労務費とは?定義や具体例を解説労務費とは、人件費のうち「製品やサービスを製造・制作するのにかかったコスト」のことをいいます。例えば、製造部門で働く従業員に支払う賃金(給与)や手当、賞与、社会保険料が該当します。製造部門というと製造業がまずイメージされますが、ここでの「製造」は、物理的に商品を製造するだけではなく、コンテンツの制作やコンサルティング・開発などプロジェクトに関与することなども含まれます。業種や職種によって何が労務費にあたるのかが多少異なりますが、「売上を生み出す製品やサービスの製造・制作に携わった従業員に係る給与等の費用」と考えると良いでしょう。簿記の観点から労務費を説明すると、労務費は製造原価の1つであり、工業簿記で使用される勘定科目です。▼労務費の位置づけイメージ上記の図の通り、労務費はさらに「直接労務費」「間接労務費」に分けられます。直接労務費労務費のうち、直接製造や制作に携わった従業員に対する労働コストです。製造・制作・建設などの作業時間に係る費用のことを指します。間接労務費製造や制作に関連する労務費のうち直接労務費を除いた費用のことをいいます。材料の運搬や待機した時間、現場監督に係る費用なども含みます。商品を仕入れてそのまま販売する企業では労務費を意識することは少ないかもしれませんが、製品やサービスを製造・制作する製造業や建設業、ソフトウェア開発業、コンサルティング業などでは、原価管理や見積もり作成のために、労務費を正確に把握することが求められます。労務費を正しく理解することは、精度の高い人件費予算や他社への見積もりの算出に欠かせません。ここからはより詳しく、労務費の内訳について解説します。労務費と人件費の違い労務費と人件費は従業員に係る労働コストという点で同じように思えますが、労務費は人件費を構成する1つの要素と考えると良いでしょう。人件費は、全従業員に支払う給与手当や法定福利費(社会保険料)といった複数の勘定科目の総称をいいます。人件費の中に労務費も含まれます。原価計算における会計処理では、人件費をどの部門の従業員に支払ったかに応じて、労務費・販売費・一般管理費に区別して計上します。人件費労務費商品の製造やプロジェクトに関与した従業員への給与・賞与・法定福利費など販売費営業や販売部門で働く従業員への給与・賞与・法定福利費など一般管理費総務や経理部門で働く従業員への給与・賞与・法定福利費などつまり人件費のうち、商品の製造やプロジェクトに関与した従業員への労働コストのことを、労務費と呼びます。労務費の内訳となる5つの費用労務費は次の5つの費用で構成されます。賃金(給与)・割増手当雑給賞与・各種手当退職給付費用法定福利費労務費の内訳についてそれぞれどのような費用か説明します。1.賃金(給与)・割増手当正社員・契約社員といった常時雇用している従業員に支払う給与が該当します。給与のほか、時間外労働・深夜労働・休日労働に対する割増手当も該当します。フリーランスや個人事業主に外注した報酬や、パートアルバイトに支払う給与はこれに該当しません。2.雑給パートアルバイトなどの臨時的に働く従業員に支払う給与・諸手当(通勤手当・割増手当など)が該当します。時給や日給で支払われることが多いです。3.賞与・各種手当正社員・契約社員といった常時雇用している従業員に支払う賞与や諸手当(通勤手当・管理職手当・家族手当など)が該当します。4.退職給付費用従業員の退職金の支払に備えて積み立てている費用や退職給付引当金繰入額のことをいいます。5.法定福利費労働保険料、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などの各保険料の会社負担分のことをいいます。製造・制作の部門で働く従業員については5つの費用すべてが労務費となりますが、製造部門以外の従業員については販売費及び一般管理費となります。▼労務費の内訳と部門による費用分類労務費の内訳勘定科目製造・制作部門の従業員製造・制作部門それ以外の従業員(営業・販売部門、総務・経理部門など)1.賃金(給与)・割増手当給料労務費販売費及び一般管理費2.雑給雑給3.賞与・各種手当賞与4.退職給付費用退職給付費用退職給付引当金5.法定福利費法定福利費【業種・職種別】労務費に該当する費用業種や職種によっては「これは労務費になるのだろうか」と迷われる方もいらっしゃるかと思います。簡単に言うと、労務費とは「自社で雇用している従業員が、自社製品やサービスの製造・生産に関わった場合に支払う費用」です。本章では業種・職種別に、どのような費用が労務費に該当するのかを説明します。製造業製造業は、商品や製品を製造しそれを市場で販売する業種です。製造業での労務費は、製造に携わる従業員の費用を指します。労務費に該当:工場で製造作業や品質管理を行う従業員の給与労務費に該当しない:本社で工場との連絡やシフト管理を行う従業員の給与建設業建設業は、建物や施設の建設・修繕・保守などを行う業種です。建設業での労務費は、施工に関わる従業員の費用を指します。労務費に該当:現場で建設作業や監督業務を行う従業員の給与労務費に該当しない:建設作業を行う外注の職人に支払う報酬プロジェクト型ビジネスコンサルティング業・広告業・士業などの業種や、開発・制作を行う業種など、特定の案件ごとに組織された人員を活用して行われる活動形態のことを、弊社ではプロジェクト型ビジネスと呼んでいます。プロジェクト型ビジネスでは、プロジェクトに携わった従業員の費用が労務費に該当し、売上原価の大半を労務費が占めるという特徴があります。労務費に該当:広告業において、広告の制作を行う従業員の給与労務費に該当しない:広告業において、自社の広告代行サービスの営業を行う従業員の給与プロジェクト型ビジネスの具体例については、「プロジェクト型ビジネスとは|進め方や課題、管理のポイント」記事もお読みください。上記以外の業種・職種上記以外の業種や職種においても、売上の元となる製品やサービスの製造・生産業務に係る従業員の費用は労務費となるケースがあります。労務費に該当:コンテンツ制作の外注先との制作会議を行う従業員の給与労務費に該当しない:コンテンツ制作を外注し、営業活動を行う従業員の給与原価計算では労務費と経費を明確に分ける必要がある原価計算においては、人件費の中で労務費と経費を明確に分けなければなりません。一般的に、経費は企業運営・活動を行ううえで必要な費用のことを指し、人件費・地代家賃・水道光熱費などあらゆる費用を含みます。対して労務費は、これまで説明してきたように、人件費のうちの「商品の製造やプロジェクトに関与した従業員へ支払う費用の労働コスト」のことをいいます。人件費の中で労務費に該当するのは、製造やサービス作成の部分に対して支払う費用です。外部業者に対して支払う人件費は、経費となります。▼労務費と経費の分け方労務費直接労務費直接的に製造に関与した労働者への賃金など間接労務費間接的な作業に対する賃金、給料、退職給与引当金、福利厚生費、法定福利費など経費直接経費外注加工費など間接経費光熱費、通信費、租税公課、旅費交通費など材料費直接材料費材料費、買入部品費など間接材料費補助材料費、(工場)消耗品費、消耗工具(器具)備品費など労務費や経費は、商品やプロジェクトとの関わり方によって、上記のように直接費と間接費に分けられます。間接費直接費・製品製造やプロジェクト開発・販売に直接は関わらないが、間接的に必要となる費用・複数の製品やプロジェクトにまたがって発生することがある・製品製造やプロジェクト開発・販売そのものに関わる費用・ひとつの製品やプロジェクトに紐づいている間接費については「間接費とは?概要や分類をわかりやすく解説」記事も合わせてお読みください。また、原価計算の基本や計算方法については、「正しい原価計算とは?やり方や計算式・目的をわかりやすく解説」記事を参考にしてください。労務費を正しく計算しなければならない3つの理由労務費の計算方法を説明する前に、なぜ労務費を計算する必要があるのかについて説明します。労務費を正確に計算すべき理由は次のとおりです。高精度な人件費予算を策定するため詳細な見積もりを作成するため原価管理を適切に行い、コストの見直しを実施するため労務費を正確に計算することによって正確な原価計算ができるため、高精度の予算や見積もりの作成ができます。さらに、労務費を正確に算出するにあたって、労務費の算出の基準となる労働時間も正確に算出できるようになります。正確な労働時間をベースにして工数の予測と実績を比較し分析を行うことで、無駄な作業を洗い出すことが可能です。そしてその部分を改善し、製造コストの削減に繋げられる可能性があります。労務費を計算するには、製造や制作に関連する時間や工数を正確に把握する必要があります。既存の商品やサービスの場合、過去の実績から標準的な時間や工数を推定できるかもしれませんが、新規プロジェクトの場合、この工数の把握は手間のかかる作業となることがあります。労務費の管理方法については、「コスト管理とは?手法や管理すべきコストの種類などを解説」記事も合わせてお読みください。労務費の計算方法それでは、労務費をどのように計算するのか見ていきましょう。直接労務費と間接労務費で計算方法が異なります。直接労務費の計算方法・計算例直接労務費とは、直接的に製造に関与した労働者への賃金や賞与、法定福利費などを指します。直接労務費を計算する際は、まず賃率と呼ばれる時給を算出し、直接工とされる従業員がいる場合はその従業員が製造に関わった時間に賃率を乗じて求めます。直接工がいない業種・職種については、その商品やサービス製造にかかる工数・時間を求め計算に使用します。次の条件で労働した場合の直接労務費を考えてみましょう。広告制作業の従業員A基本給:30万円時間外労働:2万円月の総労働時間:190時間制作に関わった時間:100時間▼計算式賃率=(基本給+各割増手当)÷総労働時間直接労務費=賃率×製造に関わった時間▼計算例(30万円+2万円)÷190時間=1,684.2円...賃率1,684.2円×100時間=168,420円...直接労務費賃率を計算する際に、時間外労働・深夜労働・休日労働の割増手当を加算する点に注意しましょう。間接労務費の計算方法・計算例間接労務費は、直接労務費以外の労務費費用すべてです。前半で解説した、労務費に該当するで紹介した5つの費用を合計して、そこから直接労務費を除きます。直接労務費(前項)の計算例に下記条件を加えて、間接労務費を算出してみましょう。▼間接労務費の算出条件従業員A制作アルバイトB・基本給:30万円・時間外労働:2万円・通勤手当・業務手当の合計:4万円・退職金の積立:1万円・労働保険料・社会保険料の合計:7万円・直接労務費:168,420円給与:8万円▼計算式間接労務費=「賃金・割増手当」+「雑給」+「賞与・手当」+「退職給付費用+法定福利費」-「直接労務費」▼計算例(30万円+2万円)+8万円+4万円+1万円+7万円=520,000円...労務費総額520,000円-168,420円=351,580円...間接労務費労務費の内訳項目を算出するのが大変かもしれませんが、計算自体は合計して直接労務費を減算するだけとシンプルです。労務費率を使った労務費の計算方法建設業の場合、直接労務費・間接労務費については上記のように計算されますが、法定福利費のうちの労災保険料については「労務費率」と呼ばれる数値を用いて算出します。労務費率は厚生労働省が建設事業の種類別に定めた値です。建設業は数次の請負によって行われるのが一般的です。元請負業者が工事全体の賃金総額を正確に把握するのが困難なため、請負金額に労務費率を乗じて労災保険料を求めることが認められています。▼建設業での労災保険料の計算式労災保険料=請負金額×労務費率▼通常の労災保険料の計算式労災保険料=賃金総額×労災保険料率また、公共事業に携わる建設労働者の場合、実際の給与額ではなく、国土交通省が定めた「労務単価」を用いて計算する点に注意しなければなりません。労務単価は、都道府県や職種ごとに変わります。まとめ|自社における労務費を正しく算出しよう労務費は、商品の製造に係る労働コストのことで商品の製造や制作プロジェクトに関与した従業員への給与や賞与、会社が負担する社会保険料が該当します。労務費の内訳は次のようになっています。賃金(給与)・割増手当雑給賞与・各種手当退職給付費用法定福利費業種や職種ごとに何が労務費に該当するのか紹介しましたが、原則として「売上を生み出す製品やサービスの製造・制作に携わった従業員に係る給与等の費用」と理解しておくと良いでしょう。「経費」についても、一般的には経費が労務費を包括しますが、原価管理においては製造原価として直接労務費が労務費、間接労務費が経費と明確に区別されます。▼直接労務費の計算式賃率=(基本給+各割増手当)÷総労働時間直接労務費=賃率×製造に関わった時間▼間接労務費の計算式間接労務費=「賃金・割増手当」+「雑給」+「賞与・手当」+「退職給付費用+法定福利費」-「直接労務費」労務費を正しく算出するには製造に係る時間・工数把握が求められ、それが手間となる場合もあります。しかし、正確に労務費を計算することで精度の高い予算・見積もり作成やコスト削減が期待できます。ぜひ自社の労務費を認識し正しく算出できるようにしておくと良いでしょう。労務費の算出にあたってはシステムの導入もご検討ください。