうした業務終了後と始業の間の休息時間の確保を目指すのが「勤務間インターバル制度」です。
2019年4月1日から働き方改革関連法が施行されましたが、その大きな目的の1つは長時間労働の是正になります。しかし、より良い労働環境を整備するためには、労働時間はもちろんのこと、仕事と仕事の間の休息時間をきちんと確保することも同様に重要だと言えるでしょう。現在は勤務間インターバル制度導入を目指す企業を支援するための助成金も活用できることから、企業としても本腰を入れて導入を検討すべきタイミングを迎えています。
勤務の間に休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」とは
繁忙期など仕事が忙しいタイミングでは、深夜まで残業して日付が変わる頃に帰宅する方もいるでしょう。しかし、遅くまで働いた翌日も通常通りの始業時間に合わせて勤務を開始するスケジュールでは、十分な睡眠や休息の時間が確保できません。そうした労働者の健康保持や過重労働の防止を図るのが「勤務間インターバル制度」です。
勤務間インターバル制度とは、前日の勤務終了後、翌日の勤務開始まで一定の休息時間を設ける取り組みを指します。十分な睡眠や休息を意識的に取ることで、仕事のパフォーマンス向上を目指す意味合いもあります。企業に対しては2019年4月から本制度を実施するのが努力義務化されており、制度の導入に取り組む中小企業は「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の支給対象となります。
「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の概要
労働者の休息時間確保に取り組む企業への支援を目的とした「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」ですが、どんな企業が対象となるのでしょうか。細かな条件を解説します。
対象となる事業主
「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の支給対象は、以下の条件を満たした中小企業事業主に限られます。
【支給対象の事業主】
- 労働者災害補償保険の適用事業主
- 次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主
- 勤務間インターバルを導入していない事業場
- すでに休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
- すでに休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
- すべての対象事業場において、交付申請時点および支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること
- すべての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること
- すべての対象事業場において、交付申請時点で年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則などを整備していること
また、中小企業事業主とは業種によっても資本金や雇用者の定義は異なります。下記の表のAまたはBの要件を満たす場合のみ中小企業として認められます。
業種 | A.資本または出資額 | B.常時雇用する労働者 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
対象となる取り組み
支援助成金は、勤務間インターバル制度を導入した中小企業に対して無条件に支給するものではありません。下記に示す具体的な取り組みのうちいずれか1つ以上を実施し、発生した経費の一部を支給する形式になります。
【支給対象の取り組み】
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定などの作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器などの導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
なお、PCやタブレット端末、スマートフォンの購入費用は対象外のため、注意が必要です。
達成すべき成果目標
支援助成金の支給対象となるためには、上記で挙げた取り組みの実施に加え、「休息時間が9時間以上11時間未満、または11時間以上の勤務間インターバルを導入し、定着を図ること」が条件となります。具体的には、以下の3つのパターンが想定されます。
新規導入 | 勤務間インターバルを導入していない事業者が、半数を超える労働者を対象に休息時間が9時間以上になる規定(労働協約または就業規則)を新たに定める |
適用範囲の拡大 | すでに9時間以上の勤務間インターバルを導入しているものの、対象となる労働者が半数以下の場合、さらに適用範囲を拡大し半数を超える労働者を対象とすることを規定する |
時間延長 | すでに勤務間インターバルを導入しているものの、休息時間を9時間未満として定めている場合、労働者の半数超を対象に休息時間を2時間以上延長し、9時間以上とすることを規定する |
また、上記の他に企業が指定する労働者の賃金を時間あたり3%以上または5%以上引き上げることを成果目標に加えることもでき、引き上げ率や労働者数に応じて支給額が加算されます。これから勤務間インターバル制度の導入を検討している企業は、自社が上記のどのパターンに該当するのかをチェックし、具体的な対策や取り組み内容を考えましょう。
助成金の支給額
支援助成金は、取り組みにかかった経費の全額ではなく、あくまでも一部が支給対象として認められます。また、成果目標のパターンによっても補助率と上限額は異なります。
休息時間数 | 補助率 | 上限額(1企業あたり) |
9時間以上 11時間未満 |
4分の3 | 80万円 |
11時間以上 | 4分の3 | 100万円 |
休息時間数 | 補助率 | 上限額(1企業あたり) |
9時間以上11時間未満 | 4分の3 | 40万円 |
11時間以上 | 4分の3 | 50万円 |
※労働者数が30名以下で、支給対象の取り組みのうち6から9を実施する場合、必要経費が30万円を超える際の補助率は5分の4となる
1~3人 |
4~6人 |
7~10人 |
11~30人 |
|
3%以上 |
15万円 |
30万円 |
50万円 |
1人あたり5万円 (上限150万円) |
5%以上 |
24万円 |
48万円 |
80万円 |
1人あたり8万円 (上限240万円) |
申請準備~交付決定後までの流れ
社内準備が整い、いざ支援助成金を申請する場合、どんな手順・流れに沿って進めれば良いのでしょうか。申請フローや締切についても触れていきます。
申請方法
下記の書類を記載し、1〜8の書類をそろえ、各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)へ提出します。
【申請書類一覧】
- 交付申請書(様式第1号)
- 事業実施計画(様式第1号 別添)
- 36協定届のコピー
- 労働時間が分かる書類のコピー(賃金台帳、タイムカード、出勤簿など)
- 就業規則のコピー(必要に応じて労働条件通知書の写し)・年次有給休暇管理簿のコピー
- 事業に取り組む前の勤務間インターバルの導入状況を確認するための書類のコピー(就業規則、労使協定、労働条件通知書など)
- 対象労働者の交付申請前1ヶ月分の賃金台帳のコピー
- 見積書のコピー
賃金引き上げの成果目標を設定しない場合には、7の賃金台帳のコピーは不要です。また、8の見積書は、経費が適正な水準のものかを判断するために複数枚を用意または資料を添付します。採用する見積書の右上部分に「資料a」、その他の見積書や資料には「資料b」と記載してください。
申請フロー・締切
下記のフローチャートの通り、事業主は交付申請後、事業を実施し、その成果をもとに労働局が支給・不支給を決定します。そのため、交付申請書や事業実施計画などの書類を提出した後、すぐに助成金が交付されるわけではないので注意しましょう。
また、フローチャート内にも記載してありますが、交付申請書の受付および事業実施後の支給申請書の受付締切は以下の通りです。
交付申請書の締切 | 支給申請書の締切 |
令和3年11月30日(火)まで(必着) |
事業実施予定期間の終了日から30日後 または 令和4年2月10日(木)のいずれか早い日まで(必着) |
助成金の活用事例
中小企業にとって効果的に活用できる「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」ですが、具体的にどんな課題解決に役立てられるのでしょうか。いくつかの事例を挙げます。
課題 | 労働者の休息時間を確保するため、機械化・自動化によって生産性を向上させたい | タイムカードのデータを手書きで管理しているため、ミスが頻発する |
助成金を活用した 取り組み |
効率化実現のための機器や製造ラインを導入 | 労務管理システムの導入 |
見込まれる成果 | 労働時間の削減と生産性向上を両立 作業ミスの低減 | ICカードやスマートフォンからの勤怠打刻が可能になり、残業時間の管理が容易になる。労務担当部署の負担軽減 |
上記のように、現場で働く労働者の負担軽減に役立てられることはもちろんですが、労務管理や給与計算などを担うバックオフィス部門にとっても効果的な活用方法が考えられます。
勤務間インターバル制度を導入する際の注意点
勤務間インターバル制度を導入する際は、厳格な労働時間の管理が求められます。たとえば、23時35分に退勤した場合、翌日の始業時刻を11時間後の10時35分にする場合もあれば、0時まで勤務したとみなし、11時から始業するケースもあるでしょう。どちらのルールで運用するのかは企業によって異なりますが、いずれにしても終業時刻が正確に管理されていなければ、翌日の始業時刻を決められません。
そのため、導入にあたっては休息時間や始業・終業時刻の運用ルールなどはもちろん重要ですが、それ以前に正確な勤怠管理ができていることが大前提です。勤怠管理を手書きで運用していると、従業員本人が始業時刻を誤認識する恐れもあるでしょう。そうしたミスを起こさないためにも、誰もが簡単かつ正確に勤怠を記録できる仕組みの構築が求められます。
勤務間インターバルの管理が可能なチームスピリットでワーク・ライフ・バランスの向上を
勤務間インターバル制度の導入にあたっては、勤怠管理システムの活用がおすすめです。部署や担当者によっても勤務時間は異なるため、人事担当者や管理職が従業員一人ひとりの勤務時間を把握し、適切なインターバルの確保を管理するのは現実的に考えて難しいでしょう。しかし、勤怠管理システムを活用すれば、退勤時間に合わせて翌日の出勤時間が確認でき、万が一適切なインターバルが確保できていない従業員がいた場合には、本人および管理職が把握できます。
「チームスピリット」は、勤務間インターバルを可視化することのできるレポート機能があり、部署ごとまたは従業員ごとの労働時間を簡単に可視化。企業が抱える勤怠管理の問題をクリアし、勤務間インターバル制度の導入を支援します。従業員1人あたり月額400円(最低利用料金50ライセンス・20,000円〜)という低価格で利用でき、導入前には無料トライアルも可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
2021年5月時点では、勤務間インターバル制度は努力義務に留まっているため、企業に対して強制力を伴うものではありません。しかし、労働者のワーク・ライフ・バランスを向上させることは、企業の持続的な成長を目指すうえで重要な要素と言えます。今後多くの企業で働き方改革への取り組みが浸透することで、勤務間インターバル制度も義務化される可能性は十分あります。「チームスピリット」では常に最新の法改正に対応していますので、この先を見越して導入をぜひご検討ください。
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