2020/09/01
電子申請の活用で行政手続きとバックオフィス業務を効率化

社会保険に対応する労務人事などを筆頭に、バックオフィス業務において行政とのやり取りは不可欠です。一方で行政手続きは特定の時間に特定の窓口でしか対応していないことが多く、融通が利かないところがこれまでの難点でした。行政側もその点について問題視しており、改善が求められていた部分でした。そうした状況に変化が生じたのが、2020 年 4⽉から開始となった特定の法人を対象とした電子申請の義務化です。電子申請を通して、「いつでも・どこでも・快適に」行政手続きができるようになりました。
働き方の多様化が進む現代において、煩雑で複雑な行政手続きをインターネット上で行える電子申請は非常に有益です。バックオフィス業務を効率的に遂行するためにも、上手な活用が求められるでしょう。これからの時代は電子申請がスタンダードとなるだけに、バックオフィス業務に関してもこの官民協働の取り組みを積極的に取り入れていくことが重要です。
行政手続きをインターネット上で行う「電子申請」とは
電子申請とは、紙で行っている申請や届出などの行政手続きを、自宅や会社のパソコンからインターネットを通して対応できる仕組みです。行政機関の窓口に出向いて、書面で行っていたやり取りがオンラインで完結することによって「手間」「煩雑」というネガティブなイメージがある行政手続きの簡略化の実現が期待されています。電子申請を利用する具体的なメリットや義務化に至った詳細を解説します。
電子申請のメリット
電子申請の最大のメリットは、時間と場所を選ばずに行政手続きが行えることです。これまでは役所の窓口の受付時間内に申請しなければならず、1分でも遅れようなら再び窓口に足を運ばなければいけないという手間がありました。電子申請なら夜間や休日を問わず、24時間いつでも申請が可能なうえ、ネット環境さえあれば自宅や遠隔地からでも手続きを行えます。
また、複数の手続きを効率的に行える点も大きなメリットです。行政機関の窓口で申請を行う場合、該当の窓口をそれぞれ回らなければならず、必要以上の手間と時間がかかりました。しかし、電子申請ならパソコンの前から動くことなく複数の申請を行えるので効率的です。また、社内のバックオフィスのデジタル化ができていても、外部環境の要因で一部はアナログ業務にならざるを得なかったケースもあるでしょう。しかし、電子申請によって一貫したデジタル対応が実現できるところも利点です。
さらに手数料なども電子納付できるのも嬉しいポイント。これまでは現金での支払いしか対応していなかったため、キャッシュを持ち歩く必要がありました。電子申請ならインターネットバンキングはもちろん、モバイルバンキングやペイジー対応ATMも利用できます。現金を持ち歩く必要がないので安心です。窓口に行ったり、郵送したりするコストの無駄を省けます。
電子申請の義務化
以前にも申請の電子化を促進するさまざまな施策が進められましたが、それらはCD-Rなどの電子媒体での提出を含めた義務化でした。つまり、書面以外での提出も認めるという内容です。しかし、CD-Rの提出の場合、結局窓口に足を運ばねばならず、手間暇を削減しきれているとは言えませんでした。
行政手続きのデジタル化の動きは、2017年3月に政府全体で行政手続きの簡素化や規制改革、IT化を一体的に進めるために、行政手続簡素化の3原則(①行政手続きの電子化の徹底/②同じ情報は一度だけの原則/③書式・様式の統一)や重点分野、削減目標などの方針を打ち出し、各省庁で基本計画が策定されたことで大きく進展しました。
なかでも厚生労働省は、バックオフィス業務と関連の深い社会保険・労働保険の一部の手続きを行う場合には、大企業に対して2020年4月1日から電子申請を義務化することを発表しました。義務化による変化としては、CD-Rなどの電子媒体は認めず、電子申請のみが認められる方針であることです。ちなみに電子申請が義務化される「大企業」とは、下記のいずれかに当てはまる法人のことを指します。
【大企業の条件範囲】
- 資本金または出資金額が1億円を超える法人
- 相互会社(保険業法)
- 投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
- 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)
上記で注目すべきは1つ目の「資本金または出資金額が1億円を超える法人」の項目です。中小企業であっても資本金または出資金額が1億円を超える企業もあります。そして、その場合も電子申請が義務化される点には注意が必要です。また、すべての行政手続きにおいて電子申請が義務化されるわけではありません。電子申請が義務化される社会保険・労働保険に関する手続きは次の通りです。
健康保険/厚生年金保険 |
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労働保険 |
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雇用保険 |
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電子政府の総合窓口「e-Gov」
電子申請の普及を促進させるため、政府は行政情報のポータルサイト「e-Gov(イーガブ)」を開設しています。e-Govは、各府省がインターネット上に行政情報を提供し、オンライン申請や届け出など行政手続の窓口サービスが行える行政のポータルサイトです。行政情報や個人・企業向けの行政手続案内などを横断的に検索・閲覧することができます。オンラインで申請した手続きに関しては、公文書もオンラインでのデータ取得が可能です。
「e-Gov」の電子申請をより使いやすく・スムーズに
特定の法人での社会保険・労働保険の一部の手続きの電子申請義務化に伴い、同じタイミングでe-Govの導入も義務化されました。当初はe-Govを活用することで業務効率がアップし、バックオフィスの担当者も楽になるという算段でした。しかし、実は「e-Govは使いにくい」「紙のほうが楽だ」という声も挙がっているようです。バックオフィス部門の担当者がe-Govを活用した電子申請をする際のストレスの要因としては、以下が挙げられます。
【e-Govを活用した電子申請のストレス】
- 申請書様式の入力欄が狭く使いにくい
- 手続きの進捗を把握しづらいため、手続き漏れのリスクが発生しやすい
- 不備があって申請差し戻しになった場合、個別の確認が面倒だ
- 自社システムの様式(ソフトウェア)では電子申請ができない
- 手続き中に、何度もログインする必要がある
- 「問合せ番号」を忘れたら照会できなくなる
上記の理由もあり、世の中の企業にe-Govがあまり普及していませんでした。しかし、電子申請が義務化となったため、e-Govを使いこなす必要があります。そこで活用すべきなのが「外部連携API」です。APIとは「Application Programming Interface」の略称で、あるアプリケーションの機能を第三者と共有するための窓口とイメージすると良いでしょう。
たとえば、自社で使っている労務会計ソフトで作成したCSVデータをインポートするだけで、e-Govの申請書を作成できたり、一括申請などで漏れ防止や書き方をナビゲートしてくれたりするシステムもあります。
e-Govはユーザビリティの面ではまだまだ改善の余地があるでしょう。しかし、外部連携するシステムは民間企業が作ったシステムなので、分かりやすくて使いやすい点が特徴です。また、Windowsにしか対応していなかったe-Govも、外部連携APIを使えば他のOSでも申請が可能になります。これにより、電子申請によるストレスのほとんどは解消できるはずです。
2020 年 10 ⽉に電子帳簿保存法が改正
2020年4月から特定の法人について社会保険・労働保険に関する一部の手続きの電子申請が義務化されたことに続き、2020年10月には「電子帳簿保存法」も改正されます。電子申請を行ううえで、注文書や請求書などの税務申告に必要な伝票類の電子化には、電子帳簿保存法が大きく関係します。電子帳簿保存法とは、その名の通り電子書類を保存するうえでの取り決めを定めた法律です。
改正前は電子書類を保存する場合、次のいずれかで行うことが定められていました。
- 電子保存する企業(受取側)がタイムスタンプを付与する方法
- 改ざん防止のための事務処理規定を作成して運用する方法
上記の内容が法改正によって次のように変わります。
- 発行者側でタイムスタンプを付与していれば、受け取り側はタイムスタンプを付与しなくても保存できる
- ユーザーが自由にデータを改変できないシステム(クラウドサービス等)を利用すれば、他の処置を行わず保存できる
法改正によって大きく変化した点は、電子書類を取り扱うハードルが大きく下がった点です。たとえば、タイムスタンプを付与しようと思った場合、改正前は認定タイムスタンプ提供事業者が提供するタイムスタンプを付与する必要がありました。そのため、電子書類の受け取り側はベンダーが提供する有償の認定タイムスタンプサービスを利用しなければならず、電子書類の受け取り側の大きな弊害となっていたのです。法改正により、発行者側がタイムスタンプを付与していれば、受け取り側はスタンプ付与する必要がなくなり、コスト面の負担も軽減されました。
経理業務の業務効率化とコスト削減につながる
電子帳簿保存法の改正により、これから書類の電子化が加速度的に普及されていくことが予想されます。電子申請によって紙での手続きがなくなることで、管理コスト・工数が軽減できます。紙の原本で書類を保存する場合、保管するためのスペースも必要であり、ファイリングなどの作業もしなければなりません。拠点が複数あるような大企業ともなれば、原本を郵送するコストと手間もかかります。電子書類にすることで、それらのコストを削減できるでしょう。
また、紙の場合は紛失リスクも考えられますが、電子書類ならそもそも実物がないので、紛失したり火事などで消失したりすることはありません。さらに経費精算システムを使えば、電子書類をシステムにアップロードする際に、金額や日付を読み取って自動で申請用のデータを作成してくれる機能もあります。さらに自宅や外出先からでもスマホで領収書を撮影してアップロードできるので、申請漏れや遅れを減らすこともできます。
電子申請について今後も積極的に情報収集すべき
電子申請に関する方法や法律は今後も大きく変わることが予想されます。現状は電子申請が義務化されているのが大企業だけですが、今後はすべての企業が対象になるでしょう。業務効率や行政コスト削減を目指す意味でも電子申請はすべての企業において重要になります。
従来までの紙での手続きに慣れている方にとっては、電子申請はとっつきにくい面があるかもしれません。しかし、一度やり方は覚えれば何倍も業務スピードを高められる可能性があります。昨今ではリモートワークで働く方も増えているので、義務化の対象ではない企業であっても、これを機に電子申請に乗り換えてみてはいかがでしょうか。また、これからも電子申請に関わる法律の改正は行われるはずなので、積極的に情報をキャッチアップしていきましょう。